「王国の勇者」
かの王国に勇者は一人
その地に生まれた民草ならば口を揃えて皆そう語る。
勇者は王家の血筋に生まれ、神童として名を馳せる。
無双の体を鍛え上げ、七つの武具を自在に操り、戦乱の世を駆け抜ける。
王女と轡を並べて育ち、蒼穹の丘で誓いを立てる。
「もし六人の王を打ち倒したなら、君を必ずもらい受ける」と。
一人の剣士が王都を訪れ、謁見の間にて王へと語る。
「花嫁としてもらい受けたい、可憐で知られる姫君を」
王は剣士に問いかける。
「無理を申すな異国の剣士、我が愛娘はこの国の宝。宝を欲しくば対価がなければ」
「六人の王と六つの王国それらすべてを差し上げましょう」
たいした道化と家臣達は失笑を漏らす。
「戯言はいいが力をしめせ。誉れある我が王国の勇者、できるものなら打ち倒してみよ」
王は重ねて問いかける。
「この大陸では見かけぬ風貌。そもそもお前はどこから来たのだ?」
剣士は笑みを浮かべて答える。
「遥か遠くの世界より」
とりおこなわれる御前の闘技。異国の剣士に、立ちはだかるは王国の勇者。
剣士が剣を一振りすれば、十の剣閃が勇者を襲う。
剣士が一言言葉を紡げば、百の魔獣が姿を現す。
剣士が腕をかざしただけで、千の魔法が放たれる。
そのことごとくを払いのけ、勇者の放つ無尽の剣はたったの一つもかすりはしない。
「更なる力を見せてみろ。勇者の剣はそれだけか?」
剣士はさらに言い放つ。
「そんな程度の力では誇りも王女も護れはしない」
彼の宝剣が光を帯びる、王国の勇者は誇りをかけて奥義を放つ。
剣士は動かずその身で受ける。粉塵の晴れたその先には、異国の剣士が立っていた。
倒れ伏すは全を尽くした王国の勇者。
六人の王がいなくなり、七つの国は一つとなった。
今日はめでたい王女の婚儀。とりおこなわれるは蒼穹の丘。
誇りをなくした勇者にはもはや武具すら見向きもしない。
その日一人の勇者が生まれ、そして一人の勇者が死んだ。
この地に生まれた民草ならば口を揃えて皆こう語る。
この王国に勇者は一人。




