16.信じること p1
「また来たのか、お前さんは。今日は食堂じゃなくて、私の寝室に飛んできて。雄鳥なら殺してるぞ?」
ちゅん
「で、今日も手紙か?」
ちゅん
「ありがとうな」
レイチェルからの手紙。ここ最近、多いな。そんなに報告することがあるのか?
帝都の門すべて200人態勢での警備。
地方の一般警備隊を微弱に減員、帝都の警備を1割増強。
帝都中心から半径50キロ圏内の警備・守備に充てる模様
おおまかにはこんな感じかな。まぁ、襲撃の日程がバレているからか、帝都の警備・守備を強化するよな。普通は。
それにしても、レイチェル。よくこんな情報を集められるよな。直接携わっているわけでもないのに。まぁ、どうせ、屋根裏に潜んでスパイ活動をしているんだろうが。
手紙を読んでいると、部屋のドアがノックされた。
「エル~、いる?」
外ではカナが私を呼んでいる?
「あぁいるぞ」
「ごめんだけどさ、話したいことあるの。ちょっと食堂に来てくれない?」
「あぁ、すぐ行く」
キッシングナイトから話?私が何かしたか?そんなことを思いながら食堂に向かう。
食堂に入るとき、なぜだろうか。少し殺気がした。その殺気を感じながらも意を決して中に入る。
中には、なにかに対して怒りの票所を見せているアカリをはじめ、キッシングナイトが椅子に座らず立って待っていた。
「エル、座って」
声にも殺気がある。怒っているのは確かだ。ただ、私が何をしたのかわかっていない。
とりあえず、アカリの言う通りにして、一番手前にある椅子に座る。
「エル。昨日の夜、なにをしていたの?」
疑問形の質問に聞こえるけど、声が疑問形に聞こえない。少し様子を見るか。
「眠れなかったから闘技場で身体を動かしていた。眠れなかったのはカナもだろう」
カナのほうを見ると、小さくうなずく。
「それだけじゃないよね。その頬の傷、なに?昨日までそんな傷はなかったよね?私は、エルの口から正直に話してほしいって思っているの」
アカリだけではなく、いつも楽しそうな表情をしているキッシングナイトはここにいない。みんな、怒り・困惑・呆れ。三者三葉の表情。見ていてこちらが表情以上の恐怖を感じた。
もし、ここで嘘をつけば今を乗り切れるだろう。しかし、それが通じるのは一度きり。気づかれた後は、私に対する信頼は皆無になるだろう。
信頼を築き上げるには、かなりの時間と労力がかかる。ただ、それが築き上げたものが崩れるのは一瞬だ。
今後のことを考えると、今、正直に話すほうがダメージは少ないかもしれない。
「……政府の奴らにここがバレ、襲いに来るだろう。という話はしたと思う。実は、昨日の夜。政府の偵察部隊がこの周辺に来たみたいだ。そして、その一部は中に入ってきた。それでも10人ほどだ。罠にかかったことを知らせる仕掛けでこちらも気づき、追い払っていた」
「何で言ってくれなかったの?」
「夜も遅かったし、襲撃に行く前にけがをしてほしくなかった。たったあれっぽっちの人数は私一人でいいと思った。というのが本音だ」
わかっている。私が死んでしまったらこの子たちは過去の世界に帰れないことを。
ただ、ここで怪我させてしまうことも申し訳ないと思う気持ちもあった。
天秤にかけたとき、どちらの方に比重が向くかと思えば、怪我をしてほしくないように傾いた。
「私たちの実力、舐めないでよ」
静かに言うアカリの声はいつもより怒気を含んでいた。
「私たちのことが未来にどう伝わっているのかわからないけどさ、私たちは今の私たちが一番強いと思っているよ。すくなくとも、私たちの世界では、サナミ討伐グループの中で一番強いっていろんなグループから言われている。エルに最初にあった時、私たちが勝っているよね?それすら忘れた?忘れたなら思い出させてあげようか?」
今の明かりを止められるキッシングナイトは誰もいない。誰一人として私の味方ではない。
「……すまない」
そういうのがやっとだった。それでも、アカリの追撃は止まらない。
「私たちは、威嚇のお飾り?けがをさせたくない?ふざけないでよ!私たちはみんなリカバリーも持っているし、エルを何とか助けたいって言う思いもある。だけど、エルがどんな状況でも一人で行くというなら、わたしたちはもうエルについていけない。私たちをお飾りとして飾り続けるなら、戦力としてみていないって言うなら、今すぐ、私たちが住んでいた世界に返してよ!」
アカリは、なんとか私のことを信じていたかったのだろうか、目には涙を浮かべていた。そして、声も聞いたことがないくらい感情的になっていた。
今思えば、私は馬鹿だ。私一人でどうにかなる。キッシングナイトにはけがをさせたくないからと言って、一人で戦い、仲間を失う。これじゃあ、前と一緒だ。
あのとき、誰か一人でも起こして、話しをすればよかった。あのとき、カナもいたから、誰か起こしてきてもらえればよかったと思う。
謝って、もう一度信じてほしい。なんて言っても信じてもらえないだろう。
わかっている。信用してもらえなくなったらそこで終わりだと。
もう、私も、終わり……か。
「すまなかった。そして、今までありがとう。元の世界に返す準備をしてくる」
そういうと、私はフラフラと立ち上がり、魔法陣が書かれた私の別室に向かう。
「エル!」
そんな声も聞こえたかもしれないが、ほんのわずかな時間で憔悴してしまった私には届くこともなかった。




