第19.1章:力の重みと風の香り
ベネシアの使節団が選出されると、一行は国境を越えて二日かけて移動する馬車に乗り込んだ。しかしローズにとって、この旅はSランクのダンジョンよりもはるかに過酷なものだった。
馬車内の空気は重苦しかった。重く、まるで電気が張り詰めているかのようだ。
(なぜこんな奇妙な空気が漂っているんだ……?)
ローズはそう考えながら、横を見ないように必死に耐え、冷や汗を一滴、こめかみに流した。馬車の御者台に座り、大げさなほど優雅に馬を操る五条は、悪戯っぽい笑みを漏らし、繊細な仕草で耳の後ろの髪を整えた。
「へへ……マルセリン、君は本当に小悪魔だね。そのスタイル、最高だよ!」
車内では、マルセリンがローズの腕にほぼ溶け込むように寄り添っていた。彼女の微笑みは、瞳の鋭さだけで火の呪文を唱えそうなリリアの視線への、あからさまな挑発だった。
「うーん……ローズぅ」
「は、はい……?」
青年は、ほんの一センチでも身を引き離そうと、たどたどしく答えた。
「急に『女たらし』になったの? それとも、枕代わりにされるのが好きなのかしら? 自分の立場をわきまえなさい!」
マルセリンの陶酔的で挑発的な香りと、リリアの殺気立ったオーラに挟まれ、ローズは馬車の隅に向かって無言のSOSを送った。
(老いぼれ、助けてくれ……!)
「グゥ……ピー……」
スワッチ僧侶は、道の凹凸に合わせて鼻の提灯が上下する中、安らかに眠っていた。
(役立たずのジジイ……)ローズは心の中で毒づいた。
「ところで、ローズ……」マルセリンはさらに身を乗り出し、猫のような自信に満ちた様子で彼のパーソナルスペースに侵入した。
「どっちの方が、お・好・き?」
シーン……。
沈黙が支配した。正面からゴジョの透き通るような笑い声が漏れ、リリアの目は純粋な怒りで輝き、スワッチの鼻の提灯がパチンと弾けた。ローズは、その自殺行為とも言える質問に答えるくらいなら、アンデッドの軍団と戦う方がましだと思った。
「マルセリン……」リリアのオーラが膨張し、窓ガラスをみしりと震わせた。
「彼は私の奴隷よ! 女王様が私の私有物だと宣言したの!」
(これで本当に俺の奴隷扱いが確定したのか……?)
圧力が耐え難いほど高まったその時、皮肉たっぷりの甘美な声が彼を地獄から救い出した。
「ローズ、お利口さん。僕のそばへおいで」
ゴジョは歌のような口調で命じた。
「この手綱を助けてほしいんだ。このありふれた風で、僕の手がカサカサになっちゃうからね」
「五条先生、ありがとうございます!」
ローズは、沈没船から飛び出すかのように、御者台へと飛びついた。
*
【「風の踊り子」の教訓】
道中の風がローズの顔を涼しく撫で、恥じらいの熱を和らげた。ゴジョは彼を横目で見て、口調をいつもより温かくした。とはいえ、特有のあの軽妙な色気は失われていなかった。
「ねえ、こんなにも力のあるフローレスを見られるなんて思ってもみなかったよ。僕の可愛いリリアの支えになってくれるなんて、本当にありがたいことさ。彼女は時々……すごくネガティブで、ちょっと輝きに欠けるからね」
「そう思いますか?」
「ハハハ! 信じてくれ、君は彼女のことをまだよく知らないんだ。でも、本題に入ろう……」
ゴジョの声が一オクターブ下がり、戯れのような口調は消えた。
「君も経験しただろう? 中央首都への襲撃を」
「ええ……」
「あいつらは別次元だ。だが心配ないよ」ゴジョは手を振って軽くあしらうように言った。
「知ってるだろう? 君が去った後、十二人のうちの一人が瞬く間に問題を解決した。世界は広大だ、ローズ。そこには本当に強い人間がいる……僕のような人間がね」
ローズは膝の上で拳を握りしめた。
「でも、僕は……?」
「君が彼らと戦ったことは知っている。他の誰にも見えないものを見たんだろう? だから君を連れてきた……その情報が必要なんだ。でもその前に……」
ゴジョはいたずらっぽい目つきで、危険なほどローズの顔に近づいた。
「僕自身が試してみたいんだ」
「えっ?」ゴジョの吐息がすぐそばにあるのを感じて、ローズは顔を赤らめた。「な、何を試すんですか?」
「お前の力だよ、このバカ! なんて下品なことを考えてるんだい?」ゴジョは笑いながら、ふざけて彼の肩をポンと叩いた。
「何を期待してたんだ?」
「そんなふうに驚かせないでください、五条先生!」
「腕試しなんて、悪くないな」
スワッチの声が頭上から響いた。僧侶は文字通り、馬車の屋根の上にぷかぷかと浮かんでいた。
「ちょうど正午だし……昼食の休憩を兼ねて、ついでに君のあの金属がどれほど頑丈か試してみようじゃないか」
*
【ポーン vs ハリケーン】
彼らは果てしなく広がる緑の野原に立ち止まった。そこでは空気が澄み渡り、肺が洗われるようだった。まさに今、破壊されようとしている牧歌的な風景だ。
「スワッチ僧侶……本当にこれでいいのですか?」リリアは心から心配そうに尋ねた。
「ローズは二頭のドラゴンと戦ったばかりで、まだ回復途上なのです」
「ハハハ! 心配するなよ。ゴジョは五%も使わないって約束したんだ。彼なりのやり方で、紳士なんだよ」
「私もローズの陣営に加わろうかしら」マルセリンはそう付け加え、少年に向かってウインクした。「私たちの『カップル』なら無敵よ」
リリアは嫉妬で顔を赤らめ、頬を膨らませた。
ゴジョは劇的な仕草で「ダンサー」の威風堂々としたマントを脱ぎ捨て、長い髪を絹のように風になびかせた。彼の存在そのものが周囲の草を押し倒しているかのようだった。空気の圧力が、変わり始める。
「準備はいいかい、お坊ちゃん?」ゴジョは、野性的で猫のような輝きを瞳に宿して尋ねた。
「遠慮はするなよ。さもないと髪が乱れちゃう……それこそ悲劇だ」
ローズは緊張を和らげようと、大きく足を伸ばした。彼の心は、戦闘戦略と、ある不適切な考えとの間で揺れ動いていた。
(くそ……お腹が空いた……それに、この男、怖い!)




