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金吾殿は悩ましい  ・・小早川秀秋の関ヶ原・・  作者: 双鶴


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第8話 石田三成視点

内府との決戦を目前に控え、わしは己の歩んできた道を何度も反芻していた。


島津義弘は味方についた。

宇喜多秀家も、わしの理を理解してくれた。

上杉景勝もまた、家康の専横を許さぬと誓った。

そして、安国寺恵瓊の働きで、毛利輝元を総大将に据えることにも成功した。


ここまで整えれば、天下の趨勢は決したも同然――

本来ならば、そうであるはずだった。


だが、総大将たる毛利の足元が揺らいでいる。


原因はただひとつ。

あの唐変木――金吾中納言、小早川秀秋である。


わしは歯噛みした。


金吾は毛利の分家筋。

輝元が動けば、金吾も動く。

そう読んでいた。

だが、現実は違った。


金吾は、動かぬ。

揺れぬ。

迷わぬ。

かといって、決めもしない。


まるで、戦の渦中にいながら、

ただ風に吹かれているだけの若木のようだ。


――だから、あの時、排除しておけばよかったのだ。


奉行衆の中には、金吾を疎んじる者も多かった。

わしも同じ考えだった。

殿下の甥とはいえ、あの掴みどころのない若者は、

豊臣家の秩序を乱す芽にしか見えなかった。


だが、北政所様が金吾を可愛がっておられた。

尾張以来の武断派――虎之助、松寿、市松らも金吾を庇った。

あの時、強引に排除すれば、

豊臣家の内側から崩壊が始まっていたであろう。


ゆえに、わしは金吾を“泳がせる”道を選んだ。


だが――

その判断が、今になってわしの首を絞めておる。


輝元は慎重すぎるほど慎重な男。

金吾の去就が定まらぬ限り、

毛利は大きく動けぬ。


わしは机を指で叩いた。


「金吾中納言……あやつさえ、はっきりと治部方に立てば……」


だが、金吾は治部方にも家康方にも立たぬ。

どちらにも敵意を見せず、

どちらにも靡かず、

ただ、流れに身を任せるように笑っている。


その“読めなさ”が、わしには何より厄介だった。


家康は金吾を取り込もうとしている。

その噂も耳に入っている。

あの狸は、金吾の“曖昧さ”を利用するつもりだ。


わしは拳を握った。


「金吾……おぬしは、天下の理を乱す存在よ」


生かすべきか、消すべきか。

その判断ひとつで、戦の形は大きく変わる。


だが、今から金吾排除に動けば、

毛利は反発する。

北政所様を慕う尾張勢――虎之助、市松、松寿らも黙ってはおるまい。


金吾を討てば、味方が割れる。

金吾を生かせば、戦が揺れる。


どちらを選んでも、火種が残る。燻り続ける。


――まったく、悩ましい。


わしは深く息を吐いた。


理で動く者にとって、

理の通じぬ存在ほど厄介なものはない。


金吾は、まさにその象徴だ。


だが、悩んでいる暇はない。

戦は迫っている。

天下は揺れている。

わしは決断せねばならぬ。


金吾を生かすか、消すか。

その選択が、わしの命運をも左右する。


「金吾……おぬしが、最も悩ましい」


わしは静かに呟いた。


天下を揺らすのは、

家康でも、輝元でも、秀家でもない。


あの唐変木――金吾中納言かもしれぬ。


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