クラスメイト
「どうして行く先々に現れるのよ……」
「それはやっぱり、わたしたちが運命のライバルってことなんじゃない!? 神様の思し召しってやつ!」
「思し召した覚えはないなぁ」
ミリタリージャケットにスキニーパンツ姿の光都が駆け寄ってきて紅音は頭を抱え、梛紗はお茶をのんびり飲みつつ冤罪を主張した。
正直、光都だけなら別に良い。梛紗と雪緒のことは彼女はもう知っている。
問題はその同行者だ。
「え、もしかして……」
「高継さん?」
困惑したような声が聞こえた。急に走り出した光都を追いかけてきて、紅音に気付いたその少女たちの顔には見覚えがある。
髪をおだんごにして高い位置で結い、黄色いサマーニットにフレアパンツを穿いているのは福永彩友。ショートボブでピンクのフリルブラウス、インナーパンツ付きの黒いミニスカートを着ているのは多津琴美。どちらも紅音たちのクラスメイトで、たしか彩友は演劇部、琴美は男子バスケ部のマネージャーだったはずだ。
親しくはないが、クラスの中で明るく賑やかなグループに属している二人で、彼女らの会話は自然と耳に入ってくる。いわゆる一軍というやつだ。入学当初、紅音もそのグループに誘われたが呪い巫女の噂を耳にしたからかすぐに関わってくることはなくなった。
そういう経緯があるため、二人は気まずそうに一歩引いている。しかし光都は構わず普段通りにぐいぐい話しかけてきた。
「でもさ、わたしが遊びに誘っても全然来てくれない紅音がこんな所にいるなんて、そっちのほうが意外だよ」
たしかに光都は幾度断られても誘ってくる。しかしそれに紅音が応じることはごく稀で、せいぜい近場のモールでの買い物くらいだ。
ひらランにも誘われたことがあったが、それも断った。そもそも紅音が今までひらランに訪れたのは両親に連れられてきた幼少期と、小学校の遠足の時だけだ。
「あなたと一緒に人の多いところを歩きたくないのよ」
「ええっ!? ひどい!」
さもショックだというように光都が嘆くが、これにはちゃんとした理由がある。
「あの時のこと、忘れたわけじゃないでしょう?」
中学時代の修学旅行でのことだ。東京での二泊三日、その最終日は自由行動で、特に行きたい所もない紅音はひとりでカフェにでもいようと思っていた。班別行動が基本だが、班から離れる紅音を止めるクラスメイトはいないどころか、別行動を申し出た時はあからさまに安堵していた。
それについて来たのが光都だ。一緒にお台場へ行こうと誘う班員たちを振り切り、どこにでもあるチェーンのカフェで過ごすことを選んだ。紅音の単独行動をお洒落だと勘違いしたらしい。
しかし問題だったのは、二人とも中学の制服を着ていたこと。
修学旅行なので当然だが、中学の女子制服はセーラー服でスカートしか選択肢がなかった。
つまり光都もセーラー服を着ていたわけで、紅音と二人でいると目立つことこの上ない。カフェでコーヒーを飲んでいるとナンパ、そこから逃げて街を歩けばスカウト、その繰り返し。スカウトには興味を示した光都だが、紅音が名刺を受け取ることすらなく断ると彼女もそれを真似て断っていた。
これが私服であれば、パンツスタイルでいることが多い光都を紅音の彼氏と認識されてここまで酷い目には遭わなかっただろう。結局その後は集合時間まで、上野の博物館に避難していた。静かで見る物も多く、結果的にはそれで良かったがもう光都とは人混みを歩きたくない。
「あ-、うんうん。あれは大変だったねぇ」
まるで良き思い出とでもいうように、懐かしそうに頷く光都。周りはすっかり置いてけぼりになっていた。
「わたしのことは気にしなくていいから、もう行きなさいよ。お友達を待たせてるんでしょ」
「え、せっかくなんだし一緒に遊ぼうよ。六人のほうが楽しいよ」
光都がそう提案すると、彩友と琴美はぎょっと顔を引き攣らせる。表情にこそ出さなかったが紅音も同じ気持ちだった。こうなるのが嫌だから見つかりたくなかったのだ。
「六人ってことは俺たちも数に入ってるのか?」
梛紗が口を挟む。すると琴美が目の色を変えた。
「その人、高継さんの彼氏?」
梛紗の顔をちらちらと窺いながら訊ねてくる。なんなら彼女は先ほどからずっと梛紗のことを気にしている様子で、その意図を紅音は察したが、指摘するのも面倒なので気付かないふりをした。
「うちの神社のアルバイトと、その弟さんよ。今日は福利厚生……そうね、社員旅行みたいなものかしら」
「ふぅん……」
紅音の返答に、琴美の視線はさらに無遠慮になった。そして、にっと口の端が上がる。
「いいじゃん、一緒に遊ぼうよ。彩友もいいでしょ?」
「……光都くんがそうしたいなら、わたしはそれでいいよ」
彩友はまだ気乗りしない様子だったが、その反応こそ普通だろう。親しくもないクラスメイト、しかも関わると呪われるだの噂される奴と一緒に遊園地で過ごすなんて気まずいことこの上ない。さらに知らない男と子供までついてくる。
しかし彩友は光都に嫌われたくないのか、反対意見を言えないようだった。彼女は光都がいうところの子猫ちゃんだ。
「俺も別に構わないぞ」
そう言う梛紗の声音は琴美たちに同意するというより興味がないといった響きだった。同行するもしないも、どっちでもいい。紅音の決定に従うということだ。雪緒も然り。
ここで固辞すれば、まるで彼女らを邪魔と遠ざけたようになる。それによって、やはり彼氏だと認識されるのは不本意だった。
「……わかったわ。そうしましょう」
その返答に琴美が小さく拳を握ったのを紅音は見逃さなかった。




