(3)
⒊
「おかわり!」
「くださいモモ!」
「……アンタ達、少しはあたしを怪しんだりとか疑うとかしないのかい?」
目の前に突き出された二つの茶碗を見て、銀子さんは苦笑した。
「大丈夫です! 騙し討ちするくらいなら、さっきへろへろだった私に攻撃できたと思いますので!」
「夢は基本人を疑わない性格モモ。それに、戦いが終わった魔法少女の事を覚えていられるのは、同じく因果の理から外れた存在……魔法少女だけのはずモモ」
「……ま、おチビちゃんの言う通りなんだけどさ」
空腹で死にそうだった私達に食事を提供してくれたのは、黛月子さんと言う人だった。
驚いたことに、今から十年ほど前に最初の魔法少女として世界の危機を救ったのだと言う。
当然私はその頃何も知らない子供として宿り木園で過ごしていたので、月子さんの事は知らなかったのだけれど。
モモの方は、彼女の魔法少女としての名前だけは心当たりがあるらしい。
「光の国の記録で見た地上の本来の記録によれば、最初の魔法少女はバーニングサンとサイレントムーンの二人組だったはずモモ」
「いやぁ、その呼び方も久しぶりに聞くと何かむず痒いわ」
月子さんは何だか少し気恥ずかしそうに笑う。
「そ。あたしがサイレントムーンで、もう一人のバーニングサンが同級生の葛城陽菜って子でね。親父さんの影響で冒険家になっちゃって、知らない? 一昨年エベレスト単独で登ったの」
「……何かそれテレビで見た気がします」
テレビでもネットでも一時だいぶ取り上げられていた、エネルギッシュな女性の姿を何となく覚えている。
「んで、あたしは元々料理屋やるのが目標だったから、今はこの末広町で、あそこに居るリュウとこの『銀星』をやってるってワケ」
月子さんが指さすカウンターの奥では、何だかスキンヘッドのいかついお兄さんが黙々と仕込みをしている姿が見える。
あの人がリュウさん……? 何なんだろう、魔法少女の話よりも任侠映画の話の方が似合いそうな人なんだけど。
「あの、月子さん……」
おかわりを持ってきて私達の向かいに座った月子さんに小声で話しかける。
「ん? 何だい?」
「……あのリュウさんて人、もしかして月子さんの旦那さん……とかですか?」
「ぶっはははは! 違う違う。……ありゃ、アンタんとこで言う所の隣のおチビちゃんだよ」
言われて私はモモとリュウさんを交互に見比べる。
「えと……妖精? ……スキンヘッドの?」
「……あのいかつさで十代の少女に魔法少女の勧誘してたとすると、職質確定の絵面モモ」
「いやいや。あれ人に化けてるだけだから。本体はあのくらいのサイズのドラゴンだから」
そう言って月子さんは店の棚に並んでいる一升瓶を指さした。
「人は見かけによらないですね……いやドラゴンか」
「あのナリだとほら、迷惑なセールスとか顔見ただけで二度と来ないから助かるのよ」
「そ……そうですか……」
しかし、こう、案外世間と言うものは狭いんだなあ……。
「改めてそう考えると、意外と身近に居るんですね……魔法少女の先輩って」
「んー、まあアンタ達より前に七? ……八世代とか居るからね。正味私らの他に……うーんと何人だっけ……」
「三十四人やったと思います、お嬢」
奥のリュウさんが背を向けて仕込みを続けながらそう一言だけ言う。
何でもいいが大柄スキンヘッドにそのセリフ回しだと、完全にカタギではない人の『三十四人殺った』にしか聞こえないので問題である。
「……けど、そんなに居るなら私達の時助けに来てくれたら良かったのに……」
そうしたら決着も半年ずれ込むことは避けられたのではないかなどと考えてしまう。
「普通は世界を救ったら妖精もそれぞれの異界に帰ってしまうから、変身はできなくなるモモ」
「あ、そっか……」
「あれ、じゃあ妖精……のリュウさんがこっちに残ってる月子さんは今でも変身できるんですか?」
「んんんー……理論上はできるとは思うんだけど、私ら二人組って、二人一緒じゃないと変身できない仕組みだったから。陽菜が世界中飛び回ってる今じゃ無理なのよ。それに――」
「……それに?」
「……この歳であの衣装はちょっと度胸が無いわ」
「あー……」
正直十七歳当時の私でも最初は若干抵抗が強かったので、大人の月子さんにとってはまあ言わずもがなであろう。
「で、さ。そろそろ本題に入ろうと思うんだけど」
「はあ」
「何でこんなとこで行き倒れになりかけてたの?」
「うっ……」
何と言うか、初めて世界を救った魔法少女の大先輩に、一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。
月子さんはこうして自分のお店まで持って、相棒の陽菜さんと言う人も若くして有名な冒険家になっていると言うのに、後輩の私が受験も就活もダメで無職でバイト探し連敗中だなんて言えるわけがない。
「戦いが一年半かかったせいで受験も就活も全くダメで無職で社会に放り出されてバイト探し連敗中モモ」
「モモあんたというやつはああああああああ!」
「け……血流が止まるモモ……やめるモモ……!」
「あっはは、何かアンタ達見てると懐かしい感じがするね。あたしらも当時はリュウとそんなふうに喧嘩したりしてたっけ」
絵面を想像すると事件性が強いイメージしか湧いてこないので、途中で考えるのをやめる。
「ふぅむ……じゃあアンタ今、就活してるわけ?」
「はい……まあ……。ですがこう、時期が悪いらしく正社員はちょっとブラックなやつとかばっかりで……とりあえず就活できるバイトを探してると言うのが現状と言いますか……」
「――ふむ」
そこまで聞いて何か考えが纏まったらしい月子さんは、身を乗り出して不敵な笑みを浮かべた。
「ならさ。ウチでバイト、する?」
魔法少女シャイニードリーム、無職。
アルバイト、どうにか決まりそうです。




