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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第四ゲーム
26/36

犯人の正体

一通り過去を語った仮面の人は溜め息を吐き、静かに沈んだ口調で言う。


『今、私が話せるのはここまでだ。煌太君。さて、パスワードを打って貰おうか。私の名前を打て』


「………………」


俺は青ざめた顔でうつむいた。

仮面の人の話を聞いて全て繋がった。

分かってしまった。

全てを語っていなくても、俺には全てが分かる。

何がどうなって、何が原因か。

このゲームの意味、ゲーム中に起きた事、裕太を殺した動機、香奈恵の失踪、不可解なアルバム、香奈恵しか知らなかったはずの俺のあだ名、俺の罪、そして優羽の……。

些細な疑問も全部理解できてしまう。

察することができてしまう。


「嘘、だ………。嘘だろ…!」


俺は涙を流して悲痛に嘆いた。

分かっていても信じられない。

あり得ない。

こんな無茶苦茶な事実があっていいのか。

真実は残酷?

あぁ、本当に残酷だ。

あまりにも残酷で真実と認めたくない。


「どうしてだ。どうしてだよ!何で………!?」


『………パスワードを打て、煌太君。話は、直接聞こう』


打ちたくなかった。

このパスワードは合っている。

そう確信できるが、打ってしまえば俺は認めることになる。

全ての事実を受け入れる事になる。

俺にはそこまでの覚悟は無い。

それほどまでに、死を覚悟した以上にこの真実は辛い。

でも本当の意味で全てを明らかにするため、終わらすためには打つしかなかった。

しかし打とうとすると指が震えた。

情けなくなる話だが、やっぱり打てない。


「信じられない!こんなのただの偶然で俺の思い違いのはずだ…!けど、今の話を聞いていたら………」


仮面の人の話は創作の可能性だってある。

けれど到底は創作とは思えない。

もし真実なら辻褄が合うからだ。

話を一片の疑いもなく信じれば、詳しく正しく説明できなくても、大まかにどうなっているかは俺の口から事を話せる。

だから虚実が混じっているにしても、全てが嘘とは思えない。


「……何でだ?何でこんな自殺する真似をしたんだ?」


仮面の人の自殺、それは第四ゲームの事に限った話ではない。

この今までのゲームそのものを始めた時から、仮面の人は自殺している。

自分の全てを自分で台無しにしてしまっている。

それは命があっても自殺と同じ。

文字通りの自滅だ。


『今はこれ以上の質問は受け付けない。パスワードを打て』


さっきから仮面の人はパスワードの事しか言わない。

どうやら仮面の人と直接話すしか無いようだった。

そのためには、俺がパスワードを打つしかない。

それでも打ちたくはなくて、俺の中で葛藤が続いた。

そんな躊躇いを持ちながらも、ついに俺は数字を打ち始めてしまう。


「………」


一つ一つ数字と文字列を照らし合わせて、間違いが無いように確実にゆっくりと押す。

不安と緊張と疑問と恐怖で頭の中がいっぱいで、手の震えが止まらない。

……人間ってのは追い詰められると、何で情緒不安定になるのだろう。

俺が情けないだけかもしれないが、どんなに落ち着けと暗示しても気持ちが滅茶苦茶なままだ。


まるでキーボードを打っているのが自分では無い別人かと錯覚する程に、意思と行動が反している。

そう思うほど打ちたく無かったし、打たなければいけないとも思っていた。

こんな俺が真実に耐えれるだろうか。

自分で求めておいて、真実の直前となれば逃げ出そうとする。

だから俺は、きっと耐えられない。


名前の部分となる数字は打ち込み終わり、後は0を連打するだけとなった。

ここまで来ると俺は流れに身を任して0を押す。

どうしてこんな0を押すルールをわざわざ付けたのか、今ならよく分かる。

わざわざ名前を打たせるのは仮面の人にとっては深い意味があっての事で、どうしても数字が被る恐れが強かったから0を加えたんだ。

そう、俺が知人の名前を打とうとすればどうしても数字が同じになる。


どうしても数字が被るのを避けたかったら、別のパスワードにすればいい。

それだと名前を打たせる意味が無くなるのだろう。

確実に仮面の人は自分が何者かだと俺に知って貰いたくて、名前を打たせている。

つまり仮面の人は気づいて欲しかった。

分かって欲しかった。

俺への想い、恨み、憎しみ、過ち、過去、事実、全てを。


「………あぁ、本当にお前なんだな」


【正しいパスワードを認証しました】


パソコンに表示された文字が全てを物語っていた。

これで俺は仮面の人と会って確かめるしか無くなった。

パスワードが適合して、仮面の人は落ち着いて話す。


『………おめでとう。見事にパスワードは適合した。廊下に戻り、開かなかった扉を調べてみるといい。そこに私はいる。待っているよ、煌太君。いや、煌太。私の大切な知人』


俺は受け答えをせず、しばらく放心したように立ち尽くした。

俺が打った数字。

252………………。

思い出しては表情を歪めた。

これで全くの別人だったらと、俺はありもしない希望を持つ。


「そうだとしても、そうじゃなくてもあり得ないな。………いくか」


俺はパソコンから離れて第二ゲームが行われた部屋から出ていく。

そして第一ゲームの部屋から、廊下へと続いて出て行った。

心無しか息苦しさがある。

酷い緊張が俺を強張らせているのか。

さっき開かなかった扉を調べて、ドアノブを捻る。

鍵は………かかっていない。

俺は一呼吸置き、勢いよく扉を開ける。

すると薄暗く狭い個室へと続いていた。

弱々しい光りしか出さない蛍光灯。

部屋の角には俺達の荷物が置かれていて、後はテーブルに椅子。

テーブルの上にはテレビやマイク、パソコン、沢山配線された機械が複数置かれていて鍵束があった。

そして椅子には仮面の人が座っている。


仮面の人はロングコートを着ているために体型が分かりづらいが、体は細く女性の体つきしていると何となく分かる。

単に俺が仮面の人の正体が女性と分かっているから、女性の体つきに見えているだけかもしれない。

しかし部屋に入ったが、仮面の人はこちらを見て黙るだけで、何も話さない。

仕方なく俺が慎重に仮面の人に近づき、仮面の人の片手を持ち上げた。

そして指先を見ると小さな傷があった。

新しくできたばかりの傷。

それは、よりあの人だと確信させた。


「本当に………お前なんだな」


「………うん、そうだよ」


俺が問うと仮面の人は聞き慣れた女性の声で、知っている口調で肯定した。

まだ嘘だと思いたい。

実は真犯人が居て、無理矢理にやらされているのだと思いたい。

でも、いつまでも迷っていては駄目だ。

これが真実なのだから。


俺は丁寧に仮面の人の仮面を外してやる。

そうすれば知る顔が見えてくる。

仮面の人、彼女は仮面を外されると死んだ生気の無い笑顔を俺に向ける。


「どうだった?最後まで、私だと分からなかった?」


「……そうだな。第四ゲームまで、お前だと気づけなかった。声を機械で変えているのは分かってはいたが、最初は男性だと思っていた」


「…そう。不自然無いよう調整した意味があったかな。でも、話したいのはこんな事じゃないよね。煌太」


「あぁ、もう誤魔化しも嘘も演技も仮面もいらない。本心で話そう、優羽」


さっきまで仮面をつけていた優羽は目を悲しませて、俺を見つめた。

俺が訊きたいのは沢山あるが、一番の疑問は犯行そのものだ。

いくら動機が分かっていても、今までの犯行をする理由とはならない。

それほど犯行と動機が釣り合わない。


「何でここまでした?」


優羽は目を伏せて静かに答える。

その様子はどこか怯えているように見えた。


「………好きだから。煌太の事が好きだからしたんだよ」


「何だよ、それ。分からない。俺には意味が分からない」


俺にはすぐに理解できないことを悟った優羽は、本当の気持ちを本心で語る。

偽りなく、真っ直ぐに紡ぐ。


「私、男性を信じられなかった。それどころか怖くて恐くて、敵だとさえ思っていた。でも煌太にだけは心を許せた。……違う、許せる努力ができた。そして煌太はその手伝いを無意識にしてくれていた」


第四ゲームでの話が全て事実なら、優羽が男性に対して畏怖しているのは分かる。

それに普通の女性らしい人生を歩みたかったのも理解できる。


「それからいつしか私は煌太を本当に男性として見ながらも、好きになることができた。自分に対する偽りや嘘じゃなく、素直な気持ちで好きになった。心を許せた。この人は本当にいい人だと、父親とは違うと思った」


その言葉を聞いた俺は自分の罪を責めた。

俺は本当に馬鹿な事をしてしまったと、改めて後悔してしまう。

優羽は家族の愛に飢えていた以上に、自分の幸せに怯えてしまっていたのだと俺は思った。


「でも、煌太は………。香奈恵という女性と知り合った」


「………香奈恵についてはどう知ったんだ?」


「裕太から聞いた。………そうだね。ここからは第四ゲームの続きとして語るよ。香奈恵の存在を知ってから、今この瞬間この時まで。煌太はだいたいの想像ができていると思うけど」


「あぁ、そうさせるための第二ゲームだったんだろ」


俺がそう言うと優羽は自嘲した。

もう私の狙いは全て読まれていると言いたげな表情だった。


「そこまで分かるなら第二ゲームは意味があったね。良かった。………じゃあ、話そうかな。私のしてしまった事を全て」


優羽は自白を始める。

犯行に走り、仮面を被るまでに至った罪を贖罪するためにも。


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