第11話 小早川隆景視点
わしはすでにこの世の者ではない。
だが、関ヶ原の戦の行方は、
あの世からでも見届けずにはおれなんだ。
松尾山が動いた瞬間、
戦の形は決した。
小早川勢が山を駆け下り、
大谷吉継の陣を突き崩し、
西軍の中枢が瓦解した。
――わしの小早川勢が、天下を決めた。
その事実を、わしは誇りに思うべきなのか。
それとも、悲しむべきなのか。
秀秋は加増された。
小早川家は大大名となった。
わしが受け継ぎ、守り、磨き上げた家は、
かつてないほどの栄華を手にした。
だが――
わしが本当に守りたかった毛利家は、
敗将として減封された。
わしは毛利の柱として生きた。
毛利家のために戦い、
毛利家安泰のために秀秋を養子に迎えた。
秀秋が小早川家を継げば、
毛利の嫡流の血は護られ、
小早川家は毛利の一門として、
毛利家を支える柱となるはずだった。
それが――
秀秋の一挙手一投足が、
毛利家を衰退へと導く契機となった。
なんという皮肉。
なんという運命の悪戯。
秀秋よ。
おぬしは、わしの期待に応えたのか。
それとも、裏切ったのか。
わしは、あの世から秀秋の姿を見つめた。
戦場を駆ける秀秋は、
迷いもなく、恐れもなく、
ただ、流れに身を任せるように突撃していた。
あの子は、
深いのか浅いのか、
強いのか弱いのか、
器が大きいのか小さいのか――
生前のわしにも、最後までわからなかった。
そして死んだ後の今も、わからぬ。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
秀秋は、わしの小早川家を大きくした。
だが、毛利家を守ることはできなかった。
それは、
良き養子であったというべきか。
悪しき養子であったというべきか。
わしは静かに目を閉じた。
――まことに、悩ましい。
秀秋よ。
おぬしは、わしの誇りであり、
わしの痛みでもある。
だが、それでもなお、
わしはおぬしを養子に迎えたことを後悔はせぬ。
なぜなら――
おぬしは、わしの“子”であったからだ。
良き子か、悪しき子か。
それを決めるのは、もはやわしではない。
ただひとつ言えるのは、
おぬしの歩んだ道が、
わしの魂を今なお揺らし続けているということ。
――なんとも、悩ましい。




