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第23.2章:稲妻と血の舞

【血、金属、そして稲妻】


「――『無限の虚無ボイド・インフィニティ』」


突然、エンジの全身から、濃厚でどこか見覚えのある、禍々しい紫色のオーラが漂い始めた。それはローズがその身で熟知している圧倒的な圧力――過去のあの首都の悪夢の中に潜んでいたものと、全く同じ闇の波動だった。

処刑人エンジは、ビショップの速度を侮辱的なほど優雅にかわすと、ローズのみぞおちへと容赦のない膝蹴りを叩き込んだ。その一撃によってビショップの装甲は激しく歪み、凄まじい衝撃波がローズの肉体を貫いた。


「グハッ……!」


ローズは後方に激しく弾き飛ばされ、口から鮮血を吐き出した。長い髪を乱暴に振り払いながら、彼は驚愕に目を大きく見開いた。


「何だ……その紫のオーラは……まさかお前、奴らと結託しているのか! この野郎!!」

「奴ら……? ああ、ミネルヴァたちのことか」


エンジは気にも留めない様子で冷淡に告げると、再び青い稲妻となってローズの眼前に肉薄した。


「君も『組織』を知っているようだね……」


「何だと……!? 『万丈のボードアーマー』――」


ローズには鎧を換装するだけの刹那の時間すら与えられなかった。みぞおちに食らったエンジの強烈な追撃によって、肺の空気が完全に引き剥がされ、息が詰まる。世界が暗転し、希望が急速に消え去っていく。犯罪組織『VOID』の処刑人エンジは、人間の力では決して打ち勝てない、天災そのものに見えた。


「くそっ……マルセリン! 目を覚ませ!!」


ローズは必死に叫んだ。


「ああ、その吸血鬼なら、もうすぐ死ぬだろうね。どうやら、ずいぶん長い間、血を口にしていないようだ」


エンジは、地面に横たわるマルセリンの動かない肉体を、退屈そうに見下ろしながら言い放った。特徴的な短い黒髪と、その額を飾る鮮烈な赤の長髪(前髪)が、冷たい土の上に力なく広がっていた。


――血を、飲んでいない……? それって、もし俺が……!


世界を放浪する浮浪者(放浪者)のようなボロボロの衣服をまとったローズは、よろめきながら、執念だけで立ち上がった。エンジは彼を、哀れな虫ケラでも見るような冷たい目で見つめている。


「学習しない男だ。面白い力だね、変形する鎧か? だが、死ぬことに変わりはない。――ボルト放電」

「ローズ――パージ(解除)!!!」

「何……?」


ローズは激しい蒸気の爆発と共に、自らの身体を守る黒鋼の鎧を完全に脱ぎ捨てた。長い髪を夜風になびかせ、生身の無防備な姿となった彼は、自殺的とも言える速度でマルセリンの身体へと駆け寄ったのだ。

彼女の横にスライディングするように倒れ込むと、自らの腕を差し出し、短剣で迷うことなくその肉を引き裂いた。赤黒い鮮血が、夜の闇に迸る。


「マルセリン、俺の血を飲め……! ほら、ここに俺の腕がある! お願いだ、目を覚ましてくれ……っ!」

「ううっ……いや……だめよ……」


彼女は濁った瞳のまま、かすかに拒絶の声を漏らした。


「やってくれ! 二人でここから生きて脱出するんだ!!」

「でも……」

「俺を信じろ、マルセリン! だから……っ!」

「ううっ……分かったわ……っ!」


マルセリンは生存本能に突き動かされ、ローズの腕に鋭い牙を深く突き立てた。


その瞬間、まるで一桶の冷水を浴びせられたかのように、彼女の眠っていた吸血鬼の魂が爆発的に覚醒した。ローズの体内に流れる、魔力なき「フローレス」の熱く濃厚な生命力が彼女の血管を凄まじい勢いで駆け巡り、彼女の紅い瞳を、かつてない圧倒的な緋色の輝きで燃え上がらせた。黒髪に映えるトレードマークの赤色の前髪が、覚醒の風圧で激しく翻る。その輝きは、深い森の闇を一瞬で昼のように照らし出す。


「マルセリン!!」

「くそったれが――!」

「――『スパーク・センテラ』」


エンジの追撃の稲妻が炸裂し、マルセリンは凄まじい衝撃で吹き飛ばされて巨木へと激突した。眼前に立つエンジは、まさに悪魔そのものだった。彼の底から湧き上がるネクロフローは、底の見えない不気味な深井戸のようだった。


「どうやら、君という存在を少し甘く見ていたようだね、親愛なるフローレスよ……。まずはお前から生きたまま解体して、あの吸血鬼に、お前の惨めな努力がすべて無駄だったという絶望を見せつけてあげよう」


エンジはサディスティックな残忍の笑みを浮かべ、無防備なローズに向かってゆっくりと歩み寄った。


「ん? ……おい、お前、そこで何をしている?」


ローズは答えなかった。 彼はうつむき、長い髪で表情を隠したまま地盤に両手をついていたが、突如として、周囲の地面が生き物のように激しく震動し始めた。

猛獣が荒野を疾走するような、規則正しく重厚な金属の駆動音が、彼の首にあるあの首飾りから不気味に響き渡り始める。


「へへへ……ハハハ……ッ!」

「何だと……?」

「『万丈のボードアーマー』――『騎士ナイト・アーマー』ッ!!」


――ズバァァァンッ!!!


銀色のネクロフローの閃光が大爆発を起こし、立ち込めていた霧と焦げ臭い煙を一瞬で吹き飛ばした。ローズの手元に実体化した漆黒の金属製の槍が、音速を超えて放たれる。

その超重量の投擲は空気を切り裂き、完全に意表を突かれたエンジの右肩を容赦なく貫いた。鈍い衝撃音と共に、エンジの身体が地面へと深く突き刺さる。

立ち込める金属蒸気と漆黒の煙の向こう側で、かつて傷だらけだった無能力者の少年は、完全なる「変貌」を遂げていた。


もはや、そこにはただのローズは存在しなかった。 荒れ果てた戦場の中央。幽玄な漆黒と銀の光を全身から放ちながら、圧倒的な威容を誇る重装甲の「騎士」がそびえ立っていた。

そしてその騎士は、金属製の口から激しく火花を吹き散らす、漆黒の鋼鉄の戦馬(黒馬)に跨がっていたのだ――。

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