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景品ゲットだぜ

「この的を撃って、旗が揚がれば景品ゲットです。二段目と三段目は撃ち落としたら、その落ちたものが貰えます」

 そう言いながら的を指差し、スタッフがルールを説明する。

 カウンター台の上には六挺の銃。三段に分けられた棚の一番上にはそれぞれの銃に対応した丸い的が一個ずつあり、的にコルク弾が当たるとひっくり返って『あっぱれ』と書かれた旗が揚がる仕組みとなっていた。二段目三段目は消しゴムや黄色いアヒルがずらりと並んでいて、こちらは数打ちゃ当たるという易しい難易度設定だ。

 上段の的を当てれば、ぬいぐるみマスコットやペンケースなどの景品が貰えるということらしい。

 紅音たちや他の客も見ている中、琴美は銃を構える。

 一回目は右にずれた。二回目は左に。三回目は手元が狂ったのか上に大きくはずれ、四回目は的に掠った。得意と言った手前、失敗したくはないのか琴美は難易度の低い下段のアヒルに狙いを定め――

「琴美、がんばれー!」

 光都が声援を送り、琴美は再び銃口を的に向ける。

 最後の一発は、見事に的を捉えた。『あっぱれ』の旗が揚がってスタッフがハンドベルを鳴らす。

「おめでとうございまーす! お好きな景品、おひとつどうぞー!」

 景品の中からレンズがハート型のサングラスを選んだ琴美は、それをカチューシャのように頭にかけるとドヤ顔で振り返った。

「ね、言ったでしょ。得意なんだよね」

 褒めてというように梛紗をちら見する。しかし梛紗は無関心で、跳ね返ってきて床に転がっていたコルク弾を拾ってスタッフに手渡していた。

 代わりに反応を示したのは彩友だ。

「小道具になりそうだし、わたしも欲しいなぁ。でも難しそう……」

 普段使いには向かないサングラスだが、彼女の言うように演劇の小道具としてならむしろ有用だろう。けれど手に入れるには的を打ち抜くしかいない。

「だったら、紅音に獲ってもらうといいよ」

 光都による急な指名に紅音は片眉を跳ね上げる。

「どうしてわたしが」

「紅音も得意でしょ?」

 そう言いながら光都は弾貸し機に二〇〇円を入れ、出てきたコルク弾を手渡してくる。

 溜め息をつき、仕方なく紅音は銃を手に取った。

「ほんとにできるの? けっこう難しいんだよ?」

 せっかく自分が良いところを見せたのに、と不満そうな琴美が煽ってくる。しかし紅音は意に介さず、バネを下げるレバーを引いて銃口にコルク弾を詰める。

 的までの距離は約三メートル。的は直径約二センチといったところか。

 銃を構えた紅音の隣でカウンターに肘をついた梛紗が面白そうに覗き込んでくる。

「何回中てる?」

「やるからには全部よ」

 事もなげに答えた紅音に、後ろで聞いていた琴美が鼻で笑った。

「高継さんって意外とビッグマウス――」

 その言葉を遮り、発砲音が一発。『あっぱれ』の旗が揚がってスタッフがハンドベルを高らかに鳴らす。

「おめでとうございまーす! 中てた数だけ景品ゲットですよ!」

 唖然とする琴美。その目の前で弾を装填し、スタッフが的を元に戻すと間髪入れずに二発目。これも的中。

「うそ……すごっ……」

 目を瞠って呟く彩友。他の客も注目しはじめ、人が集まってきた。

 三発目、四発目、と中てる度にギャラリーの拍手と歓声が大きくなっていく。

「何あれヤベェ。スナイパー?」

「てか顔良すぎ。芸能人? なんかの撮影?」

 ざわつく中、五発目も中てた。赤や黄色など、色違いのハートサングラスを五つ手に入れた紅音はそれを光都と彩友に手渡す。

「これでいいんでしょう?」

「あ、ありがとう……。でも、なんでそんなに上手いの?」

「紅音は神社のお祭りで弓を使うからね」

 彩友の疑問に答えたのは緑色のハートサングラスをかけた光都だ。妙に似合っている。

 彼女の言う通り、紅音は祭事で弓を扱う。夏越しの祓や、人日・上巳・端午・七夕・重陽の五節句などに邪気払いの蟇目矢を射るほか、例祭では神楽を舞った後に板付という安全な矢にて的を射貫く儀式を行っている。

「ふ、ふぅん。そうなんだ」

 圧倒されてしまった琴美は悔しさを滲ませながらも、梛紗の視線を気にしてか不機嫌を表に出すことはなかった。

 紅音が集客したことでゲームコーナーの混雑は増し、そこから逃れるように一行は外へ出る。その瞬間、琴美は何かを思いついたように目を輝かせた。

「次はあれやらない?」

 そう言って彼女が指差したのはゲームコーナーの正面にあるアトラクション。

 看板には『ぐるぐる樹海アドベンチャー』とあった。

 そこは迷路のアトラクションで、入り口で渡される『ムササビン』というキャラクターの人形を持って回る。迷路内にはぐるぐるパワーを溜めるポイントが複数あり、そこにムササビン人形を触れさせてパワーをチャージ。それを何度も繰り返し、必要なだけパワーが溜まったら出口へ向かって、ゲーム筐体にムササビン人形を設置する。すると筐体からランダムにカードが出てくるので、そのカードを使ってミラージュという敵と戦うアトラクションだ。ひらランのオリジナルではなく、全国のレジャー施設に展開されていて人気を博しているらしい。

「ミラージュに勝つと景品が貰えるの」

 そう言って琴美はトートバッグからムササビンのイラストが印刷されたポーチを取り出す。

「カードも二〇〇種類くらいあって、ついつい集めたくなるんだよね」

 その言葉通り、出口から出てきた子供たちがまた最後尾に並び始める。集めたカードを扇状に拡げて友達同士で自慢しあっていた。裏面は共通だが表面には可愛らしいキャラクターや格好いいモンスターの絵がそれぞれに描かれている。

「カードには深海・森林・太陽の三グループあって、ミラージュが変身した属性に対して強いカードを使うと勝率が上がるから集めると有利になるし。あと全属性に強いレアカードもあって――」

「琴美、もしかしてガチ勢?」

「そ、そんなことないし! 弟と妹の付き添いで来てるだけ!」

 彩友の問いに琴美はポーチを持ったままの手を振って慌てて否定する。しかしそのポーチの中からゴトゴトと重ための音がして、束になったカードが入っていることが窺えた。

「と、とにかく、カードには三つの属性があるの。その属性ごとに表面の枠の色が違って、深海は青、森林は緑、太陽は赤ね。水は火、火は植物、植物は水に強いってわけ」

「それって、ポケ――」

「光都、それ以上いけない」

 琴美にぴしゃりと制止され、何か言いかけた光都は口を噤んだ。有無を言わせぬ迫力だった。しかし琴美の説明を訊いていた梛紗は口元に笑みを浮かべる。

「なかなか面白そうじゃないか」

「はい。僕もやってみたいです」

 出口から出てきて並び直す子供たちは皆、楽しそうに笑っている。それを見て梛紗と雪緒も興味を引かれたらしい。

 ようやく梛紗から良い反応が返ってきたからか、琴美は上機嫌になる。

「でしょでしょ!? でね、わたし良いこと思いついちゃったんだ」

 何かを企むような顔をした琴美。

 それはこのような提案だった。

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