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あざと女子はうさぎを狩りたい

 梛紗を見る琴美の目はまるで上空を旋回する鷹のようで、梛紗がうさぎの化身であることを知っている紅音の脳裏にはネイチャー系ドキュメンタリー番組の映像がちらついて仕方なかった。

 しかし梛紗は捕らわれることなく、のらりくらりと琴美の攻撃――質問を躱す。

「どこに住んでるですかぁ?」

河内国(かわちのくに)だな」

「えー、どこですかそれぇ。じゃあ歳はおいくつなんですかぁ?」

「二百過ぎたあたりから数えてなくてわからん」

「ウケるぅ。梛紗さんおもしろぉい」

 きゃはは、と大袈裟に笑うが琴美の瞳の奥に宿る捕食者の殺気は隠しきれていない。

 梛紗の反応がいまいちだと察するや、作戦を変更したらしい。梛紗のすぐ後ろを大人しく歩いていた雪緒に視線を向ける。

「雪緒くん、次どこ行きたい? うち、弟と妹いるから付き添いでちょくちょく来るし詳しいの。好きなとこ案内してあげるね」

「いえ、大丈夫です。お構いなく」

「そぉ? でも遠慮しないでね。……わたし子供大好きだから、つい構いたくなっちゃうんだよね」

 ちら、と梛紗の顔を窺いつつ言う琴美に、ようやく梛紗が笑顔を見せた。

「おぉ、それ知ってるぞ。ショタコンっていうやつだな」

「あ、あはは……。ちょっと違うかなぁ……」

 子供好きアピールも効かないどころか妙な解釈をされて琴美の口元が引き攣る。それでも笑みを保っているのだから立派なものだ。

「琴美、露骨すぎ……」

 少し離れて後ろを歩きながら、彩友が呆れたように呟いた。

「高継さん、ごめんね。せっかくのデートだったのに」

「デートじゃないわ。気にしないで」

 友人の振る舞いに恥じ入るように彩友は謝ってきたが、彼女こそが一番の被害者なのではないかと紅音は思う。

 高校に入ってできたばかりの友人たちと楽しく遊ぶはずだったのに、邪魔者が現れた挙げ句に友人の本性が暴かれた。これでは気分も盛り下がることだろう。

「琴美って誰とでもすぐ仲良くなれるんだね」

 人の言葉を額面通りに受け取る光都は琴美の思惑には気付いていないようで、先頭を歩く二人を微笑ましそうに眺めていた。

 琴美は梛紗との会話が切れないように、ずっと話しかけ続ける。

「神社のお仕事ってどんなことするんですか?」

「うーん、そうだなぁ。最近は雇い主の椅子になったりしたな」

「ちょっと梛紗。黙りなさい」

 真面目に答える気などないのはわかるが、とんでもないことを言う梛紗に紅音は咄嗟に口を挟んだ。しかしその怒気を孕んだ声音が徒となり、さすがに琴美もすすすっと数歩引いて彩友と頬を寄せ合う。

「高継さんって、そういう……?」

「女王様……?」

「何? どういうこと?」

 ひそひそ話す二人に対し、よくわかっていない顔の光都が首を傾げる。

 梛紗の隣に立った紅音は極力感情を抑えた声で言った。

「あとで大事な話があるわ」

「え、もしかして俺、告られちゃう?」

 きゃっ、と乙女なポーズでふざけたことを抜かす梛紗だが、その後ろでは説教の気配を察知した雪緒がおろおろと困り果てていた。

 その後、気を取り直した琴美は再び梛紗にべったり。お化け屋敷は二人掛け四人乗りのトロッコ式ライドで、必死に梛紗の隣をキープしようとしていたが、兄弟という名目である以上は雪緒が隣になるのが自然であり、苦々しそうに雪緒のことを見ていた。

 それでも同じライドに同乗することには成功し、子供向けの可愛いお化けに対し大袈裟に怖がってみせて、隣に座った彩友は呆れ果てていた。

 他のライド系アトラクションもことごとく雪緒に梛紗の隣を取られ、琴美は次第に焦りを見せ始める。

「あ、ねぇ。プリ撮ってかない? ここのゲームコーナー、プリ機あるんだよ」

 そう言って琴美は皆の返事も聞かずにゲームコーナーに駆け込んでいく。

 二つある出入り口の片方に二台の写真シール機が並んでいて、琴美はそのうちの一台を手慣れた様子で操作しはじめた。

「画角はアップで、背景はこれ、と」

 選び終えると全員で撮影スペースに入る。しかし狭い。雪緒を挟んで紅音と彩友は前列にしゃがまされ、背の高い梛紗と光都は後列になり、琴美はちゃっかり梛紗の隣に並んだ。狭いのを良いことに、ぴたりと密着する。

 フラッシュが焚かれること数回。正直、紅音にも何が何やらわからなかった。光都とモールに買い物に行った際にも撮ろうと誘われることはあったが断り続けてきたので、これが人生初プリだった。

 らくがきコーナーを経て、取り出し口から吐き出されたシール。四カットの写真が印刷されていて、カット数より人数が多く分けられない場合は、シートの端のQRコードで画像データを読み取るのだという。

 小さなシールの中で琴美はアイドル、光都は劇団員のようなポーズを決めている。彩友も演劇部らしく四カットとも映えるポーズをしているが、紅音はまるで履歴書の証明写真のような無表情で不動であった。梛紗と雪緒も、わけがわからずきょとんとした顔で映っている。

「もぅ、せめて笑ってよぉ。真顔とかまじウケるんですけど」

 などと言いながら、琴美はゲームコーナーに設置されたはさみで切り分け、その一枚を紅音にも渡す。

 自動的に加工されるらしい顔が大変なことになっていた。唇は不自然に赤いし、強調された目の比率がどう見てもおかしい。

「なんだこれは。妖怪の仕業か?」

 紅音の手元を覗き込んでそう呟く梛紗の言葉を否定できなかった。とはいえ、これが流行なのだろう。

 ゲームコーナーには他にもクレーンゲームなどがあったが、メインで取り扱っているのはスタッフの接客によるレトロなアナログゲームだった。

 積み上げた缶をボールで倒すゲームや、金属の球をバネで飛ばして受け止めるピンボールなどなど。条件をクリアすると、ぬいぐるみや雑貨などの景品が貰えるらしい。

「あ、射的だ」

 そんなゲームの中のひとつ、射的に目を留めたのは光都だった。ゲームコーナーも賑わっていて、ちょうどカップルの彼氏が彼女に景品をねだられ挑戦している最中。その後ろから見学する。

「わたし、これ得意だよ」

 琴美はそう言って弾貸し機に二〇〇円を入れた。ころころとコルク弾が五個出てくる。

 それを持って、何の収穫もなくゲームを終えた男性と入れ替わりでカウンター前に立った。

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