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金吾殿は悩ましい  ・・小早川秀秋の関ヶ原・・  作者: 双鶴


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第6話 毛利輝元視点

徳川内府と石田治部の対立は、もはや隠しようもないほど深まっていた。

伏見から届く報せは、どれも火種の匂いを帯びておる。

その火種に油を注いで回っているのが――安国寺恵瓊よ。


「輝元様、治部殿は必ずや天下を正しき形に戻されまする」

「今こそ毛利が豊臣家の柱となられる時」

「総大将は、輝元様をおいて他にございませぬ」


恵瓊はそう言って、わしを三成側の総大将に祭り上げようとしておる。

だが、わしは知っておる。

恵瓊は“毛利のため”ではなく、“恵瓊自身の野心”で動いておる。


治部の理屈は嫌いではない。

家康の狸めいたやり口も、嫌いではない。

だが、どちらにつくにせよ――

大毛利の家中が割れてはならぬ。


その家中を揺らす最大の要因が、

他でもない 金吾中納言(小早川秀秋)であった。


金吾は関白殿下の甥であり、

小早川家は毛利の分家筋。

本来ならば、わしが導き、守り、時に叱るべき立場にある。


だが――

あの若者は、あまりに読めぬ。


治部が露骨に排除しようとしたことも知っておる。

奉行衆が金吾を疎んじていたのも知っておる。

その一方で、家康が金吾を取り込もうとしているという噂も耳に入る。


治部にとって金吾は“危険な芽”。

家康にとって金吾は“利用価値のある駒”。

どちらにとっても、金吾は“動けば天下が揺れる存在”。


――そんな若者が、わしの一族におる。


これほど厄介なことはない。


金吾の去就ひとつで、

毛利家は治部側にも、家康側にも、

どちらにも転びかねぬ。


だが、ここで金吾に圧力をかければ、

「本家が分家を縛った」と家中に禍根を残す。

毛利一族は広い。

一度の不信が、何十年も尾を引く。


かといって、

金吾がどちらにつくのかもわからぬまま、

大毛利が動くわけにもいかぬ。


――どうすべきか。


わしは何度も考えた。

考えても、答えは出ぬ。


金吾は、泰然としておる。

治部と家康が睨み合っておるというのに、

まるで他人事のように穏やかに笑っておる。


「伯父上、世の流れは止まりませぬ。

 流れが向く方へ歩むだけにございます」


そう言ったと聞いた時、

わしは思わず天を仰いだ。


――それが一番困るのだ。


流れに任せるということは、

治部にも家康にも、

どちらにも転びうるということ。


金吾が治部側につけば、

家康は毛利を敵とみなす。

金吾が家康側につけば、

治部は毛利を裏切り者と呼ぶ。


どちらに転んでも、

大毛利は火の粉を浴びる。


わしは、金吾を責める気はない。

あの若者は、悪意で動いておらぬ。

ただ、あまりに“掴みどころがない”のだ。


何を考えているのか、どこを見ているのか、

どこまで世の流れを理解しているのか――

そのすべてが霞の向こうにあるようで、手が届かぬ。


一族の柱となる器なのか、

それとも風に揺れる若木なのか。

判断しようとすればするほど、

指の間から砂がこぼれるように形が定まらぬ。


それゆえにこそ、

金吾という存在は、わしにとって **実に悩ましい**。


恵瓊の声が遠くで響く。


「輝元様、治部殿はすでに動いておりまする。

 毛利が動かねば、天下は家康殿のものに……」


わしは恵瓊の言葉を聞き流しながら、

静かに思った。


「金吾……おぬしが、最も悩ましい」


治部でも家康でもない。

天下を揺らすのは、

あの若者かもしれぬ。


わしは、深く息を吐いた。


――どう動くべきか。

――どう導くべきか。

――どう守るべきか。


答えは、まだ見えぬ。


だが、金吾の去就を見極めぬ限り、

大毛利は一歩も動けぬ。


それが、わしの悩みであり、

わしの恐れであり、

そして――

わしの責務なのだ。


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