14.由来
誰もいなくなった食堂に戻ってきた。
夕食を食べ終え、少しだけ闘技場で運動してから、キッシングナイトは風呂に入り、それぞれの部屋で眠りについた。
静寂に包まれた食堂で聞こえるのは、私の吐息と小鳥のさえずりだけ。
……小鳥のさえずり?
そう疑問に思うと、周りを確認する。
……いた。またお前さんか。レイチェルの召喚鳥リリーよ。
レイチェルの召喚鳥は、私に気づき、視線が合うと「気づくのが遅ぇよ」と言わんばかりに首を振った。
「あのなぁ。こんな洞窟に、同じような色をしたおまえを見つけるほうが難しいと思うんだが?」
そう問いかけると、「知らねぇよ。早く見つけないお前が悪い」と言った気がした。
本当に、お前の主そっくりだな。生意気な態度も、物おじしない性格も。
「お前の主は元気でやっているか?」
ちゅん
「そうか。それならいい。で、今日は何を持ってきてくれたんだ?」
ちゅん
鳴くと同時に片足を見せる召喚鳥。魔力がこめられ小さくなった手紙が巻き付けてあった。
「手紙か。ありがとうな。毎度、政府の目をかいくぐって飛んできてもらって。それじゃあ、主によろしく伝えておいてくれ」
ちゅん
そう鳴くと、召喚鳥は飛び立っていった。
さて。あいつからの手紙は……。
親愛なる待雪草の女主へ
今日の動きで、警視総監のウィリアム・ジェームスが更迭された。後任は未定。更迭理由は国家転覆未遂。どうやら、私たちスノードロップを使って国家転覆を狙ったみたいだ。何か知っているか?知っていたら、教えてほしい。奴は何も話さない。秘密裏にことを終わらせるつもりだ。ちなみに、表向きは、汚職ということになっている。
そして、帝都の警備が強化されている。なんでも、女主が捕らえられた雪華を助けに来るという情報が広がっている。とくに、北・東側の門を中心に固めると思われる。別の位置から襲撃するが吉策だろう。
あと、アジトがバレて、偵察部隊と攻撃隊を送っているみたいだ。気をつけろ。
ちなみに、手紙を書いている時点で偵察部隊は出発している。この手紙が届くころには到着しているか、捜索・偵察が始められているだろう。
報告が遅れたことは申し訳ないと思っている。やつに拘束されて時間が作れなかった。許してくれ。
最後に、陽が2回沈んだ後に襲撃するだろうが、そのときに合流できたらしたいと思っている。よろしく頼む。
国家保険庁 エルム・レイチェル
なるほどな。今日一日で帝都はだいぶ動いたか。いろいろ動いてくれた方がこちらとしてはありがたいかな。
連携が取れる前に襲撃できるからな。
さて。私も眠りにつくとするか。
「あれ、エル?なにしてたの?」
後ろから声をかけられてビックリしたが、食堂の入り口にはカナが立っていた。
「いや、少しな。眠れなくて晩酌をしようかと思ってな。まぁ、その気も失せたからベッドに籠ろうかと思っていたところだ。カナはどうした?」
「うーん。カナもね、なんか寝れなくて。人の気配があって、気になっちゃって。気のせいなんだと思うけどね」
すまん、カナ、おそらく気のせいではないと思う。という言葉をぐっと我慢して、カナの話に合わせる。
「でさ。せっかくだから、エルに聞きたいことがあるんだけど、なんで、そこまで復讐にこだわるの?」
カナが不思議に思ったことを聞いてくる。
それは、私が思い出すには精神的に苦痛を与えてくるが、しっかりと話さなければならない。なぜかそんなことを思ってしまったのかわからないが、気づけば口が動き出していた。
「復讐か。最初のころ、私は復讐というより、魔女狩りがあったという事実を認めてほしいと思っていた。しかし、そんなことはないと、ずっと言い張る政府に嫌気をさしていた。さらには、国民をまとめるために、魔女狩りを強化し、賞金さえ出す始末。親しい人を殺されて苦しんでいるところに追い打ちをかけ何も知らない輩たちが私たちを殺しに来る。中には魔女狩り強化のことを知らず、抵抗もしないで捕らわれて殺されたグループもいた。また別の者は抗った挙句、無残に切り裂かれて殺された輩もいた。その姿を見るたびに、声が暴力に、悲しみが怒りに変わっていった。でも、そうしないと、私たちは生き残れない。死んでいった魔法使いにも申し訳がたたない。だから、こうして武力・暴力に訴えるしかないんだ」
一緒に戦った輩のことや、私の母親のことが記憶の中を横切り、目の前がにじむ。泣いているのか、私は。幼い時から今まで、涙を流したことはなかったのに。
「辛かったんだね。でも、だからといって、カナたちと会ってからここまでよく人を殺さずにこられたね」
「契約だからな。スノードロップという看板を掲げながらも、そこは守るよ」
正直なことを言うと、山岳警備隊でさえも殺して地中奥深くに埋めたかった。だけど、キッシングナイトと契約した以上、破ることはできない。
「そういえば、スノードロップってどういう意味?」
カナが不思議そうな顔で聞いてくる。
そうか。普通は負けるわけが無いという意味を込めて、もっと強そうな名前をつけるか。
そういえば、その話をキッシングナイトの誰にもこの話をしていなかったな。せっかくだし、全員に聞いてほしいと思ったが、今はみんな寝ているか。
仕方がない。今はカナにだけ話そう。
「一般的には、スノードロップというのは、2月から3月に咲く花で、春の訪れを知らせる花なんだ。そして、花言葉は『希望』『慰め』『切ない愛』などと言われている。私たちは、その中でも『希望』という意味を表立っては使っている」
カナはそうなんだ。というような顔をする。ただ、私は、この先が一番大切なことだからと思って話を続ける。
「ただ、もう一つ意味があって、それは『あなたの死を望みます』と少し不吉な花言葉がある。これは、政府に向けたメッセージだ」
「あなたの死を望む……」
少しカナの顔は強ばった。
「あまり気にしなくていい。はるか昔の言い伝えによる話の中身だ。ある女が死んだ恋人の遺体にスノードロップを備えたところ、恋人の身体が雪のしずくのように消えてしまったという逸話だ。だから、とある地域ではスノードロップを『死の象徴』として扱われるんだ」
「そんな話と意味があったんだ。下に向く小さくて白い花だから、少し内向的なのかと思っていたよ。だけど、納得。日本では、そういった意味合いが聞こえないから、自分たちに希望を与えているものだと思ってた」
「実をいうと、自分たちには、なんとしてもこの世界を変える『希望』という意味を、政府に向けて『あなたの死を望む』という両方の意味で生きているんだ」
「そうだったんだね」
カナがそう答えたとき、私の腰につけている小さな鈴が「リンリン」と音を立てた。
落ちたか。と思うと同時にカナが話しかけてくる。
「かわいい鈴だね」
「あぁ。お客さんが来たようだからな」
「こんなに夜遅くに?」
「みたいだな。とりあえず、カナは寝室に戻っていてくれないか?明日も朝早くから動くだろうし」
「うん、わかった。それじゃあ、おやすみ」
カナはそういうと、食堂から出ていった。
さて。私は、鬼退治ではないが、侵入者の排除に行こうか。




