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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第四ゲーム
34/36

各ゲームの真意

『お待たせしました』


店員は、私が注文した並々にコーヒが注がれたコーヒーカップを運んできた。

私は軽く会釈してコーヒーカップを受け取る。

そして同時に、店員から貰った砂糖が入った小さな紙の切り口を指先で裂いた。


『それで裕太は?待ち人はまだ来ないのかな?』


『ん?ああ、そうみたいだな…』


裕太は喫茶店の出入り口に視線を移して、次は窓ガラスから外の様子を深くうかがった。

私はその瞬間を逃さない。

手早く私が用意していた睡眠薬を私のコーヒーカップに入れて、続けて砂糖も入れた。

全て入れたらかき混ぜて、綺麗に黒い液体へ溶かして混ぜる。

これで準備は整った。

あとは裕太に一口でも飲ませればいい。

そう思った時の私の顔は、コーヒーの表面には冷め切った生気ない顔として映し出されていた。


『ところで裕太はコーヒーより紅茶が好きなんだね。なんだか意外』


私が砂糖と薬を混ぜながら話しかけると、裕太は視線をこちらに戻してきて、特に疑問に思う素振りはしなかった。

コーヒーには砂糖しか注がれていないと思ってくれているみたいだ。


『あ?別にそんなことないぜ。ただの気まぐれだ。でも紅茶の方が飲むことは多いかもな。とは言っても、一年ぐらいはコーヒーを口に入れてない気もするから完全に紅茶派なのかもな』


『そうなんだ?なら一年ぶりにってことで一口コーヒー飲んでみる?砂糖入れちゃったけど』


『おいおい、それは優羽が頼んだものだろ。別に人から奪う真似はしないさ』


下らないところで紳士ぶる奴だ。

素直に飲めばいいのに。

人生最後のコーヒーの一杯ぐらいなら、私だって奢ってあげるから気にせずに口に入れろ。

思いとは裏腹に、私は愛想笑いをして促してあげた。


『私は気にしないよ?それにせっかくの私の好意なんだから飲めばいいのにぃ』


いじらしく飲むように誘ってみる。

こんな態度、裕太にしてみることは一生ないと思い込んでいた。

私らしくないし、甘えるような口調なんて煌太以外にしたことない。

私に女性としての自信はそんなにないけど、裕太なら空気を読もうとして誘いに乗るはずだ。


『あーあ、そう言われたら飲むしかないじゃねぇかよ。ならお言葉に甘えて一口だけ貰うかな』


『一口とは言わずに一気に全部どーぞ』


冗談っぽく私は言ってみたが本音だ。

一気飲みして早く寝てしまってくれ。

私は裕太がコーヒーカップに口をつけてすするまで、息を飲んでジッと見つめていた。

裕太はそんな私を尻目にせずにコーヒーを飲む、多分二口ほど。


『やっぱりコーヒは砂糖入っていても甘いとは思えないな。どんだけ苦味つえーんだって話だよ』


『あはは、コーヒーは甘みを楽しむじゃないからね』


『そうだな。……だから俺はまだ甘味がある紅茶の方が好きだぜ。いや、甘味ってよりコーヒーと比べて苦味が無いって言えばいいのか。…はぁ……っ、どうでもいいか』


裕太は欠伸を噛み殺しながら、私と話続けようとする。

でもあまりにも欠伸の頻度が多くて、裕太の目にはうっすらと涙が溜まっていた。

だから裕太は指で涙を拭き取りながら、独り言のように勝手に喋る。


『なんだかすっげー眠いわ。はふぅ…、あくびが全く止まんねぇ……』


『少しだけなら寝ててもいいよ?待ち合わせ人が来たら起こしてあげるから』


『喫茶店で寝るのはちょっとな、でも本当に眠いな。少しだけ…目をつぶるくらいなら…』


そう言って裕太は目を瞑ると、そのまま深い眠りにあっさりと落ちてしまう。

本人はいつ眠ったか分からないほどに、自然と意識が暗闇の中に入ったのだろう。

私は本当に眠ってしまったのか確認するために、何度か裕太を呼びかけてみた。

反応が無いのを確認できたら、私は一度席を立ってタクシーの方へ向かって行く。

タクシーの運転手に手伝って貰って、裕太をタクシーの中へ運んでもらった。

さすがに運転手にはかなり怪訝に思われてしまっていたが、訊かれることは無かった。

しかしいくら不審に思われても関係はない。

もし訊かれてもはぐらかせばいい。

明らかに犯罪事だと感づかれても、私は構わない。

通報されても僅かな時間さえあればいいんだ。

何が起きても、私はこれで終わりなのだから。


『ここから向かって欲しいところがあるんです、少し遠いところですが』


私たち三人がなんとか席に着いてからそう告げると、運転手は明らか様に嫌そうな顔をしてきた。

ため息にも似た曖昧な返事をされてしまう。


『はぁ…?……分かりました』


私の指示を受けながらタクシーは走り出した。

私はその間、窓から街の景色を見てこれからのことを考えるのではなく、今までのことを思い返していた。

この見かけたことのある景色の中で、私と煌太は沢山の時間を過ごした。

楽しいこと、恋しいこと、大変だったこと、寂しいこと、辛いこと、驚きだったこと、悲しいこと、幸せなこと、何でもあった。

その全ての一秒一秒は私の幸せで、煌太は私に幸せをみせてくれた。

そしてこれから煌太は今までの幸せが幻想ではなかったとを証明してくれると信じている。


私がタクシーに案内した場所はあの建物だ。

香奈恵を殺害したときに見つけた、廃墟と扱いの変わらなかったあの空き家。

そこまで運転してもらい、私はタクシーから降りる前に運転手に告げた。


『もし、不審に思われたのなら警察へ通報して頂いてかまいません。でもそれはせめて一日待ってください。もしかしたら何も起こらないのも十分にありえるのです。ただの若者たちのキャンプ、遊び、今はその程度に思っていてください。だから……』


私はそこで言葉を選びなおす。

駄目だ、こんな遠まわしで曖昧な言葉で理解しづらい発言では。

もっと直接的に言って、そうしてくれると願うしかない。

この運転手には不幸なことだが、少しだけ私の面倒に手を貸して貰いたい。

最悪の場合、誰一人生存できないのもありえてしまうから。


『いえ、一日経ったら間違いなく警察に通報してください。迎えにいく連絡が来るはずなのに連絡がない、森の中だったから遭難した恐れがある。そんなこと言って下されば充分です。すみません、お願いします』


私は深々と頭を下げて懇願した。

すると運転手は表面的だけか分からないが、了承する素振りとして頷いてくれた。

もし運転手が通報してくれなければそれでもいい。

その時はその時の手段を用意してある。

私は裕太と煌太を往復で、建物に用意してた車椅子で建物内に運んでいった。

それぞれが役割を果たすべき部屋へ。

煌太は最初に目覚めたあの部屋に、裕太には第一のゲーム場へ。

そして私は鍵をかけながら、最終チェックしてから終わりの部屋へ向かった。

寒く狭い通路を通って機材を置いた部屋に。

荷物を全て置き、私は仮面を被る。


煌太、私は信じているから。

きっと貴方なら私を幸せに殺してくれると。

さぁ、ゲームの始まりだ。

私はボイスチェンジャーを使って、目覚めた煌太に語り掛けた。


『お目覚めだね、煌太君』


最初、煌太に焦りは思ったほど感じられなかった。

人間らしい敵意が向けられただけで至って普通だ。

彼らしい反応に、彼らしい発言と態度。

しかしあまりにも私が知ってる彼らしさだ。

それが煌太の本性、じゃないよね。

まだいつもの私が見ていた彼に過ぎない。

だからどこまでも、極限状態へ引きづり出そうと私は幾度も煽った。

第一ゲーム中はわざと心をへし折るように残酷に言い、死を意識させた。


苦しんで、煌太。

悩んで悔やんで恐れて悲しんで、本当の自分を晒して。

そして香奈恵のことを思い出して。

私の存在にきづいて。


あとの全ては、大まかには煌太が体験した通りだ。

ただ、真実だけを語ってしまえば第一ゲームで裕太に毒は仕込まれていなかった。

遅行性の毒は嘘だ、そんなものはない。

ただほとんどの料理に毒が入っていただけで、解毒とかどうかなんて全部無い空想の話だった。

つまりは憎い裕太を殺すだけの、第一ゲームに過ぎなかった。


第二のゲームは事前に録音したテープでゲームの説明をさせた。

だからゲーム中に語りかけることはできなかったし、受け答えは一切できなかった。

そのためにゲーム終了後に仮面の人として、煌太に話しかけたのには少しのタイムロスができていた。

ちなみに爆破する首輪については嘘だ。

あれは発煙するだけの疑似的な爆弾首輪。

少し熱いだけで何も害はない。

液体も血のりで、私の中身と誤認したのはただの首輪の破片だ。

だから私が死んでるわけもなかった。

でも煌太の極限状態や本音を引きづり出すには、助かる寸前で死ぬ演技をする必要があったために、パスワードも順調に手に入るようにしていた。

そう予定通りになるように、私は暗号を解読する演技までもして、まさに死ぬ恋人を演じ切って私は死んだ。


しかしゲームの途中、煌太の反応を探るためにアルバムとかも用意したが、期待外れの成果だったのは仕方ない。

ただ第二ゲーム中に一つの推理の仕方を教えたのは正解だったと思っている。

こうして私が語るまでもなく、ある程度は理解してくれたのだから。


あとは一から百まで語るまでもない。

ゲーム開始から全ての言葉に真意は隠れていたけど煌太、貴方ならきっと説明するまでもなく理解してるはずだよね。

どの言葉も私の真意、私の本音となる言葉。

………でも、第二のゲームでの優羽として登場したときの言葉もほとんどは本音だったよ。

言葉だけじゃない。

今までの行動だって、なんだって意味があった。

それもどれも全部は私と煌太のため。


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