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第23.1章:稲妻と血の舞

【狂気の電光、緋色の死線】


先ほどまで凍てつくように冷たかった夜の空気が、突如として肌を粟立たせるような静電気のざわめきに包まれた。オゾンの匂いが森の空き地に満ち溢れ、嵐がたった一人の男――『VOID』の処刑人エンジに具現化したことをはっきりと告げていた。 エンジは一瞬も躊躇しなかった。その身体は電光의 残像となり、闇を切り裂く青い稲妻となって、瞬く間にマルセリンの眼前から消え、再び現れた。


「――雷撃」


バリバリと音を立てる電光の冠に包まれたエンジの拳は、まるで突然の真昼のように周囲の木々を白白と照らし出し、落雷のごとき勢いでマルセリンのこめかみへと突き刺さった。その一撃は単に傷つけるためではなく、彼女の意識を文字通り灰へと変えるための凶行だった。


しかし、マルセリンもまた国家最高戦力の一角たる『舞姫ダンサー』。スワッチ僧侶や五条との過酷な修行により、彼女は敵の筋肉が動くよりも前に「殺意の周波数」を読み取る術を身につけていた。

稲妻が彼女に触れる一瞬前、彼女の身体は非人間的な敏捷さでねじれ、重力に逆らうような妖艶な闇の舞を繰り広げた。エンジの蹴りは彼の最速の技ではなく、彼女を確実に追い詰めるための狡猾な囮に過ぎなかったのだ。


「フン……!」


吸血鬼の少女は鼻を鳴らした。特徴的な短い黒髪と、その額を飾る鮮烈な赤の前髪が夜風に激しく揺れる。その声は喉の奥からこだまするような低音を伴って、胸の奥底から湧き上がった。

電撃の拳が通り過ぎ、焦げた空気の跡を残す中、彼女の腕の小さな傷口から、自らの鮮血の滴が意志を持つように浮き上がり始めた。月明かりの下、緋色の糸のようにそれらは超自然的な速さで絡み合い、前腕から伸びる、硬質で半透明な緋色のブレードへと凝縮されていく。


「『緋色の斬撃スカーレット・スラッシュ』!!」


彼女が唱えると、血の刃は空間を切り裂く致命的な風鳴りを立てて翻った。


――ザシュッ!!


エンジは攻撃を目にする前に、本能的な悪寒に背筋を凍らせた。深紅の刃が狙っていたのは肉体ではなく、彼自身のネクロフローの流線そのものだったからだ。彼は電気的な閃光と共に間一髪で身をかわしたが、その頬には一本の細い血の筋が浮かんでいた。それは、大ウラジミールの娘が放つ、確かな殺意の警告だった。


「興味深いね……」


エンジは、月明かりの下でルビーのように輝く一滴 of 血を指先で拭い、サディスティックに称賛した。


「偉大なるウラジミールの娘……お前はまさに、真の戦士だ」


エンジの周囲で、大地がパチパチと不気味な音を立て始めた。足元の石の隙間を小さな青い電光が踊り、彼が次の壊滅的な一撃を仕込んでいることを示している。大気は肌が焼けるほど危険な気配に満ちていた。


「『スパーク・センテラ』!!」


マルセリンは待たなかった。彼女の紅い瞳はさらに濃い血の赤色に輝き、圧倒的な飢えに満ちていた。黒髪ショートに映える赤色の前髪の下で瞳をギラつかせ、彼女の両手首からは、脈打つような、暗く粘り気のある血の鞭が現れ、獲物を捕らえ引き裂く準備を整えた。


「『血の赤いブラッディ・ライン』!!」


二人の間に張り詰めた緊迫感は極めて濃厚で、空間そのものが激しく震えていた。戦いの閃光が地平線を赤青に照らし出し、その光景は数キロ圏内の誰の目にも留まるはずの、破滅の序曲だった。


*


【決死のパージ、目覚める騎士】


戦場からかなり離れた小道を、裏切り者レモンはゆっくりと、しかし確かな自信に満ちた足取りで歩いていた。


「なかなかいい戦いをしているじゃないか……」


遠くの夜空を不気味な黄色に変える稲妻を眺めながら、レモンは優雅に呟いた。


「だが、ここをさっさと片づけてもらわないとな。あのスワッチ僧侶に気づかれるのも、時間の問題だ……」


――フッ!!!


突如、光さえも歪めるほどの圧倒的な質量を持った影が、レモンの頭上を猛烈な速度で飛び越えた。凄まじい風圧が巻き起こり、完璧なスーツ姿のレモンは体勢を崩して吹き飛ばされそうになる。


「え……!? まったく気配を感じなかった……いまのは、一体何なんだ?」


レモンは驚愕に目を見開いて叫んだ。


「くそっ!」


――もうすぐだ……待っていろ、マルセリン……!


世界を放浪する浮浪者のような、ボロボロの衣服をまとった長い髪の少年――ローズは、非人間的な神速で闇を移動しながら、必死に思考を巡らせていた。 彼の心は完全に混乱していた。首にあるあの首飾りからは、肉体を焼き焦がすほどの灼熱の熱が放たれ、茂みの奥へと自らを激しく導くような、切実で狂おしい叫び声が響いていたのだ。

ようやく鬱蒼とした森を抜け、開けた空き地へと飛び出した瞬間、彼の眼前の世界が完全に凍りついた。 そこに広がっていたのは、最悪の絶望だった。 エンジは、満身創痍となって動かなくなったマルセリンの身体を見下ろすように立ち、拳からバチバチと火花を散らしながら、冷酷な勝利の笑みを浮かべていたのだ。


「マルセリン……?」


ローズは言葉を失った。長い髪の下の瞳で彼女の惨状を目にした瞬間、彼の胸の中の恐怖は、一瞬にして絶対的な殺意の極寒へと変貌を遂げた。彼の脳裏をよぎったのは、ただ一つの、装甲の囁きだけだった。


――殺せ。あの男を、皆殺しにしろ――


「『万丈のボードアーマー:ビショップ・アーマー』!!」


ローズは迷うことなく跳躍した。流線型の黒鋼の鎧が軋んだ音を立て、敵に向かって突進する。しかし、エンジはただ嘲笑を浮かべただけだった。



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