大きな街にはたいてい影がある
「助けてくれるの!?」
「話を聞くだけだ」
俺の言葉に一瞬顔が曇ったが、やがてたどたどしい口調で説明し出した。
「この前……。勇者がこの街に来たんだ。勇者がこんな所に来るのは珍しいから姉ちゃんと見に行ったんだ。そしたら……。そしたら、あいつ等も僕達に気付いて……。それで姉ちゃんを見て、じょうたまだとか良く分からない事を言って……」
「姉ちゃんの事を捕まえて、一緒に来いって。姉ちゃんは嫌だって言ったのに無理矢理連れていったんだ。僕も、やめろって言ったんだけど、殴られて……」
そこまで言うと、餓鬼は泣きそうになっていた。
キースがそんな餓鬼と目線を合わせて聞く。
「姉ちゃんの年は幾つなんだ?」
「16」
「美人か?」
「うん」
「成る程な……」
キースが呟くと、餓鬼が俺様の足にしがみついて来た。
「ねえ、お兄ちゃん逹、魔王でしょ!? 勇者をやっつけてよ!」
「レオン、どうするんだ?」
ふむ……。
「面倒だな」
俺が答えると、餓鬼は肩を落として呟いた。
「……そうだよね。ケアンの所に行ってくれる人なんていないよね……」
ケアン?
勇者の名前か?
その名前にキースが反応した。
「ケアン? お前の姉ちゃんを連れてったのは、あのケアンか?」
「うん。今までに魔王を3人も討伐した、英雄ケアン・アリテだよ」
…………。
「餓鬼。その勇者の家はどこだ?」
聞くと、餓鬼は一瞬ポカンとした。
しかし、意味を理解すると、よっぽど嬉しかったのだろう。勢い込んで言った。
「お城の近く! 一番大きなお屋敷だよ!!」
「おい、レオン! 行く気か!?」
「ああ」
「ちょ、嘘だろ!? あのケアンだぜ?」
「面白い」
餓鬼を拐ったチンピラに用は無いが、それが魔王を倒した勇者なら話は別だ。
「いくらレオンでも、それは……」
キースが何やら呟く。
それに同調する声が上がった。
「そうじゃ、止めておきなされ」
……誰だ?
「じいちゃん!」
「お前さん方、何処から来なさったか知らんが、その子の言うことは気にせんでええ」
声の主は元は黒かったであろう髪がすべて白くなった爺だった。
餓鬼が喚く。
「何でだよ! 姉ちゃんが拐われたんだぞ!」
「勇者に逆ってはならん」
爺は全てを諦めた様な、濁った目をしていた。
これは生きる目的を無くした奴隷の目だ。
「レオン、これ以上関わらない方がいいぜ」
キースの言葉に、爺も頷く。
「そうじゃ、勇者に逆らうな。それがこの国の決まりじゃ」
「生憎、この国の者じゃ無いんでね。そんな決まりに従う気は無い」
俺の言葉に、爺が怒鳴る。
「この街の者が迷惑するんじゃ!」
「知るか」
「な、なんじゃと……」
「この街がどうなろうと俺には関係無い」
きっぱりと言い切ると、俺は王城に向かって歩き出した。
「おい、餓鬼。案内しろ」
「う、うん」
餓鬼が慌てて付いてくる。
爺がまだ、何やら喚いていたがシカトした。
そこに、キースの声がかかる。
「ちょ、置いてくなよ」
「付いて来いとは言っていない」
「そりゃねえだろ~」
結局、キースも付いて来た。
3人で王城の方に歩き出す。
スラム街を通り抜ける間、姿は見えないが幾つもの視線を感じた。
騒ぎを聞き付けた住民が遠巻きに俺様を見ているのだろう。
スラム街を抜けると国の様子は一変した。
東西南北に伸びる道に、きちんと区分けされた家々。
その町並みを暫く歩くと、やがて建ち並ぶ家々の規模が変わってきた。
庭のある屋敷と呼ぶべき物が建ち並んでいる。
聞いてもいないのにキースが説明し出した。
「この辺は皆、勇者の屋敷だ。何かしら国に貢献した、な」
その中でも、一番王城に近い所に目的の屋敷はあった。




