第20.1章:裏切り者と嵐の目
【神の都に漂う影】
日光の差し込まない暗がりの片隅では、空気が淀み、肌を刺すかのような濃厚な殺意が充満していた。その静寂は安らぎなどではなく、内に秘めた抑えきれない脅威そのものだった。
「うーん……今すぐお前を殺さない理由を、一つ言ってみろ」
犯罪組織『VOID』のリーダー、ジャックが冷たく言い放った。彼は小さなナイフを弄び、指の間で刃をくるくると回しながら、絶対的な闇の淵のような両眼を、サディスティックな輝きで光らせていた。
「うむむ……最近、十二人の都市での商売は不振でね」
そう答えたのは、完璧なスーツ姿の痩せた男だった。彼は苛立たしいほど冷静にシャツの袖口を直している。
「君たちVOID……いや、むしろ『狂人たち』の仕業だろうな」
エンジが一歩前に出ると、その身体から放たれた静電気の弧が、見知らぬ男の顔を一瞬だけ青白く照らし出した。
「それで? 俺たち六人とここで戦うつもりか? 面白い自殺になりそうだな」
「ハハハ、そう追い詰めないでくれ。交渉しに来たんだ」
スーツ姿の男は笑ったが、その目は冷え切っており、ユーモアの欠片もなかった。「あの街を守るという退屈な仕事には、もううんざりなんだよ」
「で、何を持って来たんだ?」
影の中から老龍リュウが、砕ける石の軋むような声で尋ねた。
「お前の首を刎ねないリスクに見合うだけの何かか?」
「お前たちの企みは分かっている……」
見知らぬ男は劇的な間を置き、その言葉の重みが部屋中に響き渡るようにした。
「十二人のネクロフローを探しているんだろう? 必要な情報は俺が教えてやれる」
ジャックが近づき、その顔を見知らぬ男の顔から数センチの距離まで寄せた。ジャックの放つ霊的な圧力が、避難所の石壁にみしりとひび割れを生じさせる。
「それで? なぜ俺たちがまず、お前が持つ『流れ』を欲しがらないと思うんだ?」
「『リッパー』ジャック、狂人たちのリーダー……お前たちの現状は把握している。人員不足で、六年前の戦いの後、戦力は削がれているはずだ。体制との消耗戦をもう一つ繰り広げるのは得策ではないだろう? 内部の協力者が必要なはずだ」
ジャックの目が細められた。
「では……十二人の六番目、レモン……何を提案する?」
レモンは耳から耳まで裂けるような笑みを浮かべたが、その表情は瞳には届いていなかった。
「互いに理解し合えてきたようだね。十二人のうちの五番目――『レッド・ライデン』を狙ってみてはどうだ?」
ジャックは乾いた笑い声を上げた。それは墓場の中で響く雷鳴のようだった。
「ハハ! 君は気に入ったよ。VOIDがさらに勢力を伸ばす時が来たようだな……」
*
【訓練のクライマックス】
ベネシアの平原に戻ると、風はもはやそよ風などではなかった。大地に向かって唸りを上げる、まさに混沌そのものだった。
「キャアアアアッ!」
「スワッチ様、止めてください! スカートがめくれちゃいます!」
「美しい光景だな……」老いたスワッチは、鼻から一筋の血を流しながら呟いた。
――バシィィンッ!!
マルセリンがスワッチに強烈な平手打ちを食らわせ、その乾いた音が谷全体に響き渡った。
「集中しろ、このスケベジジイ!」
「しかし、今この戦いを止めれば、ローズの成長を止めてしまうことになる」スワッチは鼻を拭いながら真面目な顔に戻った。
「レベル十二の相手と全力で戦える機会はそうあるものではない。ゴジョは技の面では手加減していない、力だけだ。それに……」
「ローズも、それほど苦戦しているようには見えないぞ」
「また行くぞ! ビショップ・アーマー!」
ポーンの装甲を纏ったローズは黒い稲妻のように飛び出し、風の抵抗を力任せに切り裂いた。五条は、いつものスピードでかわす代わりに、弟子的存在である彼の蛮力を真っ向から試すことにした。
「竜巻斬り!」
絹の糸のように細く、しかしギロチンのように致命的な鋭い風が幾重にも吹き荒れた。ローズは不可能と思われるようなアクロバティックな動きを見せ、それらをわずか数ミリの差でかわしていく。その間にも、周囲の緑のフィールドは草の紙吹雪へと粉砕されていった。
「フィート・アックス!」
ゴジョは侮辱的なほど優雅にその連撃をかわしたが、突如、ローズの本能が『カチッ』と弾けた。戦いの予感――。
「もっと期待してたのに!」
――ドカンッ!!
ローズは空中に巨大なハンマーを召喚し、魂を込めてそれを叩きつけた。その重量級の一撃はゴジョの防御気流を破って直撃し、彼自身が生み出した気流に乗せて後方へと吹き飛ばした。
「やったぞ!」
「ローズ!」リリアは怒りを一瞬だけ忘れて、喜びのあまり飛び跳ねた。マルセリンは、めったに見せない純粋な誇りを瞳に込めて微笑んだ。
「見事な光景だわ……」
――バシィィンッ!!
「やった……」スワッチが呟く。
「これで入るぞ――」マルセリンが身構える。
「くそガキ……」
ゴジョの声は、もはや半分戯れのものではなかった。氷河の風のように冷たく響く。彼は空中に静止し、口元の血の筋をゆっくりと拭った。その瞳は、電気が走るような鋭さで輝いている。
「さあ、見てろ……」
空は瞬く間に鉛色の灰色へと変わった。戦場の真上では、巨大な渦が雲を猛烈に吸い込み始め、人工のハリケーンの目を作り出した。気圧があまりにも強いため、ローズは肺に空気を満たすことさえ困難だった。
ゴジョは手を伸ばし、嵐の前の雷鳴のような声で詠唱を始めた。
「『生命を生み、維持し、獣を導き、海と川を導く……災厄の君主……』――『ネクロエクスト――!』」
しわだらけだが、絶対的な力を持つ一手が、突如ゴジョの肩に置かれた。
「そこまでだ、ゴジョ……」
渦がきりりと止まった。スワッチだ。ゴジョは瞬きをし、長い息を吐きながら姿勢を緩めた。
「ああ……やられたな、おやじ。よくやったよ、ローズ。危うく本気を出しかけたところだった」
「え?」ローズは激しい呼吸のまま、その場に座り込んだ。
「あれってまさか……?」
「ネクロエクススタシス(死霊覚醒)」マルセリンが近づき、口を挟んだ。
「ゴジョは、君にネクロフローの最終覚醒を使おうとしていたのよ」
「私が殺してやる!」リリアは水の拳を高く掲げ、ゴジョに向かって走りながら威嚇した。
「ちょっとだけ力を解放したかっただけさ、ほら、へへへ」
ゴジョはまた無頓着な口調に戻ったが、唇の血は別のことを物語っていた。
「それを受け入れるべきだ。ローズは君に素晴らしい一撃を食らわせた。もう先へ進む時だよ」
*
馬車は、訓練で荒らされた草原を後にしながら進んでいった。ゴジョは地平線を見つめたまま、より真剣な口調で沈黙を破った。
「ローズ……そういえば、これから進む道は君にとって馴染み深いものになるだろうね」
「ん? どういう意味ですか?」
「もう少し先から、リバダビスの首都の領地が始まる。君が捕虜だった頃、敵と戦った場所だ」
ローズは背筋が凍るような感覚を覚えた。あの土地は単なる戦いの記憶ではなく、彼にとって最大の屈辱と拒絶の傷跡だったのだ。
「そこで一休みしよう。大共生祭までの残り数日のために、物資を調達する必要があるからね」
「私は新しいナイフを探したいわ」とマルセリンが付け加えた。
「一晩過ごすだけだ」スワッチが締めくくる。
ローズは座席に深く沈み込んだ。
(またあそこへ戻るのか……)




