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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第四ゲーム
32/36

暴走

地面に付着した香奈恵の血を雨とペットボトルの水で流して、次にスコップで地面を掘った。

水のせいで土は酷く重くなってはいたけど、軟らかくもなっていたので想像していたよりは苦にならなかった。

だが、埋めて死体を隠すのは利口ではないと私は知っていた。

いくら深く掘ろうが、野良の動物や飼い犬が掘り起こすなんてよくある話だ。

地中レーダーで遺体が偶然発見されたという話も聞いたことがある。

とにかく日本の辺ぴな山に遺体を隠すなんて、死体が発見される可能性が海に棄てるより何倍も高いのは間違いない。


それにしても深く掘らないといけないのは辛いものだ。

香奈恵の死体をバラバラにできれば楽だと言うのに。

ただ一般工具では解体作業が辛すぎるし、斧とかでは骨が砕けて飛ぶ危険性もある。

電動物は音がうるさすぎて使えず、故障する可能性も高いのは想像がつく。

薬品で死体を溶かすにしても今更無理な話だ。

今、あれこれと考えていても死体の細工はできない。

とりあえず死体を埋めて、私は生きないといけない。


ふざけた事を思考している間に、私は充分な深さと広さのスペースを持った穴を作った。

その墓穴に、香奈恵の体を転がして放り込む。

穴に溜まった泥水が跳ねていくと同時に、香奈恵は水に身を沈めていった。

このまま暗闇に消えてくれ。

そう願っても死体が水底に溶けてくれるわけが到底無く、私は息を切らしながらも香奈恵の上に土をかけるしかなかった。


疲れと雨水で体が重い。

それに視界は霞むし、頭痛も酷い。

最悪の気分だ。

香奈恵を殺したのに、何も解決できていない気がしている。

障害は取り除いたけど、その障害以上の不安の種が私に残されてしまった。

それは私に舌を噛み切らさせようとするほどに、大きな不安だ。

けれど、私は逃げるわけにはいかない。

一秒でも目を逸らしてもいけない。


やっとの思いで香奈恵の死体を完全に土の中へ埋めた私はスコップを近くに放り込み、力無く地面に座り込んだ。

途方もない疲れが湧いてきて眠気すらある。

このまま眠ったら死ねるだろうか。

死にたい。

なのに死にたくない。

不幸のまま死ぬのは嫌だ。

さっきから意味不明な思考が繰り返される。

私の頭はどうなってしまっているんだ。

まるで別人の私がいて、私の脳を破壊している。

思考力が一切冴えず、雑念ばかりで思慮が浅い。

こんな私の本心は一体どこにあるのだろうか。


荷物を車の後部座席に積み直して、私は鈍い動きで運転席に座った。

あまりの寒さに私の体が冷たいのが分かる。

雨水で全身が濡れてしまっているんだ。

冷えているのは当たり前か。

エンジンをかけて、気休めに車のエアコンを調整して車内を暖める。

そしてため息を吐いて森の中を徐行していった。


『…………あれ?』


何分か車を走らせたが、私は気づかない内に全く知らない道に出ていたみたいだ。

気づいた時には手遅れのようで、どこへ行けば戻れるのかすら分からなくなっていた。

あいにく私の車にカーナビはない。

代わりに携帯電話のナビ機能を活用するが、どうも電波が悪くて使い物にならなかった。

仕方ない。

適当に走らせて電波を拾うか、建物を探すしか手段がないのかな。

しかし今いる場所が余程の辺境の地なのか、電波がなかなか届いて来ない。


『あ、建物……』


そして私はコンクリート製の寂れた建物を見つけた。

その建物は見慣れた物ではなく、一階建ての上に窓が少なくて公共施設の類には見えなかった。

ただ外装はシンプルで仮設住宅に近い。

しかし周りには何の建物は無く、平地にポツンとあるようなものだから住宅とは思えない。

更に言ってしまえば灯りが点いてないので、人がいるとも考えられなかった。

それでも浮浪者でも何でも地理が分かる人がいるかもしれないと、私は車を建物の近くに停車させた。


『はぁ、寒い』


私は愚痴りながら小雨になってきていた外に出て、建物の扉に近づく。

扉は鉄製で錆の色がついている。

相当放置されていたんだな、と私は思いながらドアノブを捻る。

………鍵はかかっていなかった。

すんなりと開いてくれた扉を私は押して、足を踏み入れる前に中を覗いてみる。

暗く、何も見えない。

湿っぽく埃臭い空気に、最近人が出入りしていた様子も感じられない。

それから私は誰かいないかと声をかけながら、建物内を探索した。


その結果からを言うと建物は無人だ。

中の構造は狭い個室ばかりがあって、家具が無い所かゴミすら落ちていなかった。

あとは何らかの拍子で割れたであろう数少ない小さな窓があったぐらいで、本当に建物内は何も無かった。

一体何のための建物だろうか。

それに関しては全く確証はないが、構造と現状だけでおおよその検討は私には付いていた。

この建物が何かという私の予測はあまりにも余計な時間がかかるので、説明は省く。

大事なのは単に空き家か、表沙汰にできない労働に使われていたのかではなく、今は完全に放置されているかどうかだ。

もし放置されているのなら、この建物は使える。

私はそう思って弱々しい電波を何とか近くで拾い、場所を確認した。


それから数日後、私の運命は加速していく。

あの建物と土地の所有権を持つ管理者に連絡をつけるまではできたが、肝心のお金が私には足りなかった。

もう利用価値が低いと言われて安い相場を出しては貰えたのだけど、車をローン払いにしている私にはとても手が出せるものじゃなかった。

すぐに返還する条件を付けてレンタルする形にしても、なかなかに気軽に出せる金額にはできなかった。

……そうだったのだが、金銭に事は意外にもっさりと解決した。


『宝くじ、当たってる………』


いつも一枚だけ定期的に買っていた宝くじが当選した。

複数者が当選していたみたいだけど、私の手取りとなる金額は二千万だった。

これなら足りる。

このお金をタネにして借りることもできるが、そこまで莫大なお金は必要ない。

この当選額で私はやりきろう。


『最近、気難しい顔をしている事が多いよな。何か悩み事でもあるのか、優羽』


当選してから数日、煌太は私の変化に反応していた。

この変化は小さく僅かな心模様。

香奈恵が生存していたときは私の悲しみに気づけなかったのに、今は気付いてくれるんだね。

そう思えば、香奈恵を殺害した意味があったかな。

私はそんなことを考えながら、愛想笑いして返す。


『えへへ、秘密~。悩み事は確かにあるけど大したことないよ』


『そうか?いつでも相談なら乗るからな、無理するなよ』


うん、無理はしない。

無理かどうかなんて考えたこと無かったけど、無理はしないよ。

無理なんかしていない。

そうだ、裕太はどうだろう。

あいつはお父さんと同じ駄目な奴だ。

なら殺しても良いんじゃないかな。

私に卑猥なことをしようとした時の眼は、行為してくる父親と同じだった。

気持ち悪い。

余計なことを思い出した。

あぁあぁ、でも思い出せば思い出すほど父親への憎悪が裕太に移っていく。

父親が死んでも、未だに消えない憎悪とトラウマ。


そもそも裕太がいなければ、煌太は香奈恵と知り合わなかった。

こんな事にもならなかったはずだ。

裕太さえいなければ、私の幸せは穢れを知らなかった。

香奈恵と同じだ。

私の幸せを奪う奴は許さない。

もちろん誰だろうと、煌太の親友であろうと。


もう私は一度暴走してから、私の中のブレーキは壊れていたかもしれない。

悪意は強く、信念は歪み、前すら見えずに振りまわされ修正が効かなくなっていた。

崖を飛び越えるまで止まることができない私。

だからどこまでも限度なく私は突き進む。


さて、どういう風に私は煌太を試そうか。

どうせなら全てを投げ出せるものがいい。

文字通りに命を賭けるのだから、極限状態に引きずり出すまでしよう。

人間の本性はその時に見えてくるのだと私は思う。

煌太なら父親とは違うかどうか証明してくれる。


肝心の試す方法は……、ゲーム形式がいい。

分かり易くて応用が効きやすいし、私が望む状況に作りやすい。

ただゲーム形式にするには強制力が必要だ。

相手がこちらに従わなければゲームは始めれない。

そこは私が主催者と気取られず、人質として登場すれば大丈夫だとは思う。

自分の行動が他人の命を左右するなら軽視はできない。

けれど、それが現実味ある状況を作り出すのには骨が折れそうかな。


それでゲーム形式にするとして、どのように組もうか。

最初に裕太の命、次に煌太、最後に私の命を使うゲーム順番が良いとは思える。

これなら煌太は最後まで真剣にゲームに立ち向かってくれるはず。

それが望ましいけど、本当にそれでいいのかな…?

私は煌太を試すだけでいいのかな?

私は本当は煌太に………。

ううん、もう私は決めたんだ。

今更やめる真似はしない。

でも、もし煌太が私に気付いてくれるなら、気持ちを分かってくれるなら……賭けてみるのもいいかもしれない。

命や本性とかじゃなく、煌太が全てに気付いて分かってくれるか知りたい気持ちがある。

私は悩みながらも決めた。

単純に煌太の愛を確かめるのではなく、煌太が私の願いにきづいてくれるか。

それら全てを、私がおこなうゲームの形にした。


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