計画的犯行
犯行当日。
最後になるかもしれない煌太とのデート。
思いっきり楽しんだ。
偽りかもしれないけど幸せだった。
上辺だけでも嘘でも、これも幸せと呼べるなら私は喜ぶべきだった。
でも私の内にある思いが、私を素直に喜ばせない。
帰り道、私は行動を始める。
ゲーム開始前から私の計画と仕掛けは動き出す。
同時に煌太にはヒントを与えていく。
気付いて欲しいから。
『実は私、宝クジが当たったのです!』
本当は一年以上も前の話だけどね。
『え、本当か?凄いなぁ、いくらだよ?』
少し弱いがリアクションはしてくれた。
これで記憶の片隅には残ってくれてはいるのかな。
一応は話は引っ張っていこう。
『ひ・み・つ』
『秘密?何でだよ?』
『えへへ、何でだろうね。煌太』
気づけば、これは私達にとってはテンプレートな会話のやりとりだ。
私が秘密と言い、煌太は深く探りを入れずに軽く流してくれる。
その優しさは嬉しいけど少し寂しい。
ねぇ、今までの秘密にどれだけ私は本気で隠していたか分かっている?
私達は若い恋人らしくのろけ話をしていると、裕太がやってきた。
今日、お前が私と会うにはまだ早い。
これですでに完璧に計画が進めれないのが分かり、私は苛立つ。
この苛立ちは煌太に気づかれないように祈るしかない。
裕太が去った後、煌太は私にネックレスをくれた。
綺麗で、私にはあまりにも輝きが強すぎるネックレス。
とても嬉しいけど、今の私には悲しすぎた。
『それにしても今日はやっぱり暑いな。喉が渇いた』
プレゼントを渡した事に照れたのか煌太は話を変えてきて、私は煌太の言葉に素早く反応した。
色々と方法は用意しておいた中でも、これなら手っ取り早い。
『あ、私ペットボトルのお茶が残ってるよ。飲む?』
私は飲みかけのお茶を取り出した。
お茶の中には大量の睡眠薬を溶かしておいてある。
過剰な量だから、一口でも飲めば深い眠りには落ちる。
代わりに煌太には強い頭痛や目眩に逢うだろうけど、我慢してね。
煌太はお茶を飲んでから私に返すと、足元をふらつかせた。
ここまで早く効果が出るなら立派な毒薬と言える。
私は煌太が朦朧とする意識の中で、地面に座らないように体を支えてあげた。
その状態で通りかかるタクシーを止めて、煌太を車の後部座席に座らせた。
それから煌太は深い眠りに入って不審に横たわらないように、煌太の隣に私が座る。
『お連れさん、どうかしたのですか?』
タクシーの運転手が好奇心ではなく、親切心で訊いてきた。
酔っているようには見えないのに煌太がこの状態だから、病気にでも見えたのだろう。
『ただの眠気です。最近、寝て無かったそうですから。それより…ある喫茶店に向かって欲しいのですが』
どう怪しまれても私はただのお客に過ぎない。
だから面倒事だと察してはいるのか、深入りせずに運転手は仕事の調子に入る。
『あっ、と。すいません。ええと、どちらの喫茶店でしょうか?』
私は喫茶店の名前と特徴を言い、どの辺りかを運転手に告げるとタクシーは走り出された。
次は裕太だ。
裕太には、私が香奈恵と偽名した手紙を送っている。
無視される恐れがあったけど、さっき会えた事を考えれば待ち合わせ場所にいるはずだ。
でも裕太なら誘いにのると、私には確信に近いものがあった。
香奈恵は美人だ。
しかも好みあれど、香奈恵は美人と誰からも言われそうな程にだ。
そんな美人に裕太が食いつかないワケが無い。
絶対に下心を出してくれる。
そして私のその予想は正しかった。
『すみません、少し待って頂けますか。待ち時間分の料金は出しますので』
『長くならないなら大丈夫ですよ。それと距離性運賃ですから料金の心配はいりません』
私はありがたいございます、と小さく頭を下げてタクシーから降りた。
喫茶店に入る前に店内を覗くと、裕太が退屈そうに紅茶を啜っている様子が見受けられた。
この男は良い顔はしていても、居酒屋にいる方が似合いそうだ。
私が店内に入ると、店員の挨拶と共に裕太の視線が向けられた。
裕太は退屈そうな顔から、不思議そうな顔に変わる。
さっきまで私は煌太とデートしていたのだから、変に思うのは当然か。
そんな不審に思われるのを気にせずに、私は裕太の前の席に座る。
さすがに裕太は何だよとぼやいてきた。
『煌太とデートじゃなかったのかよ?それに何でここに来て居座るんだ?俺、待ち合わせでいるんだけどよ』
『いいじゃない、待ち合わせの相手が来るまで居座るぐらい別に』
『いや、答えになってねぇよ』
面倒だから会話を省いてさっと一服盛りたいが、そこまで甘くはないか。
仕方なしに私はコーヒーを注文して、粉末状にした睡眠薬をどうにか飲ませることにした。
具体的にって決められた方法はないが、外にいる煌太に意識を向かわせるなりトイレに行くタイミングなり、痴話話で意識をそらすこともできる。
つまりは見計らえば私のコーヒーにでも、裕太の紅茶にでも盛れば飲ませれるのは簡単だ。
まして裕太なんて頭の悪い奴に、私の動向を見破れるものか。
こいつは意外にというべきか、かなり単純でその時その場の状況に流されやすい奴だ。
『何、ちゃっかり注文までしてるんだよ。俺とデートでもしたいのか?それならコーヒーぐらい奢ってやるぜ』
『つまらない冗談は嫌いだよ。本当、裕太はいつもそんな調子なのね。変わらないと言うか成長しないっていうか…』
本当にいけ好かない。
裕太は私に手を出してきたのを許されたと思っていそうだ。
口に出さないだけで私は裕太の下衆な行動は忘れない、濁った気持ちは薄れていない。
裕太は紅茶が入ったカップを受け皿に乗せて、じっと私の顔を見てくる。
この視線は探りを入れてきているものだ。
敵意ある表情は僅かも出せない。
『で、お前ははぐらかしたけど煌太はどうしたんだ?それに何の用だよ』
答えないと察している癖に追い打ちをかけてくるのか。
妙な勘でも働かせているののかな、さすが伊達に女経験が豊富なだけはある。
女の隠し事には鼻が効くみたいだ。
『煌太は先に帰ったわ』
簡潔に短く答えると、裕太は少し眉にシワを寄せた。
そして常に手は何か掴んでないと落ち着かないのか、飲まないのにティーカップの取っ手に指をかけてた。
『あいつが先に?薄情なんだな、デートは帰りまでエスコートするのが常識だってのに』
『へぇ、そうなの?それなら次からは運賃までエスコートさせようかな。ふふっ』
私は話の流れに合わせて、愛想笑いをして見せた。
警戒を一番薄れさせるのは笑顔が一番だ。
たとえどんなにあからさまでも、相手は警戒を緩める。
通常なら、笑顔は心を許した相手か好意的な態度でしか出さないものだと人間は知っているからだ。
そして計算して笑顔するのは接客だけだと思ってしまっているから、余計に効果は強い。
今だけ裕太に対して態度を改めよう。
最初に厳しくしたのは迂闊だったけど、今から好意的にすれば大丈夫なはずだ。
『俺なら最後までエスコートしてやるぜ?もちろん自宅の中に入ってもな』
こいつ馬鹿か?
前科がある分、この発言はただのセクハラだ。
『全部そっちがお金出すなら考えようかな。もちろん自宅内の不法侵入はお断りだけど』
私の言葉に裕太は軽く笑ってみせた。
なるほど、裕太は上手く言葉を拾って自然と笑顔を多く見せるからモテるわけでもあるのか。
自分の言葉に良い反応する人だから、裕太は一緒にいて楽しい人と判断されやすいんだろうな。
私は一緒にいても、不愉快な思いしかしたことないけどね。




