(2)
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「ごめんなさいね。今丁度一人決まっちゃって人数いっぱいになっちゃったのよ」
「……はあ」
綺麗なメイドさんに申し訳なさそうに頭を下げられ、店の裏口から出る。
マトモな案件が出てくるまで正社員応募は避け、比較的稼げて尚且つ非合法な臭いのしないものを片っ端から受けて回って十三件。
流れ流れてサブカル色豊かな飲食店の面接にも来たのだが。
全滅。
全滅である。
「闇の国・ディープカオスに世界を呑まれる寸前でも立ち上がったけど、バイト十三件断られただけで折れそうだわ……」
壁に突っ伏して項垂れていると、空中からモモが現れて溜息をつく。
「まあ、去年までの戦いで景気もよくないからまあ仕方ないモモ」
「ん? どういうこと?」
「夢達の戦いで出た被害は一般の人達の記憶の中では大規模災害とかに置き換えられてるモモ。今は復興関係で建設とか土木とかの工事業者は忙しいけど、サービス業は軒並みまだ下火モモ」
「……あんた、メルヘンなナリして案外社会情勢に詳しいのね……けどそれだったら私達の前の時はどうだったのよ?」
「他の異界が干渉した時の戦いはモモ達も詳細までは知らないモモ。けど夢達の戦いは一年半もかかってたから被害がこれまでより大きかったのかもしれないモモ」
「あっ……そうなのね……」
私か。
私達が早く決着つけなかったから悪いのか。
因果応報か。
「はああああぁぁぁあ……」
思わず天を仰ぐ。
そりゃあさぁ……高二にもなって魔法少女とか言われてさあ、フリフリ衣装が恥ずかしくて踏ん切りつくまで時間かかったのは認めるよ。
最初の頃はテスト中に抜け出すに抜け出せなくて駆け付けたらビル一個ぶっ壊されてたりとかあったし。
でも頑張ったじゃん……価値観も育ちも違う三人でさあ……。
「期待してた追加戦士も居なかったし、敵から寝返りそうな女子も居なかったし……」
「……ついに意味わからないこと呟ぎだしたモモ……」
「ああー……でも何か妙に工事関係のバイトだけは沢山あるなあと思ってたのそれかあ……変身してなきゃ力仕事は無理だしなあ……」
世の中自分がしたことの影響は良くも悪くも残るという事だ。
気前よく完全リセットなんてのはそうそうありはしない。
「普通の人達の記憶自体はすり替わってても、ここはいつかの昨日から続いてる今日なんだね……」
「いいこと言った風に繕っても、エンディングテーマは流れないモモ」
「あんたもメタいこと言ってんじゃないわよ! このままじゃ二人して塩水しか口にできなくなるわよ!」
「ぐ、ぐるじいモモ……頸動脈はやめるモモ……!」
二頭身の妖精に血管の概念があるのが謎と言えばなのだが、正直なところ喫緊の課題が私の頭の中に浮かんできていた。
「……お腹、空いたわ」
家賃は今は公的補助でなんとかなるとは言え、他はそうはいかない。
施設にいた時にバイトして貯めていたぶんはこの先のスマホ代とかを考えたら職が決まらないと迂闊に使えない。
そうした事情から、最後の食事をしたのは三日前なのである。
「育ち盛りとは微妙に言えないとは言え流石に十代の身体では空腹が辛い……」
ズルズルと気怠い身体を引き摺って歩く。
「うう……ひもじい……」
「カッコつけずに宿り木園に出戻りした方がいいと思うモモ……」
「それは……それは最後の手段よ……チビっ子達に大見栄切って出て来たのに一か月で出戻りしたら、『諦めない』が信条のシャイニードリームのアイデンティティが崩れるわ……」
そう言いながらも、人通りの少ない路地の途中で思わずへたり込んでしまう。
「夢、こんな所で座り込んでたら近所の人に迷惑モモ」
私の心配をしろ、私の。
「あー……………………腹、減ったな」
「もう女子力のカケラも無い言い回しになってるモモ」
腹が減っては女子力どころではない。
生命力、生命力を取り込まなければ……。
「モモ……あんたよく見たらほどよく脂肪あって美味しそうなのよね……」
「猟奇的な発言はやめるモモーッ!」
――と。
「……アンタ達、何やってんだい? こんな往来で」
モモにしがみついて齧り付こうとしていた所で背後から声がかけられる。
振り向くと長身で、綺麗な黒髪を後ろで大雑把にまとめた……何と言うか凛とした立ち姿の女性が私達を見下ろしていた。
「あ……す、すみません」
慌てて立ち上がろうとした時に、盛大にお腹が鳴ってしまった。
「……ぷっ」
それを聞いた女性が、思わず吹き出す。
「腹、減ってんのかい?」
「あの……は、はい。……恥ずかしながら」
「ふぅん……」
そして次に、予想もしなかった一言を口にしたのである。
「まかないで良けりゃ食わせてやるから入んなよ。シャイニードリーム」




