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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第四ゲーム
35/36

本性

優羽はこれまでの全てを語り終えた。

この最悪な状況で、破滅するまでの道のりを告白してくれた。

でも俺は正直、困惑していた。

俺がここで、優羽を裏切ってないと断言してもいい。

けれど、それだと駄目なんだ。

このゲームの答えに関して判断するのは、全部優羽自身だ。

そして優羽は答えを口にすることはない。


「ねぇ、煌太」


優羽は悲しみに満ちた瞳で俺を見つめてきた。

今までの優羽のことは分かった。

でも優羽、今のお前は何を想っているのか俺には分からない。

あまりにも複雑すぎて難解だ。

きっと一生一緒にいたとしても、今の心境を理解できないのかもしれない。


「私、幸せだったかな?」


「……………」


答えられなかった。

自分が幸せだと判断するのは、当本人だからとかじゃない。

俺には分からなかったんだ。

客観的に見れば優羽は不幸だ。

幼少のころから何もかも汚されていて、淀んでしまっていた。

でも俺に会ったことで優羽は幸せだと言っていた。

しかしその幸せは香奈恵の存在により濁ってしまって、優羽にとっては純粋な幸せとは呼べなくなっていた。

だからといって不幸、とは言い切れない。

幸せとも言い切れない。


俺は優羽の手を握る。

すると怯えたように優羽は手を震わせて反応した。

冷たくなった手だ。

これが全て投げ出した恋人の手。


「優羽、はっきり言うぜ。お前は幸せだったか俺には分からない。むしろ不幸と言っても間違いじゃない。でもな、優羽……」


俺は優羽の手を引き、体を寄せさせた。

そして優羽の華奢な体を優しく抱きしめた。

何もかも失おうとした彼女。

その体はすごく軽くて冷たくて、死人のような虚無に満ちている。

触れるだけで分かる優羽の絶望。

言葉だけじゃなく、こうして触れることで心が通じていることができる。

心の中を全部捨ててきた優羽の今の心は、あまりにも空っぽだ。


そんな空っぽになってしまった優羽に俺は教えてあげた。

優羽の親しき人の一人として、俺は言葉にして想いを力強く口にした。


「お前は今からでも幸せになれるんだ…!たとえ今までがどんなに不幸だったとしても、本当の幸せが訪れないわけじゃない!決して不幸だけとは限らないんだ!絶望だってする、悲しんだりする、不幸だと嘆いてしまう、だからといって幸せを諦める必要はないんだよ。優羽の望む幸せはきっと訪れる!いや、俺が本当の幸せをみせてやる!」


俺は優羽の顔を見つめた。

その優羽の顔には…涙が流れていた。


「だからさ、優羽!これ以上自分を殺すような真似はしないでくれ…!幸せを捨てないでくれ!生きて、本当の幸せってのを感じてくれ。お前は………優羽は俺の大切な人なんだ!」


優羽は唇を震わした。

そして顔を赤くして、嗚咽交じりに優羽はか細い声で呟いた。


「私、煌太の大切な人になれたのかな…?私っ…優羽は煌太の幸せになれていたのかな…?」


「あぁ、そうだ。優羽は幸せを貰うだけじゃなく、俺に幸せを享受させてたんだよ。優羽はただ幸せだっただけじゃない!俺と一緒に幸せになっていたんだ!そしてこれからも一緒に幸せになるんだ!」


その訴えかけに、優羽は大きく首を横に振る。

それだけ今更不可能と、強く否定してしまう。


「でも私、沢山犯罪を起こしたんだよ…!香奈恵を殺した、煌太の親友の裕太も殺した!煌太の人生を滅茶苦茶にしちゃった本人なんだよ!それに私はもう死ぬつもりで今こうしてここにいる…‼私は死んで償いといけない!死んで全てを清算しないといけないんだよ!そして汚れた私を私自身の手で殺させて!」


「っ……!駄目だ優羽!死ぬなんて、そんなのは駄目だ!」


優羽は泣きじゃくりながら、俺を突き飛ばした。

今つけてる首輪もただ煙の出る代物だったのだろう。

優羽は俺からかけ離れて、荷物からナイフを取り出した。

そしてそのナイフの刃を俺に対して向けてきて、近づかせないようにしてきた。

まさか本当に自殺するつもりなのか。

それだけはさせるわけにはいかない。

まだ何も解決できていない、優羽を納得させてない、このまま死んだら本当に優羽は不幸なだけだ。


「私は最初から死ぬつもりだった!幸せがどうだったなんて今も分からない!でも私は…、私は………あああぁあああああああぁあああああああぁぁ!!」


優羽は完全に錯乱していた。

普通なら下手に近づくべきじゃないだろう。

しかし今はそんな理性的な判断はいらない。

俺は優羽を幸せにしてやるんだ。

それなのに今死なせたらできもしない。

俺は助けるんだ!優羽を!


「そんなことはやめろ!」


俺は全力で走って優羽に向かっていった。

その行動に優羽は驚きながらも、大声をあげてナイフを振り上げて自分の体へと突き刺そうとした。

普通に優羽を抑えては到底間に合わない。

だから俺はとにかく優羽の体に刺さらないようにと…。


「えっ…?」


優羽は呆然とした。

ナイフは思いっきり振り下ろした。

でも振り下ろす直前に、俺に抱き付かれるように押されてしまっていた。

けれど確かにナイフは優羽への体へ向かってしまっていたので、ナイフの刃は刺さっていた。

優羽ではなく、俺の体に。

深々と刺さった刃。

刺さったのは横腹らへんか。

刺さったところから尋常じゃない痛みと熱さを感じた。

熱さと共に抜けていく力。

あぁ、これが血が大量に流れていく感覚か。

すでに生きた心地が無いものなんだな。


俺は傷を押さえることもしゃがむわけでもなく、ナイフが刺さったまま床へ落ちた。

すでに今までのゲームで、体力も精神も限界だったせいだ。

痛みに耐えることもできずに、気を失いそうになっていた。

ただ痛いだけで体が動かない。

もう話す意識がかすかにあるだけだった。


「煌太っ!煌太っ!あぁあああぁ、そんな…!私は刺すつもりなんか…!あああぁあああ、いやああああぁああああぁあああああああああぁあああぁあぁぁ!!」


優羽は部屋に響き渡る絶叫をした。

泣きじゃくってへたり込み、涙を流した。

あぁ、このままだと本当に不幸じゃないか。

何も救われずに終われるものか。

優羽……泣かないでくれ。


「煌太、なんでこんな…!違う、私の望んだ終わりはこんな形じゃなかった!嫌だ…、煌太が死ぬなんてやっぱり……耐え切れないよぉ……!」


俺は無意識に腕を伸ばした。

しかしその手には全く力が入らず、座り込んだ優羽の頬にそっと触れただけ。

優羽の頬に俺の赤い血の跡を作っただけで、俺の腕は下がった。

でもとっさにその下がった腕の手を、優羽は握りしめてくれた。

涙と血で濡れていて、さっきとは違って力の入った手だ。


「煌太っ、死なないで!私生きるから!だから死なないで!幸せになるから!諦めないで生きていくから!だからお互い幸せになろう!そのために死なないでよ!今までのこと謝るためにも生きて!お願いっ…!」


優羽の髪が乱れてる。

目が涙で濡れている。

必死に叫んで強張った表情。

今の優羽に仮面をつけてた時のような、冷徹さの欠片はない。

これが本当の優羽の本性だ。

極限状態の時、本性が出るってのは優羽お前もだったな。

生きてほしいと願っているときの今の姿が、本当の優羽だよ。

殺害を起こしてたのは優羽の本心じゃない。

不幸で生み出された嘘の人格、虚無の存在、本当はなかった心だ。

だから俺に謝る必要はない。

俺が、優羽を幸せにすれば良かっただけの出来事なんだから…。


「優羽…」


俺は意識を無くす直前に名前を呼んだ。

あとは何も聞こえない、何も見えない、何も感じられない。

暗闇に落ちて、俺は永遠と呼べる深い眠りにつくだけだ。

いつ目覚めるか分からない。

…もしかしたら一生、俺は目覚めないのかもしれない。


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