メリエ編 12
ユーグとマルザ教回帰派の協力関係が結ばれて数日後。
ユーグは改めて話をまとめるため、ブランツ王国においてマルザ教回帰派が拠点としている街、サザネアへと向かう事となった。
回帰派から来た三人の迎えと合流し、ユーグとメリエとの計五人。馬車に乗ってサザネアへと向かっていたのだが、現在、その馬車の中は険悪な空気に満ちていた。
(先が思いやられるなぁ…)
先行きを不安視しているメリエの眼前には、互いに向かい合うユーグと回帰派の修道女。修道女の方は敵意を剥き出しにしてユーグを睨み、ユーグはそれを見下す様に眺め、護衛らしき男の一人がそれをなだめ、もう一人の護衛らしき男は呆れた様子、メリエはそれを不安そうに見ていた。出会ったばかりの二人が現在絶賛ケンカ中なのだ。
事は一時間程前にさかのぼる。
ユーグは馬車で移動する最中、回帰派の資料を眺めていた。一応既に目を通した資料だが、現状の再確認と暇つぶしのために見ている感じだ。
そんなユーグに同行している修道女が話しかける。
「改めて、この度の支援の決定、お礼申し上げますユーグさん」
彼女の名はフェルテ・エルシオン。歳は確か19と言っていた。小柄な体格で、肌を見せない服を着ていても一目で分かる程に痩せている。ウェーブのかかった髪が腰まで伸びており、それが彼女をさらに小柄で幼く見せている。一見幼い子供の様に見えてしまう女性だ。
彼女は回帰派の修道女で、普段は貧困層支援の現場で働いている。今回はユーグを迎えるために来たとの事。
そんなフェルテの礼にユーグは当然だといった態度で返す。
「まぁ、他の街とは言え国の産業がつぶれるのは銀行を運営する立場としても困るしな」
一方フェルテは尊敬の眼差しをユーグに向ける。
「それでも、私財を投じてまで他の街の人達を救おうなんて、立派な事ですよ」
その言葉にユーグの顔は怪訝な表情へと変わった。聞き捨てならない発言だ。
「ん?何言ってんだ?」
フェルテは首を傾げる。
「え?資金提供してくれるのではないのですか?資金不足を解決するとの事でしたし…」
「あいつら…ろくに情報共有もできんのか…」
どうやら回帰派の人達はちゃんとユーグの事を伝えていなかったらしい。彼女はユーグの事を慈善家か何かだと勘違いしている様子。
額に手を当て、ため息を吐いた後、ユーグは言葉を続ける。
「あのなぁ、俺は営利団体なんだぜ?今回の協力も、こっちの利益になりそうだから賛同したにすぎん」
フェルテは焦る。
「じゃ…じゃあ稼げない様な人は助けないと?」
「正確には、紙幣の価値を上げるのに貢献しない奴は助けないって感じだがな。俺はあくまでビジネスマンだ。慈善家じゃない。利益に繋がる奴は助けるが、利益に繋がらん奴は助けんよ」
「そんな…それじゃあこれまでと変わらないじゃないですか!」
狭い空間でこの空気。さすがにほっとけないと護衛の一人が口を挟む。
「まぁまぁ、フェルテさん。利益に繋がる所は手伝ってくれるという話なんですから…」
メリエはユーグに顔を向け注意する。
「ユーグさんもですよ。そんな言い方しなくても良いじゃないですか。これから協力関係を結ぼうって相手なんですし」
(まったく…この人はなんでこういう態度とっちゃうかなぁ…)
しかしユーグは止まらない。
「いや、ここはハッキリと言わせてもらう。無計画な支援は産業を破壊し貧困を固定化させ、かえって助けるべき人の迷惑になるんだよ。そして今の回帰派がやってる支援はその迷惑になるやり方だって言ってんだ」
フェルテはムッとしムキになった様子で言い返す。
「かえって迷惑って…。私達の支援を受けた人達は喜んでくれていましたよ?」
ユーグは嘲笑い言葉を返す。
「貧困層への支援は喜ばせるためにやってんじゃねぇだろ。自立させるの後回しにして助ける側が気持ちよくなってどうするよ」
グヌヌと悔しそうな表情のフェルテ。しかしそれでも引き下がる様子は無く、そこからあーだこーだの言い争い。そして現在の睨み合いの状態に至る。
しばらく二人は張り合っていたが、ユーグはそろそろ終わりにしようと言わんばかりに言い放つ。
「じゃあ見せてやるよ。貧困層に本当に必要な支援ってやつをな。そして助けてやるよ、お前らが助ける事が出来なかった貧困に苦しむ人達をな」
フェルテは再びムッとした表情。
「えぇ、見せてもらいましょうとも。貴方のご立派な支援策ってやつをね」
そんな険悪な様子の二人を見てメリエは頭を抱えた。
(もう何やってんだよー。これから手を結ぼうって相手とケンカしてもやりにくくなるだけじゃんかー。もー!)
こんな先行き不安な心情の中、一行は回帰派の拠点のある街サザネアへと到着した。




