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第25.2章:さらなる大問題が待ち受けている

【ローズの夢の中で】


――(聞いて、ローズ……)


――(愛のない世界では、死など何の意味も持たない……)


――(彼女のために……お前は何だって……して……)


ガタガタ、ガタガタ……。


道の上を激しく走る馬車の車輪の振動音が、ローズの意識をゆっくりと覚醒させ始めた。暗闇の中から、いくつかの聞き覚えのある騒がしい声が、少年の眠気を完全に引き剥がしていく。


「ねえねえ……あのボロボロの彼さ、目を覚ましたら一体誰の名前を最初に呼ぶと思う?」


マルセリンが、ニヤニヤとしたからかうような口調で囁いた。


「シーッ! 駄目でしょ、静かにして。まだ傷が癒えたばかりなんだから、しっかり休ませてあげて」


リリアが、姉のように彼女を優しく叱る。


「お前たち、目を覚ましそうだから彼をそっとしておいてやれ」


向かいの席から、五条が苦笑交じりに口を挟んだ。


ローズは、まだ深い夢の残像の中に囚われながら、苦しげにうめき声を上げた。


――なあローズ、お前はたくさんの友達を作らなきゃいけない……。このおじいちゃんは、いつまでも一緒にはいてやれないんだからな……。いつか、お前も素敵な女性と結婚しなきゃいけないんだから……


脳裏に響く大切な記憶の遺言。その瞬間、少年の喉から、ある一人の男の名前が激しい叫び声となって飛び出した。


「ロジャーさん――ッ!!!」


ガタゴトと揺れる馬車の中が、一瞬にして凍りついたように静まり返った。


「ロジャー……?」


リリアが不思議そうにその名を呟く。


ボイン。


「……ん?」


ローズの右手の下に、信じられないほど柔らかく、弾力のある温かい肉体の感触が伝わってきた。少年がゆっくりと目を開けると、自分が現在、馬車の座席でどんなとんでもない体勢になっているのかを完全に理解した。


「おいおい、目覚めるなり、かなり興奮して積極的じゃないか、少年?」


五条がいたずらっぽい爆笑の笑みを浮かべて尋ねてくる。


ボイン。


「え? ……あ、ごめん……」


「ねえ、ローズ……」


マルセリンは顔面を耳の根元まで真っ赤に染め上げ、信じられないものを見るような目で、じっと彼を凝視していた。


「……あなた、いつまで私のおっぱいの上に手を置いているつもりなのよバカッ!!」


「あっ!!! ごめんなさい!!! すみません!!!」


ローズは恥ずかしさとパニックのあまり、長い髪を振り乱して馬車の床に激しく五体投地ひざまずきし、その横でリリアは嫉妬と怒りのあまり、頭頂部から白い煙を噴き出しているようだった。


「お、俺……どれくらい眠っていたんだ?」


「二日間よ」


リリアがツンとした態度で答えた。


「でも、心配しなくていいわ。もう目的地に到着したから」


ローズが慌てて馬車の窓から外へ顔を出すと、視界のすべてが白い雲海に覆われていた。しかし次の瞬間、馬車全体がまばゆいばかりの神聖な「黄金色の光」に包まれる。馬車を引く獣ごと、彼らの身体は引力に逆らい、大空の彼方へと吸い込まれていくように上昇していった。


「さあ、到着したぞ」


スワッチ僧が厳かに告げた。

ローズは驚愕に目を見開いた。来客を歓迎する巨大な大理石の扉が左右に開き、ついに世界の中心――『神聖本拠地』がその圧倒的な威容を姿を現したのだ。


そこは、世界の理から隔離された上空に浮かぶ、すべてが大理石と純金で建造された壮麗なる『浮遊都市』。大気には、地上とは比較にならないほどの圧倒的な清らかさと、世界を支配するネクロフローの力強さが漂っていた。


「わあ……」


リリアとローズは、その神々しい光景に声を揃えて感嘆の声を上げた。


すると、決して落ちることのない紅い紅葉の木々が立ち並ぶ美しい庭園の奥から、黒い高貴な浴衣を身にまとった優雅な人影が、彼らを迎えるためにゆっくりと近づいてきた。軍人らしい凛とした風格と、すべてを見透かすような鋭い眼差しを持つ美しい女性だった。


「こんにちは、ベネシアからの訪問者の皆様。遠路はるばるお越しいただき、大変光栄に思います」


女性は礼儀正しく、挨拶のために軽くお辞儀をした。


「第1番の総帥は出迎えてくれないのか? 『十二人組じゅうににんぐみ』が第9位――『黒の将軍』ハナ殿」


スワッチ僧が親しげに声をかけた。


「そんな堅苦しい名前で呼ばないでよ、お爺ちゃん。ジリ様は今、世界中の裏の処理でやるべきことが山積みなんだから」


ハナは親しみやすい笑みを浮かべて答えた。


黄金に輝く大宮殿の回廊へと歩みを進める中、スワッチ僧が尋ねる。


「はは、さて……今回の最高会議、一体誰が招集に応じているんだ?」


「いつものことながら、ほぼ全員が揃っているわよ。一成イッセイは相変わらず行方不明だし、あのレモンも姿を見せていないけれど……」


「ああ……それについてだが……」


老僧は、他の絶対強者たちとの待ち合わせ場所へと向かう道すがら、ベネシアの周辺(首都)で起きた最悪の裏切りと、VOIDの襲撃について将軍に静かに耳打ちした。


「ふむ、なるほどね……。あの男、昔から胡散臭いとは思っていたけれど、ついに決裂したか。ということは、私たちは大急ぎで新しい『6人目』の席を探さなければならないということね」


「ええ、中央の老人たちがどう決断するか、見ものですね。かわいそうなラウくん、これで完全に一人ぼっち(孤立)になってしまいました」


「ラウくん自身の実力は問題ないと思うけれど、政治的には(リバダビス)にとって大きな打撃だわ。我が『十二人組じゅうににんぐみ』の指導者たちは、世界各国の安全を託すべき絶対の守護神と見なされている。もし民衆が、レモンが祖国と大陸を裏切って『失狂者トランス』の組織に魂を売ったことに気づけば、他の者たちへの絶対的な信頼も根底から揺らぎ始めるわ」


将軍は、冷徹に世界の構造を説明した。


「そうね……数年前にベネシアでも、ほぼ同じような暗黒の裏切り(事件)があったわね……」


マルセリンが苦々しく口を開く。


「それで? ハナ将軍、あいつらの本当の目的を知っているの?」


「私の愛するベネシアのヴァンパイア様、あいつらの計画なら大体の見当はついているわよ、マルセリン」


「本当!? 実は……」


マルセリンは将軍に、逃亡したレモンの捜索と、戦場で交わされた会話について話した。


「え? あいつら、あの『雷電』を探していたの? 一体何のために?」


「何のためかは言わなかったけれど……、エンジの奴、すごく自信満々に笑っていたわ……」


「雷電を倒そうとしていた、と? あんなVOIDの小物風情が、どうしてあの戦闘狂の雷電に敵うというの……?」


ハナ将軍は不思議そうに眉をひそめた。すると、ローズが長い前髪の隙間から、消え入りそうな声で口を開いた。


「えっと……僕は、ローズ。……あの時、ローズがそばにいて、鎧を展開して戦っても、レモンの部下エンジには全く歯が立たなかったんだ……」


「ローズ……? 誰のこと?」


ハナは怪訝そうに視線を巡らせる。スワッチ僧がハハハと笑いながら少年の肩をガシッと掴んだ。


「ああ、紹介が遅れたな。ハナ、これが例の少年、ローズだ」


「はじめまして……」


ローズは気まずそうに挨拶した。


「――『フローレス』?」


ハナは疑わしげな、そして信じられないものを見るような鋭い目でローズを頭からつま先まで見つめた。


「そんな無能力者の男の子が、この神聖な議事堂で一体何をしているの?」


「ハハハ! 今回の最高評議会で行われる『エキシビションの試合(御前試合)』に、この子を出場させることにしたんだよ、ハナ。……あの子は、あの伝説の『半面鎧ボードアーマー』を持っている」


将軍の軍靴の音がピタリと止まった。


「何……!? あの少年が、あの遺物を……?」


「ああ……。この少年には、神の素質(チェスの王座の器)がある」


「神の素質? 馬鹿を言わないで、老いぼれ。あの鎧は、世界を滅ぼす『戦争トランス・ウォー』のために作られた呪われた遺物よ」


「その通りだ。だが、この少年は魔力を持たぬ身でありながら私の部下を救い、世界の天災(VOID)に真っ向から立ち向かった。皆と話し合うべき議題は、山ほどあるぞ」


彼らはついに、巨大な黄金宮殿の最深部、大いなる審判の門前に到着した。

重厚な衛兵たちが左右の門をゆっくりと開け放つと、その内部では、直上から降り注ぐ神聖な光の下に、大陸最強の戦士たち――『十二人組じゅうににんぐみ』の圧倒的なシルエットが浮かび上がっていた。


各国の絶対強者、王の精鋭たちがここに集結している。

ベネシアの『フローレス・ポーン(魔力なき兵卒)』――ローズは、今まさに、世界を支配する王たちのゲーム(大戦への盤面)に参戦しようとしていた。




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