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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第一ゲーム
7/36

「なら、洋食だけを調べていこう。上手く銀食器を使って全部調べれるようにしろよ」


「言われるまでも無く、そうするよ。何せこちとら命が賭かっているからな。嫌でも丁寧にするぜ」


裕太はいい加減な性格でもあったが、さすがに今回は慎重に行動をしてくれるはずだ。

だから今は俺が余計に口を出す必要は無い。


「それなら任せた」


おう、と裕太は短く返事をしてから洋食に銀食器を当てていく。

俺はその行動を見守るだけだ。

それにしても、今はどれくらいの時間が経過しただろうか。

三十分というのはやる事があればあっという間に過ぎていく時間だ。

下手したら世間話するだけでも時間を費やしきる。

まだ料理には一口も口をつけていないが、多めに見積もって二十分は経っているのかもしれない。

銀食器で料理を調べ終えるのに更に五分経つと考えて、あと残り五分。

そこから数分かけて選ぶとして、最初のアナウンスまでかなり時間はギリギリだ。

急かさせるほどではないが、落ち着くことは出来ない。

なぜならこの先どうなるか、全く予想がつかないからだ。


「どうだ裕太?順調か?」


テレビからでは裕太の行動は見えても、さすがに銀食器の反応までは見えない。

しかし答える前に裕太がため息をを吐いたから、何となくは結果を察することができた。


「順調と言えばいいのか分からないけどよ、今の所は全部毒の反応を示してやがる。解毒以外は猛毒しか入ってないのか、って思えるぐらいだ」


「案外そうかもしれないな。銀食器がある以上、仮面の奴はそれ相応にゲームの難易度を引き上げているはずだ。でなければ、相手からしたらこちらが有利だ」


「俺はこっちが有利で良いんだがな」


それは仮面の人物も同じことを考えている。

だがルールが有利不利を抜きにして考えても、リスクだけ言えばこちらが一方的に不利だ。

こちら側だけが命を賭けされているからだ。

仮に相手が負けても、この勝負では相手の命が関わらないのは(ずる)いと言える。

裕太は使いきった銀食器を乱暴に床へ投げ捨てていく。

もう三つは捨てている。

調べられたのは十五品中、六品ぐらいだ。

丁寧にやるとは言っていたが、俺は心配になって声をかけた。


「思っていたより銀食器を消耗しているけど、全部調べられるのか?」


「何とかするとしか答えれないな。これでも気をつけてはいるんだけどよ。どうも気分が悪くてな……」


もしかしてもう毒の効力が出始めているのか?

だとしたら危険だ。

ただの焦りならまだ良いが、今の裕太はちょっとした体調不良でも怪しく思える。


「目眩でもしたら一回手を止めろよ。ミスをしかねない」


「ははっ、煌太は俺の保護者かよ」


茶化して言ってるが裕太の表情は苦々しい笑顔しかない。

見守ることしかできないのが歯痒くなってくる。


「そういえば今更だが銀食器ってよ、どの毒にも反応するのか?」


裕太はそう訊いていたが、俺には詳しくは分からない。

ただ、優羽がそう言っていただけだ。


「正直分からない。他の物質とよく反応するだけだから、全種類の毒じゃないかもしれない。それでも手がかりになるには変わりは無いだろ」


「あぁ、いや…俺が心配しているのはそこじゃないんだよ。もしかして銀食器は解毒にも反応するんじゃないか、って気になったんだ」


怖い事に気がつくな。

だが、これが本当にゲームとして成り立っているなら反応はしないよう仕組まれているはずだ。

無知のため俺に確信は無いが、仮面の人はゲームをしたいと言っていたんだ。

何一つ信用にならない奴の言葉ではあるけど、そう信じるしか希望が無い。

その思いにすがるように俺は裕太に言ってやった。


「解毒とは言っても、そんな強い化学物質では無いんだろ。それなら銀食器は反応できないはずだ」


「はずだ、って何だよ。曖昧なのか?」


俺のいい加減な言葉に裕太は不満そうに言うが、きっと知識ある人でも確信あることは言えない。

何せ、そもそも裕太に射たれた毒が何か分からないからだ。

どういう類いの毒や解毒なのかも推測がつかない。


「すまない、裕太。だけど今は銀食器が反応しない料理を食べて、確実に絞っていくしか方法は無いんだ。だから、その時は別の方法を使うつもりだ」


「何か他に方法があるのか?」


「苦し紛れの一手さ。もしかしたら全くの無駄かもしれないから、期待はできない。使えそうだったらその時に言うよ」


「分かった、煌太の言う通り期待しないでおくぜ。…………あっ」


裕太は手が滑ったのか洋食の一品を床へ落とした。

落ちた皿は甲高いガラス音を立てながらも割れはしなかったが、料理は床へとぶちまけられた。

思わず肝が冷えて、足が地に着かないような不安が込み上げた。


「おいおい、大丈夫か裕太?」


「奥の料理を調べていたら、腕を戻す時に銀食器が引っ掛かっちまった。落としたのは銀が反応したやつだったから良かったけどな……」


「一瞬焦ったぞ。あとどれくらいだ?」


「あと三品だけさ。新品の銀食器も残ってる」


そう言って裕太は最後の銀食器を手にとった。

欲を言えば銀食器を余して洋食以外も調べられたら良かった。

それは裕太も同じことを考えてはしていたと思うが、現状を受け入れるしかない。

別に裕太の調べ方が悪いわけではない。

この銀食器の反応は意外にも厄介で、料理に当てるだけでは化学反応は起こさない。

おまけによく調べるなら、かき混ぜるような動作も必要になる。

そのせいで必要以上の範囲で銀食器は化学反応を起こす。


しかし一番の銀食器の消費が激しい理由は、今の所は全て化学反応してしまっていることだ。

反応しなければ使い回しはできただろうが、それができないから使い捨てになっている。


「また毒か………」


気が滅入った疲れた声で裕太は呟いた。

この調子だと洋食全てが毒を含んでいる可能性が高い。

もしそうなったら俺の別の方法でも無意味同然だ。

解毒を当てることはできない。


「いい加減に毒じゃないのがあってもいいだろ。ふざやがって……!」


裕太は不満を口にする。

相当な苛立ちが湧いてきているのだろう。

保ってきた平静も、余裕が無くなって不安定になっているのが分かる。

俺も口にしていないだけで、かなり心情は平常じゃない。

だけど俺はできるだけ平静でいなければいけない。

そうでないと収拾がつかなくなってしまう。


裕太は次の料理に乱暴に銀のフォークを突き刺した。

何度も同じことを丁寧にしていたせいか、行動が雑になってきている。

それより神経が逆立っているのが原因かもしれない。


「…………お?」


裕太から気が抜けた声が聴こえてきた。

まさか、やっと出たのか?


「どうした裕太?」


「きた。やっとだ。やっと、反応しない料理を見つけれた。俺、運無さ過ぎるだろ…。情けない話だが、正直少し泣きたくなったぜ」


泣きたくなるのは同情できる。

強がりもできない状況でやり直しが効かない。

しかし無毒を引き当てた今、俺と裕太は安堵した。


「そうか、やったな…!これで一つは安全が確保できた。最後の一品はどうだ」


「ちょっと待ってくれ。今、調べる」


裕太は銀のフォークを手に、洋食の最後の料理である十五品目に接触させた。

かき混ぜるようにして銀のフォークを動かし、料理から引き抜く。


「残念、最後のは反応したぜ。つまり俺が食べれる洋食はさっきの一品だけだ」


裕太は化学反応した銀のフォークを投げ捨てながら、口元を緩めていた。

裕太から緊張が緩んだのは勝機が見えてきたからだ。

それどころか、裕太の事だからもう勝ったつもりでいるはずだ。

何せ今までの洋食の料理は、その一品以外は化学反応を起こしていた。

だから正解以外の料理には、毒物が入っていたと言っても過言ではない。

むしろ、そう考えるのが自然だ。

これで第一ゲームは俺達の勝ちになるはずだ。


「じゃあ、俺は早速頂くとするかな。さっき銀食器を探していた時、箸があったはず……」


裕太は和食が置かれたテーブルに近づいて、箸が複数膳置かれた所に手を伸ばした。

そして適当に一膳取って洋食のテーブルへ駆け足で戻る。

箸を片手に裕太は無毒の料理を乗せた皿を手に取り、箸で洋食を摘んだ。

あとは口に含んで食べるだけだが、裕太はそこで手を止めてしまった。

何かあったのかと俺は疑問に思い、裕太に声をかける。


「どうした?」


「いや、ちょっと心配になってな。本当に毒が入ってないのかって」


「…大丈夫だろ。今は確かに銀食器は反応しなかった。それに制限時間が少ないから、駄々をこねずに食べるしか選択が無い」


「そうだったな。制限時間があったんだよな」


どこか渋々としながらも裕太は箸で洋食を食べ始めた。

とは言っても、三口ほど食しては箸と一緒に皿をテーブルへ戻した。

すぐに飲み込んで、裕太が嫌そうな顔をしながらぼやく。


「これでいいのか?よく分からねぇ」


銀食器の反応は正しく、特に裕太は苦しみ出す様子は無い。

ただ、気分が良くないのか苦々しい表情のままだ。

それでもひとまずは何とも無いことに、俺は少しは安心していた。


「とりあえず毒は無いみたいだな。これで後は仮面の奴の合図を待つだけだ」


「そうか。ったく、俺としてはすぐに結果の報告が欲しい所だ」


裕太は最初に自分が縛られていた椅子に座り、リラックスし始めた。

でもアナウンスが入るまでは気持ちが落ち着く訳も無くて、足を組んだり姿勢を変えたりと慌ただしい。

当然、俺も裕太と同じく落ち着いてはいられなかった。


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