第26.2章:リバダビス王国の精鋭たち
天井の防壁がエネルギーを吸収して激しく鳴り響く。
「はいはい……そこまで。終わりよ、幕引き」
ビアンカは平板に言い放ち、二人をパッと放した。その瞬間、激しい戦いは唐突に幕を閉じた。十二人の絶対的な権威によって下された、非情なるテクニカルドロー。
「え? そんなに早く止めちゃうのか……?」
ローズは、審判のあまりにも唐突な介入に戸惑い、パチパチと瞬きをした。
「マルセリンのプライド(イメージ)のためには、これが最善の判断だ」
五条が、空気を切り裂くような冷徹な声音で横から言い放った。
「ラウの『ネクロエクスタシス』は、彼女のものより遥かに完成度が高い。このまま試合を続けさせていれば……マルセリンは全観客の前で、屈辱的な完全敗北を喫していただろうな」
――まさか。あの強いマルセリンでさえ、手も足も出ないなんて……。
「五条、目覚めたばかりの少年の気落ちを誘うようなことを言うな」
スワッチ修道僧が苦笑しながら口を挟み、ローズの背中をポンと力強く叩いた。
「さあ、次は君の番だぞ、ローズくん」
リリアが一歩前に踏み出し、両拳を強く握りしめ、決意に満ちた瞳を輝かせて叫んだ。
「ローズ、君なら絶対にできる! 自分の本当の実力を、あの生意気な奴らに見せてやれ!」
「僧侶……俺の相手は、どんな奴なんですか?」
すでにリングへと、地響きを立てながら歩み寄っている一人の巨人を眺めながら、ローズは低く尋ねた。
「バルドゥルは、リバダビス王国の遥か北にある『テン・スピアーズ(十の槍)』という荒々しい国からやって来た戦士だ」
僧侶は、一瞬だけいつもの陽気さを崩して厳粛に説明した。
「彼の肉体的な怪力は圧倒的だ。だが、彼を真に『生ける悪夢』たらしめている理由は、別のところにある……」
「それは……何ですか?」
「奴が、完全なる『不死身』だということだ」
「「えっ……!?!?」」
ローズとリリアの叫び声は、信じられないという驚愕の一斉の反響となってコロシアムに響き渡った。
*
【不死身の悪夢、暴走する狂気】
「気をつけたまえ」
黄金の玉座から、ジリ・アルカが宮殿の巨大な大理石の柱を震わせるほどの絶対的な威厳をもって命令を下した。
「ローズくん、バルドゥル。中央へ」
ローズは、一歩踏み出すごとに身体に1トンもの重圧がかかっているかのような緊張感の中で前進した。過去に多くの怪物や強大な戦士たちと戦ってきたにもかかわらず、リバダビス王国のトップである『十二人組』の冷徹な視線に晒されるプレッシャーは、喉元を締め付ける硬い塊のように感じられた。勝たなければならない。彼に選択肢はなかった。
「 そうか、お前があの噂のフローレス(出来損ない)か……」
バルドゥルが言った。その巨体から放たれる質量感は圧倒的だった。全身の筋肉を覆う不気味で複雑な刺青が、まるで生き物のように皮膚の下で不気味に脈動している。
「俺……君の気持ち、すごくよく分かるよ。さっきの二人みたいな、派手で格好いい破壊的な魔力なんて俺にはないからさ。ただ、人よりちょっと頑丈なだけなんだ。……なあ、友達になろうぜ? どうだい、フローレスくん?」
巨人の予想外の親切な言葉に一瞬だけ圧倒され、ローズは運命的な一瞬だけ油断し、右手を差し出そうとした。
「えっと……うん、それなら……」
「――避けろ!!!」
耳をつんざくような他人の咆哮が、彼の脳裏に鋭く轟いた。ローズは純粋な野生の生存本能だけで反応し、自らの胸を容赦なく貫こうとする巨拳の鋭い風圧を感じながら、最後の千分の一秒という極限のタイミングで身を深く屈めた。
――ザシュッ!!!
「チッ、すばしっこいな、小僧」
バルドゥルは片方の口角を醜く吊り上げ、手入れの行き届いていない黄ばんだ歯を剥き出しにして笑った。
「だが……甘いんだよ!」
「くそったれ……! 『万丈の鎧:兵卒』――ッ!!」
ローズの首にある紫色の首飾りから、漆黒の液体金属が凄まじい勢いで噴出し、驚くべき硬度を持つ黒鋼の爪が少年の上半身を一瞬で包み込んだ。観覧席の群衆から、一斉に驚きと不審の囁きが沸き起こる。
「フローレスのクズが、あのレベルの古代遺物を操るなんて……あり得ない!」
ローズは猛烈な勢いで踏み込み、漆黒の爪の嵐をアリーナに巻き起こした。しかし、その必殺の一撃一撃は、巨人の外科的なまでの戦闘直感によって完璧に読み切られており、バルドゥルは最小限の動きだけでそれらをことごとく回避していった。
「遅すぎる。真の『力』の格の違いを教えてやる!」
その直後に炸裂した衝撃は、あまりにも破壊的だった。無防備な腹部への強烈な直撃パンチによってローズの肺からすべての空気が強制的に引き剥がされ、続いて両手で脳天へと振り下ろされた容赦のない一撃が、地震のような衝撃と共に少年をアリーナの床へと叩きつけた。
ドスゥゥゥンッ!!!
「うっ……『城塞』――ッ!!」
液状の金属は瞬く間に形状の流れを変え、重厚で粘り気のある重装甲へと変化し、床に激突する最後の衝撃の大部分を肉体に代わって吸収した。
「チッ、お前もなかなか頑丈じゃねえか、えあァ!?」
ローズも引くつもりは毛頭なかった。超至近距離の密着状態を活かし、一瞬で内部の分子構造を変化させる。
「『司教』――ッ!!」
極限まで加速した推進スピードを利用し、ローズはバルドゥルの顎の先端に向けて、大岩をも粉砕する破壊的な膝蹴りを直撃させた。
――バキィィィンッ!!!
骨が粉々に砕け、関節が歪にずれる不快な乾いた音が、本部の観客たちを興奮で沸き立たせた。
「 これでも、喰らいやがれ……!! 」
ローズは低く呟き、距離を取るために後方へと大きく跳び退いた。だが――。
「ハハハハ! いい一撃だ! これだよ、これでようやく生きている実感が湧いてくるぞ!」
バルドゥルは狂気じみた大笑いを上げると、不気味で血まみれの骨の軋み音を立てながら、自らの手で砕けた顎を強引に元の位置へと押し戻した。肉体は一瞬にして再生していく。
――これだけ綺麗に顎を砕いても、ノックアウトできないのか……!?
恐怖の冷たい感触が、少年の血管へとジワジワと染み込み始めていた。しかし、それを精神で消化する暇すら与えられない。バルドゥルは瞬く間に肉薄して距離を詰め、空中でローズの首を容赦なく掴み上げると、上下をひっくり返してひび割れた舗装へと真っ逆さまに叩きつけた。
ドーーーンッ!!!
もうもうと立ち込める瓦礫と泥、そして破壊の衝撃が生み出した濃い灰の塵の中、ローズの正気の奥底にある何かが、ついに音を立てて木っ端微塵に砕け散った。彼の心の最後の防壁が崩れ落ち、これまで溶けた金属の底に厳重に閉じ込められていた、悍ましい「無数の呪いの声」たちが、逃げ出す隙間を見つけて一斉に脳内で叫びを上げた。
『殺せ!』
『この忌々しいクソ野郎を間引け!』
『神々の祝福など受ける資格などない出来損ないめ!』
『殺せ……全員、一人残らずブチ殺せ!!』
「うっ……が、あああああぁッ!!!」
ローズは両手で頭を狂ったように抱え、純粋な精神的苦痛の絶叫を上げた。 『ボードアーマー』の内側に宿る、世界を呪うマインド・ネクロフローは、少年の激しい苛立ちと心の弱さを極上の餌として貪り、その精神を激しく侵食し始めたのだ。




