陸話・君の為なら因果律をも越えて試せようか?
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11146622の続編。
シリーズ通して時系列で投稿しているものの、短編連作っぽい仕上がり。
※このシリィズは偶然名前が同じだけでBlack Cycより発売されたアダルトゲームのタイトル、もしくはそのシリーズ名とは無関係です。
「貴女と共に堕ちるなら、奈落の底も悪くない」
それが、真尋の結論だった。
千早は真尋のその言葉に、酷く狼狽えた表情になる。
真偽を疑っているのか、正気の沙汰か如何かと疑っているのか。
或は、別な理由なのか。
千早がどう思ったのかは判らないが、真尋にとって偽らざる本心であった。
気狂いにでもなったのかと、疑われたとしても。
「……千早さんは、吸精導気の術というものをご存知ですか?」
真尋の不意の問いに、千早は怪訝な表情に変わりポツリと、
「……知らない」
とだけ辛うじて答えた。
質問の前の言葉と、質問がどう繋がるのかが千早には理解らない様だ。
一見脈絡もない様に思えたからだろう、と真尋は千早の反応に結論づけた。
「時に例外も無い訳でも無いですが、大体は男性が『陽』の気を持ち女性が『陰』の気を持つ生き物ですね。その事を前提に説明すると、吸精導気の術とは男女の交わりで陶酔する間に女性が男性から『陽』の気を吸い取り『陰』の気を補うという秘術の事になるです。男性の場合、女性の『陰』の気から自身の『陽』の気を補うという形になりますが」
真尋の説明を聞いた千早は、
「それってその術を片方が持っていない場合、一方的な搾取にならないかしら?それにどちらもその術を持っていた場合は増えも減りもしないんじゃない?」
と、怪訝な表情のままで言った。
「両方が持っている場合は循環作用になるのではないかと、僕は推測しています。まあ、そういう事例に出くわした例は無い様ですが。片方だけの場合…常人ならよく有るのは、術を会得していない側が荒淫により何れは衰弱死、ですね。一度に摂取する量や回数が過剰な場合に、ですが。これが…例の術を使えない側が霊力や魔力を所有していてなおかつ量が多い人物だった場合、搾取される精気あるいは生気の代用に霊力や魔力が宛てがえるのだろう、というのが僕の仮説なのです」
そう言った後、真尋は千早の表情を見る。
千早は怪訝な表情から、困惑した表情になっていた。
補足した方が良さそうなので、真尋はもう少し自論を進めた。
「もしも、契りの儀式の様に、互いの霊力を混ぜ合わせられれば…貴女にとっても、僕にとっても良いのではないかと思うのです。『陰』の気の不足分を補おうとして術式が発動する者と過剰状態で自身に内包されている能力を譲渡する必要のある者で需要と供給が成り立つ。―――僕が衰弱死するかどうか、試してみませんか?」
言い終えて、真尋は千早の碧眼をじっと凝視る。
この提案は、きちんと彼女の心の内にまで届いたのか?
互いに互いを利用する、という心算で言った訳ではない。
もしかしたら千早が他人と距離を取る必要性が無くなるかもしれない、という可能性を提示したかったのだ。
その為には、自身の特性をも利用しても構わない。
自身がアポートシス能力者として生れて来たのは、この世界においては彼女の為にではないか…というのは言い過ぎだとしてもそうで在りたい、と真尋は思った。
千早は暫し無言であったが、真尋から目線を逸らして徐ろに、
「……馬鹿よ、馬鹿だわ。失策ったら、貴方死ぬのよ?貴方は、一度きりの人生じゃない。もっと自分の人生、大事にしなさいよ……」
と、泣きそうな声で言った。
泣かないで。どうせ俺の、単なる自業自得なだけだから。
だから真尋は、笑って言った。
「僕が死んだとしても、別に千早さんの所為じゃあない。ただ単に、僕が貴女の不足を補うのに役不足なだけですよ。貴女相手に腹上死なら、情けなくても嫌な死に方じゃあないですけどね。フフフ」
少しでも、貴女の役に立てれば良い。
ただ、それだけの事。
貴女の隣に、俺が居られるか居られないかというだけ。
千早に向けて、自分なりに綺麗に笑ってみた。
その刹那―――。
「笑い事じゃないわよ、馬鹿ぁ……。腹上死されて困るのは、私よ。残された側の気持ちなんて、死ぬ側には想像もつかないでしょうけど」
千早がそう言って真尋を突き飛ばし、そのままの勢いで諸共に倒れ込んだ。
真尋はその流れのまま千早の顔を見上げると、千早が泣いていた。
そして千早の涙が真尋の上に、雨の様に降る。
真尋は徐ろに口を開いた。
「人生は一度きりでも、死は終わりなどではない。想いは残るのですよ、千早さん」
それでも降り止まぬ涙の雨の中で千早は、
「でも……居なくなっちゃうじゃない……それに、成功したって……今度は別な理由で死ぬじゃないの……残されるのは、御免だわ……!」
と、怯える気持ちを吐き出した。
そんな千早の頬に手を伸ばし、
「肉体が無くなるだけですよ。視える様になれば良い。仮令ばお盆には帰ってくるとか、この屋敷で地縛霊になってみるとか、貴女に取り憑いて背後霊になるとか。……嗚呼、転生するというのもありますね。霊魂の存在や輪廻転生を信じれば、幾等でも考え様も執らえ様もありますよ」
と言って真尋は、千早の涙を拭ってやる。
「馬鹿ぁ……如何してそんなに、ポジティブなのよぉ……」
涙の残滓が残りながらも、千早が言った。
何度か千早は真尋の事を馬鹿と言ったが、
「それは勿論、僕が千早さんと共に堕ちるなら奈落の底も悪くないとまで思う様な馬鹿だから、ですよ」
と、それに対する答えを言った。
今回は冒頭の科白を言わせたいが為の執筆だったと思われる(;^ω^)




