第二のパスワード
結局は答えを考え出せていない。
全く予想もつけれず、俺では核心に迫る思考力が不足していた。
そして自分で作った疑問に苦悩していると、仮面の人のアナウンスが聞こえてきた。
『………待たせたね。最後の、第四ゲームを始めよう』
俺は気持ちを切り替えてマイクに近づく。
いつでも応答できるために、更に今から質問するためにだ。
「その前に一つ訊きたい。答えれるか?」
『答えれるかは別にして、聞きはしよう。言ってみろ』
仮面の人の口調は落ち着いていた。
今までと違ってただ淡々として、劇場混じりな言い方もしない。
まるで達観していて、物事に冷めているみたいだ。
「裕太や優羽の死体はどうした?辱しめる真似はしてないだろうな?」
『丁重、とは言えないが雑に扱ってはいない。安心しろ。二人の体はこちらの部屋にあるが、どちらも妙なことはしてない』
「………そうか。なら、いい。いいぜ、第四のゲームを始めよう。こっちはもう覚悟はできている」
『知っている。だから第四のゲームを始めるのだ。まず、今回のゲームで命を賭けるのは私だ』
それを聞いた俺は困惑した。
自分の聞き間違いじゃないかと疑ってしまうほどにだ。
すでに第三ゲームで俺自身の命が賭けられたために、次は誰の命が賭けられるか分からなかった。
思い付いても身内ぐらいしか無く、まさか仮面の人の命とは予想外過ぎた。
『そのため、このゲームに私から勝敗と言い切れるものはない。ただ煌太君が正解すれば私の命は助かり、逆に間違えれば私が死ぬだけだ。だから君の捉え方次第によるため、私の生死による勝敗の区別はできない』
第一ゲーム終了時だったら、仮面の人の死は俺の勝利と呼べるだろう。
今は恋人も親友を失っているから復讐したい気持ちは強くある。
だが真意を知りたいと思ってしまった以上、仮面の人が死んで全ておしまいとは言えない。
だから殺してしまいたい気持ちはあっても、死なせる訳にはいかないという矛盾する気持ちがある。
『では、ゲームの概要を説明しよう。細かい事は後で説明する。今、君の前にパソコンがあるはずだ。そして画面にはパスワードを入力しろと指示が出ている。………そこに私の名前を打ち込め』
「ちょっと待て。俺の勘違いじゃなければ、画面に映し出されているのは第二ゲームのままだぞ」
『そうだ。第二ゲームの二つ目のパスワード。それが私の名前だ』
もう激情する事は無いと思っていた俺だったが、仮面の人の今の言葉は怒りを溢れさせるものだった。
第二ゲームの二つ目のパスワードが仮面の人の名前。
つまりそれは絶対に優羽が助からなかったという意味だ。
第二ゲームは始めから仮面の人に勝利で決まっていた。
「何だよ、それ…!なら第二ゲームはただの殺人劇じゃねえか」
『………そうだな。完全に第二ゲームは茶番だ。する必要すら無かったかもしれない』
「お前!!」
『今更感情を起伏させるな。優羽は死んだ。その結果は変わらない。そして煌太君が私に対して憎む気持ちも変わらない』
煽りもせずに仮面の人は淡白に指摘するだけだった。
その事に違和感はあれど、俺は苛つきを感じずにはいられない。
『ゲームの説明を続けよう。パスワードは私の本名で下の名前だ。コードネームやニックネームではない。しかしキーボードは数字しか打てないようになっている。そのためヘボン式ローマ字の文字列を数字に変換して打ってもらう』
「………言葉だけだと分かりづらい。もう少し説明してくれ」
『もちろんだ。数字に変換とは1=A、2=B、3=Cとローマ字の順番を数字に当てはめるだけだ。だから煌太と打つ場合、KOUTAとなるから数字で表すと11、15、21、20、1となる』
それなら法則は簡単だ。
ただメモでもしないと整理しづらい。
この部屋にはペンか何か書く物があったはずだ。
あとは第二ゲームにあった暗号が書かれた紙の裏にでも、文字列を書けばいいか。
『ただ、数字は十八文字打てるようになっている。これは名前の被りを防ぐためだ。例えば煌太君が【しょうへい】と打とうとする。しかし正解が【しょう】だとしたら、打っている途中で正解となってしまう。だから名前を打ち込んだあとは十八文字埋まるように、名前の後ろに0を打ち続けろ。合っていればそれでパスワードは認証される』
と言うことは、答えが俺の名前なら111521201000000000となる。
どんな名前にしろ、下の名前の入力だけなら0の数はやたらと多くなってしまうだろう。
『パスワード自体は以上だ。ただしミスは許されない。私には優羽と同様の首輪をつけていて、一度でもミスをすれば爆破するようになっている。つまり言うまでもなく、君のミスによって私は死んでしまう。ゲーム内容はこれだけだ』
第四ゲームは仮面の人の名前を当てる。
それだけだが、俺には他に気になる点は沢山あった。
「もし俺が入力ミスしてお前が死んだらどうなる?俺は脱出や外への連絡は可能なのか?」
『それは今から説明しよう』
自殺まで考えていた俺が脱出の心配とは変な話だ。
でも裕太や優羽の亡骸をしっかりと弔ってやりたい気持ちがあった。
だからせめて連絡を取る手段は確認しないといけない。
『煌太君の今いる部屋に缶詰や保存食となる物が隠してある。それで飢えを凌いで二日間も経てば、この建物に救助が来るはずだ。そうなるように仕組んでおいた』
仮面の人が何かと時間を気にするのはこのためだったのかもしれない。
救助とは言っても警察か仮面の人の仲間かは分からないが、仮面の人自身が死んでも良いように手筈は整えているみたいだ。
ただ俺からしたら、不確定要素があって安心はできない。
『更にこちらにはお前達から回収した荷物がある。私が死んだら施錠はされたままだが、その部屋にある物で扉を破壊でもすればいい。そして携帯電話を回収して連絡を取れ。とりあえず無闇に外に出るのは控えたほうがいい。遭難する』
遭難って事は、ここは森かどこかの辺境な地にある建物なのか。
とにかく俺が知らない場所ではありそうだ。
それなら仮面の人の言う通りに行動するしかない。
『次に君がパスワードを見事に当てた場合だ。その時、私は素直に降参しよう。全ての部屋は解錠し、抵抗もしない。そこで私を殺すなり殴るなり詰るなり辱しめるなり好きにしろ。通報して警察に引き渡すのもいい。つまり君がパスワードを外しようが当てようが、煌太君自身の生死に関わることはない』
確かにそうだが、仮面の人からしたら破滅しかない。
本当に今言った通りに仮面の人が行動するなら、この第四ゲームは仮面の人による自殺同然だ。
逮捕されれば重い罰は間違いなく、いわゆる社会的に死ぬ事になる。
更に俺がパスワードを間違えれば、仮面の人は優羽と同じ死を遂げる。
他にだって色々考えられるが、全てを受け入れるだけなら結果はどれも死だ。
極端かもしれないが、そう言い切れてしまう。
「………分かった。なら、ゲームはいつから始まる?」
『君がキーボードに目を着けた時点で始まっている。だが、そうだな。少し私の自分語りをしようと思う』
「愚痴か?」
『ただの自分語りだ。第四ゲームのヒントにもなるだろう。語り終わるまでご静聴願おう。なに、そんなに長くならない』
そう言って仮面の人は勝手に喋りだした。




