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いまひとたびの⑩
「別れよう」
炬燵を囲んで彼から告げられた時、「嫌だ」でも「なんで」でもなく「やっぱり」と思った私は卑怯だ。
「そうだね。私もその方がいいと思う」
私の何がいけなかった?
私のことが嫌いになった?
……私のこと、好きでしたか?
問い質す言葉は喉元から出てくることはない。
「せめてさ、今日だけは一緒にいてよ。最後だし」
私はいま、いつも通り笑えていますか。
「ごめん」
謝罪の言葉なんてどうでもいい。
電池の切れかかった秒針が九時を越えようとするみたいに、心臓がゆっくりと脈動する。
彼はコップに口をつけて中身を飲み干した。
彼の目の奥の揺れるのが分かった。
音を立てて仰向けに倒れた彼は目を閉じた。
最後に見た景色が私であることを願うばかりだ。
彼の耳元で私は囁いた。
「またね」




