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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第一ゲーム
6/36

銀食器

そもそもトリカブト以外に俺が知らない毒で、もっと凶悪でどの料理にも入れられそうな代物は数多くあるに違いない。

これではさっきの考えはただの思い上がりで、現実は八方塞がりだ。

くそ、もっと優羽の話を思い出せ。

毒についてだけじゃなく、毒の対策も話していたはずだ。

落ち着いて思い出すんだ。


俺は目を瞑って深呼吸をする。

慌てるには、まだ早い。

手段が分からなくても、まだ思考する時間は充分にある。

きっと何か見分ける手段は思いつくはずだ。

それに、まずは裕太を助けるんだ。

俺が不安を煽ってどうする。


「どうするんだよ。このままだと何もできないで、時間だけが経っちまうぞ」


裕太の声が荒くなりだした。

裕太なりに必死に落ち着こうとしていたのだが、焦りが出始めたんだ。

やっぱり今のは失言だった。

自分が愚かしい。


「少し、待ってくれ。……そう、そうだ!そういえば優羽が毒を簡単に見分ける方法があるって言っていた記憶がある」


「優羽様々だな。その方法は?」


「えっとな、そう……銀だ!純度の高い銀は簡単に毒物に対して化学反応を起こして、変色するんだ」


「銀?そういえばさっきのスプーン……」


裕太はそう呟きながらテーブルに置いた銀のスプーンを手に取った。

テレビからでは分かりづらいが、銀のスプーンは変色してくすんで見える。


「黒くなってやがる。さっきのスープ、毒が入っていたみたいだな。間違って舐めなくて良かったぜ」


運が良いのか悪いのか分からないが、早くも間一髪だった。

俺の軽率な発言も大概だが、裕太の迂闊な行動で取り返しがつかなくなるのも勘弁願いたい。


「危なかったな裕太……。でも、これで一応見分けは付けれるか。他に銀食器はあるのか?」


「待ってろ。探してみる」


裕太は銀のスプーンを再びテーブルの上に置いて、部屋の中を探索し始める。

おそらく銀食器は仮面の人の唯一のヒントである施しだ。

丁寧に料理の数だけ銀食器は置いていないだろうが、複数個はあるはずだ。

ようやくゲームらしい姿が現れた。

基本的だが、これは如何に食べないで毒があるかどうかを見極めるのが大事だ。

制限時間あると言って焦っても、そのことを蔑ろにしては駄目だ。

きっとや多分の推測や憶測で食べてはいけない。

もしという推測で食べるのは、本当に最終手段となる苦し紛れの手だ。

裕太は銀食器を探しながら、俺に声をかけてきた。

明らかに雑談だったが、変に切羽詰まるよりは良いと思って俺は話を制さなかった。


「なぁ、煌太。なんで俺達がこんな事に選ばれたんだろうな。俺はそこが一番不可解で不愉快だ。無性に腹が立つぐらいによ」


それは俺にとっても一番の謎だった。

仮面の人は俺の疑問をほとんど流したが、意図的に俺を選んで連れてきたのをどこかほのめかしていた。

何らかで事前に偶然にも俺達が選ばれていて、そう聞こえただけかもしれない。

でも奇妙なのは裕太の性格を仮面の人が把握していた事だ。

ただ彼について調べただけなのか、さすがに分からない。

もしかしたら俺や優羽についても、調べはついている可能性はある。

それでもどこか納得はできないし、違和感は拭えなかった。

そう、ありえないがまるで仮面の人は身近に居た事があるような感じがあった気がする。

ただの俺の思い違いかも知れないが。


「それは、俺にも分からない。何をさせたいのかも分からない。ただ、仮面の奴はこれをゲームと呼称していた。だから遊んでいるつもりなんだろうな。ふざけた話だけどさ」


「嫌な遊びだ。どうせ遊ぶなら女の子とがいいぜ」


いつものような裕太の発言に俺は苦笑いをした。

相変わらず軽いノリがあるな。

それがこの状況でも言えるのは感心する。


「……そういえば、仮面の人はお前の女遊びについて言ってたな。色んな女に手を出す欲が、周りに迷惑をかけている罪だとかだったかな」


「はぁ?何だそりゃあ?俺は女遊びであまり迷惑をかけたことは無いはずだぜ。煌太にだって合コンの数合わせに来て貰うぐらいだったしよ」


そうだ、俺はすでに優羽とは交際していたが合コンの数合わせとして出た事がある。

俺としてはちょっとした飲み会感覚でやましい気持ちは無かった。

実際、合コンの女の子と特に仲良くもしていない。

俺がその事を思い出していると、裕太は銀食器を集めながら自分の女遊びについて語り出す。

優羽が思っているような自分勝手な女遊びの話ではない。


「周りに迷惑をかけたってのは間違った情報だな。付き合った女性だって、本当の本気で先を考えたような付き合いはしていなかったはずだ。お互い、都合が良い関係止まりだった」


「だろうな。裕太は今を楽しんでいるっていう感じだったからな。それは相手も分かっていただろうさ」


「だけど、心のどこかでは煌太と優羽のような関係も悪くないとは思っていたさ。まぁ巡り合わせなかったけどよ。その事に関しては運が無かったな」


裕太は次々と銀食器をテーブルの一ヶ所に集めて置いていく。

それでも数は大したものではない。

これだと全部集めてもほんの数本だ。


「結果、優羽が言う女遊びが酷い奴になっちまったかもな。否定はしないさ。言い訳になるし矛盾してるだろうけどよ、一応相手を愛してはいた。すぐに別れたりしたがな」


それは優羽から見たらただの女遊びだっただろう。

実際の裕太の心境は関係無くともだ。

他人による観測と見解とはそういうものだ。

本人の意図など関係なく、自分が観測したものを自分の価値観で解釈して自分で印象やら何やら全てを決めてしまう。

人間とはそういう生き物だ。

そしてエスパーで相手の考えが読めでもしない限り、本人の見解を変えることは不可能だ。


「だから女遊びに対して欲があったと言われるのは分かる。でも、それが罪ってのは滅茶苦茶な話だ。こじつけにも程がある。それにそこまで相手を傷つけることはしていないと断言できる」


裕太の勝手な言い分かもしれないが、俺もそれは保証できる。

話を聞く限り、お互い了承あっての別れがほとんどだ。

良い付き合い方というのを裕太は分かっているから、変に話をこじらせたり相手を怒らす真似はしない。


「と、無駄話している間に集まったぜ。これで全部だ」


集まったのを合わせて銀のスプーンが三本、銀のフォークが三本だ。

銀のナイフは無いようで、合計銀食器はたったの六本となる。

思っていたより少ないが、使いようによってはいくらでも使える。


「よし、銀食器は毒に反応すると言っても全部が全部ではないと思う。だけど大きな手がかりになるのは間違いない。それで問題はどの料理の反応を調べるかだけど……」


そこで俺は言い淀み、どうするべきか悩んだ。

数は限られているから慎重に調べていきたいが、あまり慎重にする必要性もなかった。

なにせ、毒があるかどうかは手元にある銀食器でしか判別できないからだ。

いくら慎重にしても調べ方が変わるわけじゃない。

それに残された時間も多くないので、悩むだけ時間の無駄かもしれない。


でも、まだ自分達が気づいていないだけで、希望的観測ではあっても手がかりがある可能性もある。

何より常に銀食器のストックが手元にあることで、精神的余裕を持ちたい。

もし銀食器を使いきってしまったら、それこそ絶望的だ。

裕太も俺も敗北が目に見えるからこそ、逃げ腰を続けて希望を持ち続けたい。

つまらない希望だろうけど、これは完全に気持ちの問題だ。

高すぎるリスクと少ない制限時間が、より俺達を逃げ腰にさせる。

なのに慎重にしても仕方ない。

酷いジレンマだ。


「煌太。銀食器をどう使うか決められないなら、俺が決めてもいいか?」


裕太はすでに尖端が反応した銀のスプーンを手に取り、洋食の類が置かれたテーブルに近づく。

このゲームはどちらかというと俺がサポートで、裕太自身が仮面の人との対戦者のようなものだ。

だから裕太が決めるなら文句は言わないが、さすがに無策でさせるわけにはいかない。


「何か考えがあるのか?」


「あぁ、一応な。ギャンブルみたいなものだけどよ」


戦略性が薄く、運の要素が強すぎるこのゲームでは何をしてもギャンブルのようなものだ。

何も思いつけない今の俺と違って裕太に考えがあるなら、例え無茶苦茶でも非難のしようが無い。


「別にギャンブルでもいい。何か行動できるなら、無駄に時間を使うよりはずっとマシだ。それで何をするつもりなんだ?」


俺は裕太の行動を注意深く見守りながら訊く。

裕太は金属音を鳴らしながら空いた片手で他の銀食器全てを持ち、洋食の前へと立った。

洋食と言っても西洋料理が混ざっているようで、厳密には洋食と一括りにするのは違うかもしれない。

今はそんなことはどうでもいい事だが。


「一応煌太に説明しておくが、見た通り今この部屋には大雑把に分けると和食、中華、洋食がある。それで各種の料理にはだいたい十五品ぐらいだ。それで俺は洋食に絞り、洋食にだけを銀食器を使って調べていくつもりだ」


つまり裕太は、分かりやすく三分の一を引き当てる賭けに出るわけだ。

いや、もしかしたら三分の一以下かもしれない。

これで洋食に解毒が無かったら賭けに負けたことになる。


「洋食を選んだ理由は?」


俺の質問に、裕太は鼻で笑って答える。

自分自身を嘲笑するような投げやりな様子だ。


「特にねぇよ。強いて言うなら、今は洋食が一番食べる気が無いからだな」


食べる気が無いから選んだ、というのは奇妙な話だ。

こういうのは無意識に好きな料理を選んでしまうような気がする。

それは何も考えがない場合の話ではあるが、それでも裕太の考えがよく分からない。

しかし自分自身の不思議な言い方に裕太は気づいていたのか、俺が言葉で相づちを打つ前に補足してきた。


「もしもの話だけどな、俺は話した事すらない無いが仮面の奴だっけ?そいつは俺の性格を知っているみたいじゃねえか。だから洋食を選ばないのを見通していた可能性があるんだよ。俺の気まぐれだが、あり得ない話ではないだろ。だからこそ俺があまり好みではない洋食を選んだ」


それはどうなのか分からない。

あまりにも些細なことで、思考が過敏になり過ぎている気がする。

だけど本当に仮面の人が裕太の好みを把握していたと考えると、洋食を選ぶのが良いかもしれない。

失礼な言い方になるが、いつもの裕太と違ってなかなか頭が冴えている方だ。



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