13.二重人格
はぁ。政府の役人ってこんなにやることが多いのかよ。まだまだ決済しなきゃいけない書類がてんこ盛りなんだが?
ついでにいうと、私、レイチェル、スノードロップの一員なんだが?なんなら、エルに頼まれて何年も潜入調査をしているスパイなんだが?
なぜ、こんなことになっているのかというと、知りたい情報や、リーダーのエルトゥーヤに伝えたい情報が多すぎて、情報庁や防衛省、なんなら、保険庁まで探りすぎた。結果、保険庁のトップを任されてしまった。
ここまでなるなら、少し躊躇すればよかったと思ったが、保険庁のトップでも仕事以外の面では全く悪くない。
デパーチャーの奴らに接触できるうえに、恨みを晴らそうと思えば、いつでも晴らせるほど無警戒。やってしまおうかと思うときも何度かあったが、さすがに、そこまでしてしまえば、私の身が危ない。
とにかく、2日後。私は幸いなことに、帝都に全国から医療関係者の手配をクラシアから頼まれているから、それを最後の政府での仕事にして、あとはスノードロップに寝返る。
「レイチェル様、失礼いたします。決裁文書が大量に残っているなか申し訳ありませんが、急ぎで決裁していただきたい書類がございまして……」
「どのような書類でしょうか?」
スノードロップにいたときのしゃべり方だと、どうしても威圧してしまうから、少し話し方を柔らかくしている。
「情報庁からの依頼で医療関係者の人数を教えてほしい。とのことです。で、こちらで人数は数えて確認しております。あとはレイチェル様にご確認いただいて情報庁へ送り返す次第になっております」
「わかりました。こちらでも優先順位がありますので、情報庁のラックに入れておいてください。決裁が終わりましたら、各担当にお持ちしますので」
「承知いたしました。失礼いたします」
「引き続き、医療関係者の手配、よろしくお願いします」
クラシアの計画では、帝都の警備を強化するらしい。
そうなってくると、エルをはじめ、今のスノードロップは、エルの手紙からだと、剣を扱う仲間が増えたらしい。正直、私も使うから、全員が使うことになる。
つまり、怪我をする兵士が増える。ということ。敵だということで表面上は殺したいが、さすがに、私も罪のない人間を殺すほど今は鬼でない。致命傷を負っていない兵士がいればできるだけ助けてやりたいというのが本音だ。
これが戦地なら国民の命を優先して、そのようなことはしないだろう。だけど、内乱だ。できることはしておきたい。それに、稼ぎ頭の男を失くして、路頭に迷う家族をなるべく減らしたい。という思いもある。
実際に経験した私にはつらい思い出だ。
とりあえず、今抱えている書類を読み、決裁の承認をして、先ほど入れてもらった書類にも目を通し、決裁の承認をして、階下のフロアに行く。
ここに来たのは、さっき決裁承認手配をした部下のエレンのもとに。
「エレンさん、いますか?」
やっぱりトップが来るというだけで緊張が走るだろう。これくらい柔らかくしないと、私も同等に接したいし、気を遣わずに接してほしい。
そのような思いで口調と声は緩くする。
「レイチェル様。お疲れ様です」
丁寧にお辞儀をするエレン。この子は私の一番のお気に入りの子で、歳が近いというのもあり、よく話す。
「さっき提出していただいた書類の決裁を承認しました。情報庁に送ってあげてください。よろしくね。あと~、あっ、いた。トーイさん!遅くなってすいません。一昨日提出していただいた書類の決裁を承認いたしました。ここに置いておきますね。他の方も、一昨日までに提出していただいた書類の決裁はなんとか終わらせています。昨日提出分は明日になるかと思います。お急ぎの書類があるなら、メールで知らせてください」
ここまで言って、部下たちの部屋から出る。すると、部屋の中からみんなが立ち上がる音が聞こえる。待たせすぎた書類もあるからな。まぁ、期限は切れてないと思いますが。
ここまで来るのに、3時間か。
さて。私はここから休憩して、お昼からも頑張ろうか。
『決裁書類をお持ちの方へ。レイチェルは席を外しております。レターケースに入れておいてください』
とりあえず、これだけおいて、屋上に行くか。
エルに伝えたいことがあるから、召喚鳥のリリーを飛ばしたい。
屋上に上がり、私が休憩するためだけに作った2畳ほどの部屋に入ってエルに向けての手紙を書いて、リリーを召喚する。
「ごめんね。毎度しんどいところまで飛んでもらって。これが最後だと思うから、頑張ってね」
ちゅん
「これをエルのところにお願い」
ちゅん
リリーはそういうと、飛び立っていく。
体が小さいうえに、すばしっこくて、飛ぶスピードも相当速い。
これに関しては、魔力量によるから、一概には言えないけど、まぁ、ほかのデパーチャーのやつらと並べると、なんでもナンバーワン。自慢の召喚鳥だ。
とりあえず、戻ってくるまでここで休憩するか。
戻ったところで、仕事に追われるだけ。それに、リリーが戻ってくるとき、保険庁の中を爆飛することになる。それだけは職員のためにもリリーのためにも避けてあげたい。
昼休憩も終わったが、まだリリーは戻ってきていない。
まぁ、片道150キロだ。無理もない。
たしか、リリーは時速80キロだったかな。飛べるスピードは。一般高速を走る車と横に並んだときは焦ったよな。
だから、あと3時間くらいは覚悟しないといけないかな。
迷子になることはないだろう。何度もお使いに出しているし、自分のアジトを忘れることはできないはずだから。
「レイチェルさん、仕事をほったらかしにして、おさぼりですか?」
声をかけられた方を見ると、屋上の入り口にムーンライトのヒカリがいた。
「サボっているわけではありませんよ。れっきとした休憩です。今夜は仕事が長引きそうなので」
「少し振ってもらえたら、私もお手伝いしますのに」
「そういうわけにはいきませんよ。報告に上がっていた戦闘準備のために、また全国から医療関係者の手配を確認するのが私の仕事ですし、それに、せっかく来ていただくのに、宿は自分たちで取って下さい。なんて言えるわけありませんし。宿の手配くらいはお任せしようと思いましたが、以前から私が贔屓にしている箇所があるのでね。話を通しやすくするために私が行ったほうがいいでしょ?」
「よっぽど私を信頼していないのですね。レイチェルさんだけですよ。デパーチャーの中で私を頼ることが少ないのは。みなさん私に頼りっぱなしですよ」
だと思う。たしかに、ヒカリがいるだけで業務量は雲泥の差。でも、自分の目で確認するからこそ、仕事であって、計画やデータ保存はムーンライトに任せればいいと私も思う。ただ、実地確認して修正するのは人の手がいい。
「そんなことはないですよ。信頼していないわけじゃないです。ただ、私の手でやらないと気が済まないって言うか、現地を見て修正するとなると、やっぱり私の手が早いじゃないですか。そういうのが積み重なってくると、やっぱり、ヒカリさんをご利用する機会がないというか」
「いいんですよ。私は皆さんのお仕事のお手伝いをするだけですから。それじゃあ、また私は巡回しますね。レイチェルさんはサボらないように」
「しないです!」
そう答えると、ヒカリは笑顔で立ち去った。
これでようやく邪魔者も消えたかな。ここからは、少しスパイ活動をしたい。




