第22.2章:手に負えない事態
【血のような赤】
悲痛な叫び声――純粋な苦痛と底なしの憎悪から生まれた原初的な咆哮が、神の都の隅々まで響き渡った。
「ここだ! あの吸血鬼のガキはまだ生きてるぞ!」男が叫んだ。
数分もしないうちに、棍棒や松明を手にした群衆が少女を完全に取り囲んだ。彼らの顔には、理不尽な嫌悪の仮面が張り付いていた。
「お前だけがいなくなればいいんだ、忌々しい化け物め」
マルセリンは一歩も引かなかった。彼女の瞳は、処刑の光を放つ深紅の深淵と化していた。
数時間後、泥の上を踏み鳴らす規則正しい軍靴の音が、当局の到着を告げた。
「そうか……ここが、あのスラム街か」低く、どこか聞き覚えのある厳かな声で、老人が尋ねた。
「ええ。死者はおよそ十七名と報告されています」白髪の若者が、凄惨な周囲を見回しながら答えた。
「ところで、ゴジョ……犯人の身元は特定できたかい?」
「はい、スワッチ僧侶。しかし……」
スワッチとゴジョは惨劇の現場である廃倉庫に到着した。若き日のゴジョは、その光景に驚愕して立ち尽くした。
「うわっ……全員、喉を正確に掻き切られている。だが、何かがおかしいな」
「血が……」
「ないんだ。彼女が、すべて持ち去ったんだよ」
突然、血に飢えた小さな人影が影から猛然と飛び出した。ゴジョは身構えたが、スワッチ僧侶はただ静かに指一本を上げた。ネクロフローの微かな脈動が、一瞬で少女の意識を刈り取り、気絶させた。
「そうか、ここにいたのか……ウラジミールの娘よ」僧侶は悲しげに、しかし慈愛を込めて言った。
「これからは、お前は『舞姫』だ。その痛みを、世界を生き抜く武器として使う方法を私が教えてやろう」
「えっ?! でも、あの腕、あの顔……明らかに自制心が効いていませんよ。化け物(化物)だ」
「だからこそ連れて行くんだ。ここに置いて、これ以上人に手をかけさせるわけにはいかない」
「でも……エリザベス女王にはどう報告するんですか?」
「ああ……それか。えーと……」僧侶は、小さな少女を肩に乗せて歩き出しながら、いたずらっぽい笑みを漏らした。「何か適当に言い訳を考えておけよ、五条」
「クソじじい……」若き日の五条は、諦めたように呟いた。
その日から、マルセリンは父の姓を完全に捨て、自らの力で新たな伝説を築き始めたのだ。
*
【沸点に達する戦場】
あの地獄の記憶が、現在のマルセリンに、拘束を断ち切るために必要な激しい火花をもたらした。生命力の圧倒的な爆発と共に、彼女を縛っていた魔法の鎖が粉々に弾け飛ぶ。
「チッ! ブラッディ・スタブ!!」
マルセリンは咆哮し、自らの鮮血を鋭利な槍の形に成形して放った。
しかし、エンジは足をほとんど動かすことなく、怠惰なほど優雅にその必殺の刺突をかわしてみせた。
「おや……お前がその『縛られた』状態で、それほど長く持ちこたえられるはずがないのは明白だったな。だが、お前のネクロフローは過去のトラウマによって激しく乱れているぞ、お嬢ちゃん」
マルセリンは猛烈な連打を浴びせたが、VOIDの処刑人は彼女の攻撃の軌道をすべて先読みしているかのようだった。エンジは一瞬の隙を突き、電気を帯びた強烈な蹴りを吸血鬼の太陽神経叢へと直撃させた。
――ドカンッ!!
その衝撃は凄まじく、彼女の身体は数メートルも吹き飛ばされ、洞窟の出口にある岩壁に背中を激しく打ち付けた。
「うっ……」マルセリンは必死に起き上がろうとしたが、視界が急速にぼやけていく。
「みんなに……この危機を、知らせなきゃ……」
「まあ、これ以上あまり目立つわけにはいかないからな」エンジは冷淡に手袋を直した。
「我々のコア(核)が衝突すれば、すぐにあのスワッチ僧侶に気づかれてしまう。今日の本命は、お前のリーダーと戦うことじゃないんだ。だから……できるだけ手早く、お前を片付けてやるよ」
マルセリンは口から溢れる血を拭い、なおも挑発的に笑ってみせた。
「ふん……口ばかりね、小僧。さあ、やってみなさいよ」
夕暮れ時を迎え、空が昏く染まりゆく中、第二代冒険師とVOIDの処刑人との真の死闘は、まさに沸点に達しようとしていた。
大気は不気味に震え、遠方から猛烈な速度でこちらへと近づきつつある、暗黒の影の到来を今か今かと待ちわびていた――。




