16.信じること p2
魔法陣が掛かれた薄暗い私の別室。中に入ると、深いため息が出る。
正直に言って、またこの部屋を使う日がまた来る日がこんなにも早く来るとは思っていなかった。
初めてこの部屋を見たとこは、何に使う部屋なのかわからなかった。だけど残してくれていた本でこれが魔法陣だということを知った。
そして、そこからほかの仲間たちの目を盗んでは少しずつ研究をした。そのかいもあって、魔法陣に魔力を通すことに成功した。
ただ、魔力は通せたものの、実際に発動させることに躊躇した。
過去の人間を召喚しようとして、失敗した時、歴史が変わる恐れすらある。そう考えると、使う決心ができなかった。
だけど、とうとう使う決心をして、キッシングナイトを召喚した。
成功してよかったと本当に思う。そして、困惑する仲でも、私の仲間になってくれて本当に良かったと思う。
最後は、私の自己中心的な考えで怒らせてしまったが……。
それも、私が招いてしまった事実。でも、これで決心がついた。ここから先は一人で突き進むことを。
殺されることも殺すことも怖くない。
ありがとう。キッシングナイト。私に希望をくれて。
「タイムスリップ」
「エル!待って!」
呪文を言いきろうとしたところで、カナがドアを開けて乱入してきた。
「エル、待って。私から、伝えたい、ことがあるの」
アカリたちを振り切ってきたのか、カナは相当息を切らしていた。
「どうした?帰りたくないのか?」
「違う。でも、このままだったらエル、絶対に後悔するから、一回、カナの話を聞いてほしい」
幸い、魔法陣に魔力を込める前だった。まだ何ともない。時間はある。話を聞くだけ聞こうか
「エル、アカリちゃんは、あれだけ感情的になっていたんだけど、本音を言うと、まだエルに協力したいと思ってる。だけど、エルにそんなことをされると、信じたいのに信じられなくなっちゃう。だから、アカリちゃんは怒っていたの。最初、エルと戦った後、戦闘服が解除されなくて私たちも焦った。もしかしたらエルがサナミだったりするんじゃないってみんな思ったりもした。でも、そんなことをしていたら、私たちもけがをする恐れもあるし、そんなことで、エルにけがをさせるわけにはいかないよね。だから、カナたちはエルのことを信じようってみんなで決めたの。でもね、エルがさ、カナたちにけがを負わせたくないって言うのもわかるよ。そういう気遣いもありがたいと思っているよ。でも、やっぱりエルを信じたい。怪我させたくないし、したくないし。だからお願い。エルもカナたちの能力の強さを信じてほしい。あと、まだ何か隠しているなら、それも全部包み隠さず教えてほしい」
カナは少し涙ぐみながら私に話しかけてくる。
……そうか。思い違いが双方にあったのか。それでもキッシングナイトは私を信じようとしてくれていた。
それなのに、私は今まで一緒に動いてきたグループに全部裏切られてきたから、キッシングナイトのことももしかしたら無意識のうちに信じ切れていなかったところがあったのかもしれない。もう一度話したらわかってくれるだろうか。
「とりあえず話してみようよ。アカリちゃんたちならわかってくれるから」
「……」
カナに背中を押されて私はもう一度話してみる決心をする。
私が決めた表情をすると、カナの表情が少し和らいだようにも見えた。
食堂に戻ると、アカリたちは輪になって椅子に座っていて、私が入ってきたのに気づくと、不機嫌な目でじっと見てくる。
その目力に怯み層になるが、強く一歩前に踏み出す。
「さっきはすまない。ただ、元の世界に帰ってもらう前に隠していたことを伝えてもいいだろうか?」
私がそう問いかけても、アカリたちの目は「まだ何かあるの?」と言いたげ。それでもかまわず私は話を続ける。
「私たちスノードロップは、今までほかの反政府グループからの救援要請に何度も応えてきた。たいていが捕らわれた仲間の救出、その後の戦闘、あわよくば、クーデターまで。しかし、応えてきた全部のグループから、襲撃の際の囮にされたり、攻撃されて裏切られたりした。最初から最後までそうだった。だから、無意識のうちにアカリたちのことも心から信じ切れていなかったかもしれない。だけど、さっき、カナと話して気づいた。こんなことになった手前、こういうのはおかしいかもしれないが、もう一度、私に協力してくれないだろうか」
自分では必死に頼んだつもりだ。だけど、消え入りそうな声だったかもしれない。
「エル。いつ私たちが協力を断るって言った?」
思った反応と違った反応が返ってきて、思わずアカリのほうを見た。
アカリは、さっきまでの怒気を含んだ表情から、いたずらっ子のように微笑みながら私を見ていた。
そして、さっきの会話を思い出してみる。少し曖昧なところもあるが、確かに協力合意の破棄なんて一切言われていない。
あぁ。私はまた思い違いをしていたんだな。
そう思うと、涙がこぼれてきた。
「エル!?」
「すまない。また私が勝手に思い違いをしていたみたいだ。嬉しくて、安心して、涙が出てきてしまった。また、よろしく、頼む」
なんだか、涙声でリーダーとしての威厳は自分でもまったく感じられない。
「で、ほかにも隠していることがあるんでしょ?」
またカナに言われてしまった。でも、このことも話すつもりだった。
「実は、私たちは政府を潰したいのはもちろんなんだが、ほかにも潰したいものがある。ただ、難易度は何段階も上がる」
「潰したいもの?」
「あぁ。正確には壊したいものというべきかな。実は、この国にはムーンライトというスーパーコンピューターがあって、諸々を変えようとするなら、そのムーンライトを壊さないと変えられない」
「ほんなら、その場所も襲撃場所にすんの?」
「いや、こいつは面倒なことに、どこにあるのかとかじゃないんだ。こいつは人工知能を搭載していて、自分の足でどこにでも出向く。人型のスーパーコンピューターなんだ」
「人型のコンピューターって、人間とほとんど変わらんやん。なんなら、人間より性能面で優れすぎやない?」
私もそいつの存在に気づいた時は驚かされた。こんなのがこの世にあっていいのかって。でも、それが世の中だ。
「ただ、どこにいるのかわからないって言うのがたち悪いね。これじゃあ、作戦の立てようがないね。来たら来たとこ勝負になりそう」
「おそらくそうなるだろう。私たちは一度も戦ったことはないが、そうせざるを得なかったという話を聞いたことがある。ただ、魔法や武器でダメージをどこまで与えられるか私にもわからない」
「それだけ聞くと、難儀な相手やな」
だけど、やらなきゃいけない相手だ。
そんなことを思っていると、私の腰につけている鈴が鳴った。
「昨日と同じ鈴?また誰か来たの?」
「あぁ。カナにも言っていなかったが、敵が昨日掘ってもらった落とし穴にかかるとこの鈴が鳴るようになっている。黙っていたことは申し訳ないと思っている」
私がしゃべっている間もずっとなり続ける鈴。相当な数がいるようだ。
「エル。一人で行くなんて言わないよね?」
アカリが真剣な表情で聞いてくる。
「あぁ、言わないよ。もう一度こんなことをしてしまったらアカリに殺されそうだ」
「しないよ。そんなこと。よっほどのことがなければね」
そう返されると、アカリは久しぶりに笑みを浮かべた。




