実行
出発前に、美津子は相変わらず青い顔をした弘樹と道場の前で顔を合わせた。
「どこに行くつもりだ」と弘樹。「行く当てがあるのか?」
「外国の知り合いの家で匿ってもらうの」と美津子。「空港まで送ってもらえれば大丈夫よ。」
「空港が一番危険だ」と弘樹。「完全に丸腰になる。」
「大丈夫よ。ちゃんと策があるから」と美津子。
「飛行機ごと落とされたらどうする」と弘樹。「今、公共の場に出るのは危険だ。」
「そんなことは十分に考えたわ」と美津子。
「どこか人目につかないところで、身をひそめるんだ」と弘樹。
「あなたが守ってくれるのかしら」と美津子。
「ああ」と弘樹。
「ご好意だけ頂くわ」と美津子。「私、今回の作戦には自信があるの。だから大丈夫よ。」
「弘樹君、ありがとう」と言って美津子は車に乗り込んだ。
車が出るとほぼ同時に敵の襲撃があった。白木の車も含めてみな無事に振り切ることができた。振り返るとズドンという大きな振動があって、道場から黒い煙がもうもうと立ち上がっていた。
何度も妨害に合いながら、美津子は無事に空港についた。出発ロビーに入るゲートまで弘樹たちはついていった。
「ここでお別れね」と美津子。
弘樹が美津子の手首を握った。「行くべきじゃない」と弘樹。「すでに四方から見張られている。行けば必ず殺される。」
「大丈夫よ」と美津子。
「何を根拠に!」と弘樹。
「手を離して」と美津子。
「離さない」と弘樹。「このまま引き返してどこか人目につかないところに逃げるんだ。」
「子供の家出じゃないのよ。逃げられるわけがないわ」と美津子。「私には分かっているの。それに白木も他に手がないからこの方法を取ったのよ。」
「離さない」と弘樹。
「駄々をこねないで」と美津子。「言うことを聞かないと、ここで抱きついてキスするわよ。」
美津子は小柄な弘樹にのしかかってキスをした。「え?」と弘樹。
弘樹の手が緩んだ瞬間に、美津子は手を振り払ってゲートの中に入って行った。
「ありがとう、弘樹君!」と美津子は手を振った。
弘樹は呆然として床に座り込んだ。仁美が弘樹を抱きかかえて、ロビーの長椅子に弘樹を座らせた。
弘樹は仁美の体にもたれかかって体を休めた。目をつぶってウトウトしかけたとき、フライパンを地面にたたきつけたようなパンという鋭い音がして、弘樹は飛び起きた。
警察官や職員が慌ただしく走り回っていた。爆発物を使ったテロだという噂が飛び交った。
何が起こったかは明白だった。弘樹は声をあげて泣きはじめた。蓮と蘭がなだめていたが埒があかないので、仁美が弘樹の頭を両手で抱きかかえて胸に押し当て背中をさすった。そのまま弘樹を車まで運び、帰宅した。
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