閑話「天邪鬼とシスコン国王」
「うわぁぁーーー、あぁーーん! ねえぇざまーーー」
特別に俺は本来プリシラとクラウ、アーデしか呼ばれないというエゼルバルトの酒宴に招かれていたが、これは……
「ほんとにお嫁にいってしまわれるのですか? エゼルは、エゼルは、かなしゅうございますぅーー」
机につっぷしながら、クラウに駄々をこねているエゼルの姿があった。クラウはそれをあやしている。
ちなみにクラウは酒宴が始まってからエゼルの3倍近く飲んでいるが、欠片も酔っていない。エゼルが夕食会のときから飲んでいたのはあるがそれにしても強すぎる。
「確かにこれは人払いが必要だな……」
俺は始まってから少しだけのんでいたが、その酔いが醒める程の泣き上戸っぷりである。
「にゃははー、だからいったんだナー。ただ飲むだけならいいって」
プリシラも頬を少し染めていたがその程度だ。ひどいのはあと一人と一柱、つまり
「リクー、生意気なんだよお前はー。いつでもよゆーみたいな顔しやがってぇー」
単純に絡んでくるアーデルハイトと
「あっれぇぇーー、リク、杯が空いていますよ? 創りますか? 創りますか?」
やたら酒を進めてくる上にうざいフェオだけだ。
「何がいいですかねぇ、御神酒ですか? バッカスですか? あっロマネコンティを創っても構いませんよ」
「やめろその状態で創造魔術なんて使ったら、なにがでてくるかわからん」
不老不死の薬とかいって水銀が出てきそうだ。
「えぇーー、ひょっとしてリク、チキってるんですかぁ? あれぇーーー?」
分体とはいえ本当に神様かこいつは? ノリが大学生だぞ。だから50年経っても見習いのままなんだろう。
「そうだぞぉ、リク、お前も飲めぇ」
アーデまで絡んできた。しなだれかかってくるその柔らかい体に理性がぐらつくが、なんとか押しのける。こっちもこっちで確かに他の人が大勢いるところでは飲ませられない。
「勇者様、そろそろお開きにいたしましょうか」
「グラねぇざまぁーーー」
クラウもクラウで甘えようとしてくるエゼルを押しのけるので大変そうだった。俺もこれ以上飲んだら介抱される側になってしまうな。
「そうするか、カサンドラ」
――バン!
勢いよく扉が開いた。
「お呼びですか」
これ楽しい。すげぇ偉くなった気分。
「エゼルを寝室に運んでいってくれ」
「かしこまりました」
カサンドラはエゼルを抱えあげ、寝室へのドアをくぐっていった。
あの人に頼むのはエゼルの身が心配だが、普段からエゼルがつぶれた場合そうしていると聞いている。そして、こういう時の鉄則として酔いつぶれた奴が悪い理論というものが存在するらしい。
「アーデは私とプリシラにお任せください」
「うーん、クラウディア……」
すっかりアーデも夢うつつだ。
「2人で大丈夫か?」
「ふふん、獣人の怪力をなめるんじゃにゃい。アーデぐらいなら片手で運べるナ」
ひょいっとアーデを持ち上げるプリシラを見て素直に感心した。
腕の太さはアーデとそう変わらないようにみえるが、これは魔力補正なのか種族の違いなのか。
「おやすみなさい、勇者様」
「おやすみ、リク」
「あぁ、おやすみ。クラウ、プリシラ」
そういって彼女らも王の居室を後にする。
「おら、お前も水晶の中に戻れ。
戻れ! フェオ!」
そういって水晶を前にかざす、俺も結構酔っているのかもしれない。
「うぅーん、私ならだいじょーぶです」
「そうは見えないが」
フェオはその状態のまま、腕枕をして寝てしまう。気持ち良さそうに寝ているし、起こすのも面倒だ。窓から見える夜の端に太陽の光が顔を出す。ずいぶん長い時間が経っていたらしい。
どうやらバーニシア城はかなり高台にあるようだ、城壁と巨大な水晶に囲まれた一面の市街地が窓から見える。そしてその向こうには霧に埋もれる草原と森林が広がっていた。そこには視界を塞ぐ摩天楼も煙がかった空も今はもうない。俺は今更ながら自分が異世界に転生したことを自覚していた。
そうここから始まるんだ、神様見習いと天邪鬼の異世界転生が――――。




