メリエ編 11
回帰派の3人が帰った後、ユーグは数名の職員を一室に集めた。職員の中でもそれなりの年齢で貫禄もある、恐らく銀行で役職的な立場の人達に違いない。
ユーグは回帰派との会話の内容を話し、マルザ教回帰派と協力して他の街の通貨不足の問題解決に協力する旨を伝えた。
突然の招集、そして回帰派と協力する事が唐突に決まったにも関わらず職員達に一切動じる様子は無い。こういった急な決定は慣れているのか、それとも他所を支援する様な事態を予想し、予め話し合っていたかのどちらかだろう。
同席している白髪の高齢男性の職員は落ち着いた様子でユーグに問う。
「では、あなたの策を本格的に進める時が来たという事ですかな?」
「あぁ。これより策の第三段階に入る。元は他の街からの要請を想定していたが、マルザ教回帰派からの要請。想定よりも早く計画が進みそうだ。これから忙しくなるぞ」
ユーグの答えに集まった職員達は「おー」と喜びを込めた声を上げる。そして「ついに始めるのですね」「これからだな」「ですね」といった意気込みの声が続く。
なんかこれからやってやるぞ!的な空気。そんな中、部外者のメリエは困惑していた。
「えっと…。これから何を始めるおつもりで?」
ユーグは当然だろといった風に返す。
「何って、紙幣を本格的に流通させるって話だが?」
「いやそれは分かります。聞きたいのはその第三段階ってなんだろうって話で…」
「あー、それは紙幣を流通させる作戦、その進捗度の事だ。第一段階は紙幣の元となる小切手の発行し、俺が流通させる小切手を価値ある物と認識してもらう。第二段階はその小切手を街限定の通貨として流通させる。そして第三段階は紙幣を街の外へと進出させ、紙の通貨を他の街でも通用する代物へと変えていく。今はその第三段階に来てるって訳だ」
(なるほどねぇ、順調に作戦進行中って感じか。この感じだとさらに先の事も考えてそうだなぁ)
「で、これから俺も他所の街や村へ出向き交渉を進めていく事になる。フィレーゼから離れる事も多くなるが、皆には俺が居ない間銀行の経営や紙幣の管理を任せる事になる。支援の対象が広い分俺が居ない期間も多くなるが、業務は今まで通り頼んだぞ」
ユーグの言葉に「はい!」と威勢の良い複数の言葉が沸く。そんなやってやるぞ!的な雰囲気の中、メリエは再び困惑する。
「え?ユーグさんが他所へ行くんですか?部下に行かせるとかじゃなくて?」
「あぁ。まぁ俺だけじゃなくて他に何人か職員も向かわせるがな。俺はいつも自分の目で現場の状況を確認している。組織のトップが現場を知らなきゃ適切な策は打ち出せんからな」
組織のトップというのは本部で指示を出すものだ。トップが出向かなければならない場面でないなら、普通は部下を向かわせるもの。けれどユーグは普通とは違い、組織のトップ自らが積極的に現場に出向くらしい。
(そういや、この人って結構現場主義なんだった。融資も自分で出向いていたし。って事は、これからユーグさんは各地を転々を巡っていくのかな?)
メリエが今後の事をあれこれ考えている中、てきぱきと話が進められていく。
今後紙幣の経済圏がどうなっていくのか、ユーグが居ない間誰が何の役割をこなすのか、問題が起きた時にどういった対処をするのかを話し合った。その話し合いで、職員達は自分達の策が順調に進んでいる事を実感し晴れた表情を浮かべている。
一方メリエは曇った表情。
(あれ?待てよ。もしかしてこれ、私もユーグさんと一緒に各地を転々としなきゃいけないって事?)
マダンからはユーグ・リーデンと共に行動し彼の活動内容を記録し報告する様に言われている。銀行の業務内容ではなく、ユーグ・リーデン個人の行動を報告する様に言われているのだ。つまり、ユーグがこの国の各地を巡り行くのなら、メリエもそれに同行しなければならないという事になる。
いきなり出張しなければならなくなった。とても気が重い。
こうしてユーグの言う所の第三段階の策が進められる事となった。出張しなければならなくなって面倒な気持ちではあるけれど、策は順調との事だし、まぁ良かったと見るべきか。




