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金吾殿は悩ましい  ・・小早川秀秋の関ヶ原・・  作者: 双鶴


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第7話 黒田長政視点

内府殿から呼び出しを受けたのは、伏見の空がまだ薄暗い頃だった。


「長政、金吾中納言を味方に引き込め。

 そなたならば出来よう」


その一言で、わしの胸はざわついた。


金吾とは長い付き合いだ。

尾張以来、同じ釜の飯を食った仲――

と言えば聞こえは良いが、実際にはそう単純ではない。


金吾は殿下の甥であり、小早川家の当主。

家格はわしより遥かに上。

だが、武略も政略も、わしの方が上だという自負がある。

その自負が、いつも胸のどこかに引っかかっておる。


ゆえに、長い付き合いでありながら、

わしと金吾は決して“打ち解けた”とは言えぬ関係だった。


だが、内府殿の命とあらば動かぬわけにはいかぬ。

これはわしの立身出世にも関わる。

治部と内府殿の対立が深まる今、

金吾の去就は天下の行方を左右する。


――ならば、わしが説得してみせる。


そう意気込んで、金吾のもとを訪れた。


金吾は、いつものように穏やかに笑って迎えた。


「松寿殿、よう来られましたな。

 今日はよい風が吹いております」


……風の話か。


内府殿と治部が睨み合い、

天下が割れようとしているこの時勢に、

風の話とは。


わしは本題に切り込んだ。


「金吾殿、内府殿はそなたを高く評価しておられる。

 今こそ、どちらに立つかをお決めくだされ」


金吾は首を傾げた。


「松寿殿、私は誰にも敵意はございませぬ。

 ただ、時が向く方へ歩むだけにございます」


……出た。

この“掴みどころのない返し”。


わしはさらに踏み込んだ。


「治部はそなたを排除しようとした。

 内府殿はそなたを守ろうとしておられる。

 どちらが正しいか、そなたにもわかるはず」


金吾は、少し考えるような素振りを見せた。

だが、その目はどこか遠くを見ている。


「松寿殿、私は……争いを好みませぬ。

 皆が笑っておれば、それでよいのです」


わしは思わず拳を握った。


争いを好まぬ?

皆が笑っておればよい?

そんなことで天下が治まるものか。


だが、金吾は本気でそう思っている顔をしていた。

計算でも虚勢でもない。

ただ、そういう人間なのだ。


――これでは、説得も何もあったものではない。


わしはさらに言葉を尽くした。

治部の危険性、内府殿の後ろ盾、

毛利家の動き、豊臣家の行く末――

あらゆる理を並べ立てた。


だが、金吾はただ静かに頷くだけ。


反論もない。

賛同もない。

迷いもない。

決意もない。


まさに――糠に釘。


手応えがない。

だが、手落ちした感覚もない。

何も刺さらず、何も跳ね返ってこない。


わしは、説得が成功したのか失敗したのかすら判断できぬまま、

金吾の屋敷を後にした。


帰り道、わしは深く息を吐いた。


――内府殿に、どう報告すべきか。


「説得はしたが、反応はない」

「敵意はないが、味方とも言えぬ」

「動く気配はないが、拒む気配もない」


こんな報告で、内府殿が納得するはずもない。


だが、事実は事実だ。

金吾は、そういう男なのだ。


長い付き合いでありながら、

わしは未だにあの若者の本心を掴めぬ。


――まったく、悩ましい。


わしは空を仰いだ。


金吾がどちらに転ぶかで、

天下は大きく揺れる。

だが、その金吾が最も揺れぬ。


それが、わしにとって何より悩ましいのだ。


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