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第26.1章:リバダビス王国の精鋭たち

【絶対強者の玉座、筆頭の威容】


『神聖本部』の黄金宮殿は、永遠の富を誇示する巨大な記念碑のように彼らの眼前にそびえ立っていた。しかし、その外見の壮麗さなど、内部に漂う圧倒的な武の気配の前では一瞬にして色あせて見えた。ローズは心臓を激しく高鳴らせながら、豪華な回廊沿いに整然と配置された戦士たちのシルエットから目を離すことができなかった。


――わあぁぁ……! これが、大陸最強を誇るリバダビス王国の精鋭たちなのか……!?



「ようこそ、ベネシアからの訪問者たち。そして我が『十二人組じゅうににんぐみ』が9番目、『黒の将軍』ハナ」


広間の奥深くから響いた、深く、地響きのように穏やかな声が、ローズの思考を鋭く遮った。純金の机の後ろにそびえ立つ、豪華な彫刻が施された巨大な玉座。そこに悠然と腰かけていたのは、『十二人組』の絶対的筆頭――ジリ・アルカだった。


その外見は一見すると穏やかで優雅。だが、その底知れない瞳に見つめられた瞬間、背筋に凍りつくような威圧感が走る。


「またお会いできて嬉しいよ。スワッチ僧。そして五条ゴジョ。さらにベネシアの『舞姫ダンサーズ』より、第二冒険師マルセリン・ダークネス、そしてリリア……」


ジリはそこで言葉を区切り、長い髪を濡らした一人の少年の方へと鋭い目を細めた。その一瞬の視線だけで、広間の空気が凍りつく。


「……私の見間違いではないな? ネクロフローを宿さぬ、『フローレス(無能力者)』か?」


その言葉が引き金となり、本部のギャラリーを埋め尽くしていた群衆の間から、激しい不満と侮蔑のざわめきが爆発的に沸き起こった。


「フローレスだと!? 魔力を持たねえクズが、この神聖な本部に何しに来やがった!」


「神聖な議事堂を汚すな! 今すぐここから叩き出せ!!」


「――場内静粛に」


ジリの静かな声が、沸き立つ騒音を力ずくで押し潰すように響いた。その表情には、微動だにしない絶対的な冷静さが漂っている。


「スワッチ僧……彼をこの最高会議の場まで連れてきたのには、何かそれ相応の重大な理由があるのだろう?」


「ジリ・アルカ殿、その通りだ」


老僧スワッチは厳粛に一歩前に踏み出し、凛とした声で答えた。


「この少年の名はローズ。これより行われる『御前試合エキシビションマッチ』に出場させる」


観覧席からは、再び激しい嘲笑と軽蔑的な野次が轟いた。だが、ジリが僅かに目を向けただけで、再び大気が重く凝り固まり、ざわめきは瞬時に静まり返った。体格的に威圧感があるわけではない。しかし、その内側から溢れ出るオーラは文字通り別次元だった。


――あれが、世界最強の『十二人組じゅうににんぐみ』のトップなのか……?

ローズは息を呑み、ゴクリと喉を鳴らした。

――僧侶やハナ将軍みたいな肉体的な威圧感はない。だけど……この男の前に立つだけで、魂が押し潰されそうだ。


「なんて可愛らしいドラゴンなのかしら~!」


その頃リリアは、張り詰めた政治的な緊張など1ミリも気に留めることなく、ジリの純金の机の横で威風堂々と翼を休めているその幻想的な生き物に目を輝かせて釘付けになっていた。


「なるほど……さて、ちょうど『大共生典礼シンポジウム』の詳細について議論を交わそうとしていたところだ」


ジリは淡々と続けた。


「エキシビションの代表は、マルセリン殿とローズくんになるわけだな?」


「ああ、その通りだ」


「ふむ。どうやらレモンも一成イッセイもここには来ていないようだが……彼らの不在についての不穏な噂は、後でじっくり話すとしよう。試合はこの中央コロシアムで行う。対戦カードは、マルセリン対ラウ。そして、ローズくん対バルドゥルだ」


――え? 試合はたったの2つだけなのか?


ローズは闘技場の広大さを眺めながら、不思議そうに眉をひそめた。


「構造的な損傷については心配に及ばない」


空気に漂う少年の疑問を正確に読み取って、ジリが静かに付け加えた。


「この会場は、我が王国が誇る最高のドワーフ職人たちが一瞬で修復する。それゆえ……さあ、始めよう! マルセリン、ラウ、前へ」


*


【影と音の舞、カリブの旋律】


マルセリンは舗装された白大理石のアリーナの中央へと歩みを進め、その深紅の瞳を対戦相手へと向け続けた。


――ふむ、ラウか。なんだか派手なアイドルみたいだな……。あの服装、戦場にはちょっと軽薄すぎるぞ。


対峙するラウは、ステージに立つスター特有の、人を魅了する独特なオーラを全身から放っていた。片方の口角を不敵に上げて微笑みながら、彼は吸血鬼の少女を見つめ、どこかリズムを刻むような滑らかな口調で語りかけてきた。


「ハッ、お嬢ちゃん(マルセリン)……。確かにすげえ可愛い吸血鬼だけどさぁ、その戦い方はちょっと品がねえな(ダサいね)」


「……何だと?」


マルセリンは奥歯を噛みしめ、傷つけられたプライドによって体内の真祖の血が激しく沸き立つのを感じた。


「ネエちゃんを、本物の最高なステージ(スター)らしく見せてやるよ」


ラウは高級なジャケットの襟を優雅に正し、サングラスの位置を直しながらそう付け加えた。


「くそったれが……!」


「マルセリンの奴、あんなチャラついた男相手に大丈夫なのか……?」


待機エリアから、ローズは心配そうにアリーナを見つめていた。


「試合の終了、勝者の決定、あるいはテクニカルドローの判定はすべて審判に委ねる」


ジリが高所から厳かに告げた。


「この試合の裁きを下すのは、『十二人組』が8番目――ビアンカだ」


「えーっ!? 嫌だ嫌だ! つまんない!」


アリーナの脇から、少女ビアンカが心底退屈そうに不満の声を漏らした。


「しっかりやってくれないと、ローズゴールドの特製アイスクリームは諦めてもらうことになるよ」


ジリが全く抑揚のない平板な口調で冷酷に警告する。


「う、うーん……分かったわよ、やればいいんでしょ! もう!」


ビアンカは諦めたようにフンと鼻を鳴らすと、二人の戦士を鋭く見据えた。


「ええ、ええ、公正で面白い戦いを見せてよね。……始めなさい!」


審判の声が、巨大な鐘の響きのようにコロシアムの壁に反響した。その瞬間、マルセリンは一瞬の猶予も与えずに地を蹴った。


「 『緋色の斬撃スカーレット・スラッシュ』!! 」


ダイヤモンドのように鋭利な深紅のプラズマの弧が、空間ごと敵を真っ二つに切り裂くかのような絶大な速度で空気を切り裂いた。しかし、ラウはリラックスした姿勢を微動だにさせない。その得意げな笑みは、このステージを完全に支配している者の絶対的な自信を物語っていた。


「 ――ムムム……ドォォォッ!!」


彼が深く、まるで重低音の音楽のような響きでそう叫んだ。

次の瞬間、彼の眼前で、極めて純粋なネクロフローの音響振動波が爆発的に湧き上がった。焼き入れ鋼さえも容易に両断するはずのマルセリンの血の刃は、目に見えない不可視の重低音の壁に激突し、跡形もなく無害な赤い粒子へと粉砕されて散り散らされた。


「えっ……!? くっ……!」


マルセリンは、その凄まじい音響振動の衝撃を自らの骨の奥に直接感じ取り、たまらず一歩後退した。


「お嬢ちゃん……」


ラウは自身の身体の軸を中心に、まるでダンスを踊るかのように滑らかに反転し、優雅に彼女へと手を伸ばした。


「君のその力、純粋な芸術としては最高だ。だけどさ、ちょっと音程がずれてる(テンポが悪い)。完璧な舞台(演出)ってやつを、俺が直々に教えてやるよ。――ソー!!」


黄金色に輝く波状のネクロフローの球体がいくつも飛び出し、空間を激しく歪ませながら突進した。マルセリンは種族特有の超人的な敏捷性で紙一重で横へ跳び退いたが、着地した瞬間、再び耳をつんざくような音速の轟音が響く。放たれた球体は空中で180度急回転し、彼女の死角である背後から戻ってきたのだ。


――追尾してきているの!?


その必中の誘導弾を完全にかわすことは不可能だと本能で悟り、彼女は攻めこそが最善の防御だと決断した。


「それなら……これならどうよ!」


すぐ後ろに迫る黄金の球体を一切無視し、彼女はラウの胸元に向かって真っ直ぐに飛び込んだ。両手は濃密な血のプラズマに包まれ、恐るべき一本の武器へと凝縮されていく。


「 『緋色の結晶剣クリムゾン・ブレード』!! 」


「へへへ……ファッ!!」


ラウは軽くステップを踏みながら鼻で笑った。真祖の血の剣が自らの胸へと突き刺さろうとしたまさにその刹那、彼は完璧な横へのダンスステップでその一撃をいなし、マルセリンの突進の勢いをそのまま利用して、まるで擦れ違うように剣の刃をすり抜けた。


マルセリンは激しい苛立ちを露わにし、血走った紅い瞳で振り返ると、息つく暇もなく怒涛の突きを繰り出した。一撃一撃が純粋な暴力の赤い軌跡を描くが、ラウは絶望的なほど滑らかにアリーナを動き回っていた。まるでミュージックビデオの振り付けをこなしているかのように、自身のスタイルを1ミリも崩すことなく、最小限の動きで回避していく。


「プレッシャーをかけすぎだよ、ネエちゃん(マミー)。もっとリラックスして、俺のビート(流れ)を感じなよ」


ラウは音速の速さで彼女とすれ違う際、その耳元で挑発的にそう囁いた。

マルセリンは完全に理性を失い、我を忘れた。彼女の双眸は明確な殺意に満ちた深紅に輝き、そのオーラの風圧によって白大理石の床にバキバキと無数のひびが入り始めた。


「黙れぇぇッ! 『ネクロエクスタシス:サンギス』……!!」


「おぉっ?! ハハ……最高だね! 『ネクロエクスタシス:ヨセイノ』……!!」


二人の絶大な『ネクロエクスタシス』が真っ向から衝突しようとし、空間そのものがグニャリと歪み始めた、まさにその時――。


アリーナのすべての音が、突如として完全に消失した。


『十二人組』の8番目、ビアンカが、二人の戦士の間にどこからともなく音もなく出現していたのだ。彼女の可憐な顔には、微塵の苦労の色も見られない。片手でマルセリンの突き出された武装腕をガッチリと掴んで固定し、もう一方の手で、ラウが収束させていた破壊的な音響エネルギーを、まるで羽虫を払うかのような軽い仕草一つでドーム状の天井へと強制的に逸らした。


ズズズゥゥンッ!!!



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