拷問と暴行
『あ、この道……』
私は途中で進路を変えて獣道へ車を突き進めて、舗装された道からできるだけ遠くに離れていく。
小さくゆっくりとアクセルを踏みながら。
やがて木々のせいで車での進行は不可能の道となり、仕方なく私は車を停止させた。
それからできるだけ目立たないように、車のライトを消して私は降車した。
後部座席の方へ回ると、香奈恵はまだ熟睡している様子だった。
しかし私はそんなのお構い無しに後部座席の扉を開けて、香奈恵を地面へと引きずり出した。
そのまま体の重心を失っている香奈恵は激しく地面と衝突して短い呻き声をあげる。
そして私は無意味に丁寧な口調で話しかけた。
『おはようございます、香奈恵さん。眠気は抜けましたか?』
『………何よ、これ』
香奈恵は状況を把握しようと体を動かそうするが、動ける訳もない。
それで香奈恵は私に拘束されていることを察知した。
同時に香奈恵は私を睨みつけて、うるさい声でヒステリックに叫んだ。
『ふざけるんじゃないわよ!アンタ一体何のつもりよ!こんな事をして馬ッ鹿じゃないの!?』
怯える前に暴言を吐くあたり、香奈恵らしい反応だった。
でもこの先はどうだろうか。
彼女はいつまで反抗の意志を見せてくれるのか。
私は冷徹に香奈恵を見下ろす。
私自身の心の中は自分でも分からない。
憎しみが煮えたぎって殺意しかないのか、冷静で平常に居れているのか。
なぜか分からないほどに頭の中はスッキリとしているに、感情が滅茶苦茶になっていて、 冴えているようで何も考えれてはいなかった。
その証拠に香奈恵の言葉を聞いてはいるけど、何も私の思考に組み込まれはしていない。
ただ私は一つの目的に向かって暴走していた。
その暴走する先は、自分が無意識に言う言葉が示した。
それこそが私の本音かもしれない。
『私の幸せは誰にも奪わせない。誰にも汚させない。何があっても誰であっても私は幸せを手放さない。もし私の幸せを台無しにするというのなら、私は手段を選ばない』
『は、はぁ?いきなり何を言っているの?頭イッちゃっている?アンタ、薬でもキメてるわけ?』
香奈恵は自分の置かれている状況より、私に戸惑っているみたいだ。
お前の方が頭がどうかしているよ。
だって私は冷静だ。
冷静の殺人鬼。
私は香奈恵の問いには答えずに一人で話続けた。
『だからと言って私はお前を一思いに殺すつもりはない。すでにお前に蝕まれている私の幸せを、痛みにして返してやる。人であった事を後悔するほどに痛みつけて、無惨にしてやる。殺して欲しいと懇願するまでやってやる』
私は地面を蹴って、土を香奈恵の顔にかけてやった。
口に土が入ったのか香奈恵はみすぼらしく唾を吐く。
両手は後ろに縛られて両脚も縛られているから、まるで芋虫みたいに香奈恵が身をよじらせている。
それから香奈恵は文句を垂れてきたが私は耳にも入れず、車から無造作に道具を取り出して地面に投げ出した。
『な、何よ……。何をするつもりよ?』
『復讐、かな。それとも拷問って言った方が正しいのかもね』
私は笑みも浮かべずに、淡々と言いながら果物ナイフとライターを手に取る。
そしてわざと香奈恵の目の前で果物ナイフをライターで炙って刃を熱くした。
とは言っても所詮はライターだから長時間に熱したとしても、大した熱さにはならない。
けれど十分だ。
熱すぎては痛みが強すぎて、熱による痛みしか与えれない。
刺される痛みも一緒に感じて欲しい。
目の前で熱されるために、香奈恵は視覚的恐怖を感じている。
なんだか香奈恵には残念かもね。
ただの恐怖では済まないから。
私は香奈恵をうつ伏せにして、香奈恵の服の袖を捲って刃先を当てる。
すると香奈恵が声を押し殺し、熱さに堪える。
だけどこれから痛みが続くのだから、そんな痛みを我慢する意味無いのに。
ゆっくりと私は香奈恵の右手首辺りから、肘の近くまで刃を移動させた。
赤く細い線が香奈恵の腕に模様づけられる。
肘の下まで傷を付けたら、私はナイフを握る手に力を込めて、深く突き刺してあげた。
一瞬だけ皮膚がぐにゃりと歪んだが、刃は綺麗に香奈恵の肉を裂いて血肉に収まる。
『あぁぁぁあ゛ああぁぁ!?痛い痛いぃ!』
今まで不敵な様子しか見せなかった香奈恵は、ついに表情を滅茶苦茶にさせながら悲鳴をあげた。
その苦痛にまみれた声は、私の黒い気持ちを幾分か晴らしてくれる。
でも強い痛みは香奈恵を暴れさせるよりも先に体を硬直させたために、ナイフの刃が余計に傷口を広げない。
私はそれが気に入らない。
だから余計に傷口を大きくしてあげる。
私は精一杯の力でナイフを捻る。
筋肉か骨で捻るのに強い抵抗力を感じたが、 それでも私は刃を動かした。
香奈恵は悲鳴を上げ続ける。
歪になる肉から血も溢れ出してきて、応急処置では済まされない傷になっている。
今、香奈恵はどれほどの痛みに苦しんでいるのだろうか。
行使している私には想像がつかない。
いや、想像がつかないほどに痛がって欲しい。
でないと私は香奈恵を殺す意味がない。
私の幸せを奪おうとしたことに後悔して貰わないといけないから、大いに痛がれ。
刃を抜き取ると、更に血はとめどなく溢れてくれた。
人の体ってこんなに血を流せるのか。
まだ量は多く無くても、血が辺りに広がる様子を見ると、すぐに死ぬのでは無いかと思うほどに血は流れている。
もし早く死んでしまったらそれまでだ。
それはそれで仕方ない。
『ううぅっ…!ふざけないでよ!こんな馬鹿な事をして何ともないと思っているの!?アンタ捕まるわよ!分かっているの!?』
激痛に涙を流して、香奈恵は私を脅す真似をしてきた。
こいつは馬鹿か。
すでに私は、お前を殺すと言った。
そんな相手に捕まるとか言っても、やめてもらえるわけが無いだろう。
『……だから何?これで私の幸せが壊れるって?香奈恵のせいで…、お前のせいでどちらにしろ幸せが壊れるんだよ!分かっているのはどっちだ!!?お前じゃない!私だ!私が正しい!私の幸せは私だけ!お前の物じゃない!幸せのためなら殺してやる!お前なんか殺してやる!殺してやる!!』
私は支離滅裂になりかけの言葉を吐き、感情に任せてナイフを香奈恵の背中に突き刺す。
今度は刺したままナイフの柄から手を離して、地面に置いた殺虫剤のスプレーを手にとった。
躊躇わず香奈恵の顔に噴射する。
耳が痛くなりそうなほどに、高く醜い声で香奈恵は鳴いていた。
それは人間とは思えない声だった。
うるさいが、私はその叫びや泣き声を聴きたかった。
『どう?少しは懇願したくなった?』
『…あぁっ……!な、何よ…!アンタなんかどうせ、暴力でしか私を訴えてないくせに!肝心の煌太の心はどうなんでしょうねぇ!?こー君はアンタに魅力を感じているのかしら!?本当に心からアンタだけを好きだと思っているの…!?』
こー君?
……あぁ、この卑しく低俗な女は煌太にそんな馬鹿にしたあだ名をつけているのか。
如何にも煌太を侮辱しているあだ名だ。
私は香奈恵の頭を踏みつけた。
顔面が地面と密着するように、力を入れて香奈恵の顔が茶色くなるように化粧をしてやる。
『煌太は他の男性とは違う。私の事を愛してくれている。私だけを大事に想ってくれている!それは私も同じ』
脳裏に香奈恵と煌太が一緒にいた姿が思い浮かぶ。
私は口では煌太を信じていると言葉で吐いているのに、この映像はなんだ。
なんで香奈恵と煌太の仲のいい光景が見える。
煌太は違う。
裕太のような卑しい男性じゃない、お父さんのように下劣な男性じゃない。
私を大切にしてくれている。
煌太だって男性だ。
気の迷いくらいはあるのだと思う。
でも少なくともお父さんとは違う、違うんだ!




