検証と再考
『さて、それで第四ゲームを始めたい所だが、場所を変えようと思う』
俺がここまで起きた事を整理し始めていると、仮面の人は次のゲームについて話を始めてしまう。
すぐに俺は意識を思考から仮面の人へ向ける。
「場所を変える?まさか俺が?」
『そうだ。そちらの部屋の鍵は解錠してある。そこの部屋から出れば同じように解錠してある部屋があるので、その部屋を探して貰おう。心配はない。すぐに見つかる』
いつの間に解錠をされていたのだろう。
最初に閉じ込められた時にしか確認していなかったから、気がつかなかった。
『第四ゲームはその部屋に着いたのを確認次第に開始する。では、その時にまた話をしよう』
仮面の人の話はここで切れた。
あとは移動するしか無いようだ。
俺は深く溜め息を吐いてから視線を扉に移した。
解錠されただけだから、扉そのものに変化は見受けられるはずもない。
しかし解錠されたなら音で気づきそうなものだ。
この部屋は決して広くはないし、雑音すらない。
慎重に鍵を開けないと俺に聴こえるのが自然だ。
俺は鉄製の扉に近寄って、ドアノブに手をかける。
すぐにドアノブは回すことができ、俺は扉を引いて開けた。
開けた先の通路から、少しだけ生暖かい空気を肌で感じ取る。
今は夏だ。
外の明かりが無いから閉めきった建物なんだろうが、多少の熱気は込もってしまう。
うす暗い部屋から、やたらと狭い通路へと出る。
床は朽ちたフローリングで、壁はコンクリートの寂れた通路。
天井には蛍光灯が弱々しく光っている。
窓らしき箇所には厚い木の板が丁寧に打ち付けられていて、素手で木の板を外すには無理がある。
できるにしても大きな音が響いてしまうに違いない。
俺は少ない蛍光灯の明かりを頼りに通路を歩きだして、他に解錠された部屋を探す。
扉の数は少ないし、通路は長くないのですぐに見つかるとは思う。
だから何回か施錠されている扉に当たるが、やがて調べている内にドアノブを回せる扉を見つけた。
俺は罠が無いかと慎重に扉を開ける。
開けた先の部屋には見覚えがあった。
初めて居る建物で、さっきまで監禁されていたのに見覚えがあるのは変な事だ。
しかし見覚えがあるのは当然だ。
数時間前に見た部屋だからだ。
見渡せば長いテーブルの上に様々な料理が並べられていて、それ以外の物はない。
床には散らばった料理、引きずられて延びた血痕、変色した食器。
遺体は無かったが、間違いなくあの部屋だった。
「ここは………、最初の…」
第一ゲームの部屋と理解した俺は広がった血痕に近づいて、手で触れる。
血は完全に渇いていて、ザラつきがあった。
最後の時より血で汚れた箇所は広がっており、乱暴に拭かれたようになっていて血の上に何かあったのが分かる。
つまりは血に見せかけた物による演出では無く、間違いなく裕太の血だ。
裕太は血を噴き出して床に倒れ、仮面の人か誰かが血が渇く前に裕太を引きずって移動させた。
この血痕からその事が分かる。
血痕の先を辿れば別の扉へ続いていて、おそらく先へ続いているのだろう。
しかし俺はその扉を開けず、もう少しこの部屋を見回る。
時間があるか分からないが、第一ゲームを思い返すには文句ない部屋だ。
まず、第一ゲームは何が分かっていなかったか。
それを考える。
一番分からなかったのは毒についてだ。
俺は毒なんて専門知識が必要だからと、いい加減に考えてしまっていたかもしれない。
知らない毒が使われているからとか、情報が無い、絶対に素人には識別できないと思っていた。
ならどこを疑うべきか。
裕太の時間が経てば死ぬという薬物の存在を疑うべきだった。
本当にそんなのあるのか無いのか一切分からないが、無いと仮定したら裕太は自殺同然だ。
また、あったとしても解毒なんて都合の良い物は無かったかもしれない。
だからそうだと仮定してしまったら、料理を食べずに時間切れが正しかったのか?
だが、裕太は発熱そのものはしていた。
発熱は錯覚だったかもしれないが、数時後に発症して死ぬ薬物より、発熱を起こすだけの薬物ある可能性が高い。
その類の薬物なら入手は簡単だろう。
そうだと考えたら発熱は別に問題ではない。
どんな薬物でも発熱程度はあり得た、その仮定が妥当だ。
しかし、これだと仮面の人のルール違反だ。
元々事実を言うとは限らなかったが、ゲームとは言えない。
嘘っぱちだ。
仮に、裕太に時間が経てば死ぬ毒というものが射たれていなかったら、どういうことになる。
………ゲームが成り立たない。
いや、そもそもゲームですら無かった?
相手が丁寧にルール説明をするから、単純にただのゲームだと思い込んでいた。
もしゲームだったとしても、仮面の人の真意は隠されていたはずだ。
仮定の話だが、裕太は毒を射たれていなかった。
それなのに、料理に猛毒を含ませることで裕太を殺す準備は成されていた。
これだと裕太を確実に殺すためだけの茶番だ。
銀食器のせいで対等のゲームだと思い込ませ、実は一切助かる道は無かった。
最悪な話だ。
俺は一旦腰を降ろそうと、裕太が始めに座っていた椅子に近づく。
そこで最初に裕太が痛みで起きた原因を知る。
如何にも安っぽいようなスタンガンが、先を剥き出しにして椅子に据え付けられていた。
一見乱雑な設置なのは気にはならない。
このスタンガンの電撃で、裕太は目を覚まされたみたいだ。
それより注目すべき点は、椅子に付けられていたスタンガンもマジックテープもしっかりとした物じゃない。
簡易的な設置で凝った様子はないと言うこと。
スタンガンは大変かもしれないが、道具と材料が揃えば子供でもあっさりと作れてしまいそうだ。
俺は椅子に座り込んで様子を伺いながら、天井を見上げた。
カメラが設置されている。
あのカメラは俺が見ていたテレビと連動されている物だろう。
なら他にもいくつか付いているはずだ。
俺はカメラを眺めながら第一ゲームを考え直す。
第一ゲームが裕太を確実に殺すためだけなら、仮面の人には強い悪意か私怨があったのは間違いない。
ただ、どんな理由や悪意があっても殺人はかなり飛躍した思考だ。
物を壊すのは代償がある。
失ったら全ては戻せない。
生物は尚更そうだ。
今の俺には物を壊す勇気も無謀、無知さ加減もない。
あったのは小学生の頃、遊びで虫を踏み潰していた時だけだ。
それだけ意思を持ってメリット無く壊すことは思慮の欠如。
だったら仮面の人にはメリットがあった事になるはずだ。
まさに裕太を殺す動機そのもの。
だけど遊びじゃないと仮定してもメリットが見えない。
裕太は平凡だ。
そんな特別な知名は無い。
だから私怨だとしても、裕太と深く関わっていなければいけない。
裕太の交流関係は分からないが、割かし多い方だとは思う。
そうだと考えたらあらゆる人物に可能性があってしまう。
………これ以上は、俺では詮索できない。
優羽なら的確な考えや推測を出せるだろうが、俺だと思考がループしてしまいそうだ。
俺は椅子から立ち上がって血痕の先へと足を進めた。
扉の前に立って部屋を一度振り返ってから、俺は次の扉を開けた。
開けた先は家具やら骨董品が置かれた物置部屋。
コインロッカーと、床に置かれたパズル。
ここも見覚えがあった。
第二ゲームが行われた部屋だ。
さっきの部屋と同じく薄暗いが、埃っぽい臭いが強い。
物が置かれたのは最近という訳じゃなさそうだ。
そして床にはまだ渇ききっていない血がある。
優羽の遺体は裕太と同様、移動させられたようだ。
俺は複雑な気持ちで血溜まりを見つめて、心を痛める。
「優羽………。最期はどんな気持ちだったんだろうな…」
あの時の優羽を思い出すと、自分の首を絞めたくなる。
だが俺はこれ以上、気分を落とさないために思考を切り替える。
パソコンのモニターには相変わらず【次のパスワードを入力して下さい】の忌々しいメッセージ。
壊れたキーボード。
一見何も変わってはいなかったが、キーボードの隣にはスタンド式のマイクが置かれていた。
これは第二ゲーム時には無かった物だ。
要するにこの部屋で何かすることになるのか。
ならお呼びがかかるまで第二ゲームを振り返ろう。
第二ゲームはアルバムの存在や妙な宝探しと疑問はあるが、一番気になるのは優羽に付けられた首輪だ。
実際に爆発してしまった以上、あれは爆弾が内蔵された首輪なのは間違いないはずだ。
それでも、そんな物を作れる可能があるのか疑問だ。
時限式にしては粗末過ぎる気もするし、電波で稼働するとしたら近くでリモコンを操作しないといけない気もする。
しかし爆発ができるかどうかはともかく、携帯電話の存在を考えればあの装置の作成は充分にありえるか。
問題は、どれほど精通していれば可能かだ。
首輪の存在をを除けば、ゲームの内容自体は誰でも用意できるものだ。
毒だって今では簡単に入手できるし、費用は大きいが作るのも難解ではない。
案外、首輪も調べれば簡単に作れるかもしれない。
ただ素人の俺には、あれだけコントロール可能な爆弾の首輪を個人で作るには難しいとしか思えない。
煙だけを出すとかなら簡単だとは思うが。
もう一つの疑問は第2のパスワードか。
これは全くヒントが見当たらなかった。
見つけられ無かっただけならそれまでの話だが、隠されていたのかすら怪しい程だ。
もし2つ目のパスワードが部屋に無かったなら、仮面の人は裕太同様、優羽に対して確かな殺意があったことになる。
だとしたら動機は何だ?
裕太と違って、優羽を乏しめたり怨恨がありそうな発言は無かった。
内心ではおぞましい気持ちがあったのかもしれない。
しかしそのような発言が無かったために推測でもなく、俺の妄想に過ぎなくなる。
優羽を殺す動機の手がかりは無い。
………そういえば何だったかな。
何かのミステリーやサスペンスの創作物で、本当に殺したい人物は最後に殺す、というのがあった。
周り者や親しい者から殺して、恐怖や悲壮を煽るためだとか。
その考えを適用してみると………、まさかな………。
「俺が憎いのか……?わざわざ知人である優羽や裕太をゲームに巻き込んだのも俺を苦しめるためだったのか?」
だとしたら、優羽と裕太を殺す動機なんて考えるまでもない。
二人が死んだことにより俺は絶望していたし、仮面の人の狙いは成功していることになる。
でも、どうだろうか。
第三ゲームを始める前に仮面の人は確かに言った。
私にも望むゲームの終わり方があると。
それは俺が絶望して自殺するとは違うような、そう思わせるタイミングでの言い方だった。
自殺ではなく直接的に殺害したい?
………それもきっと違う。
この環境は俺を殺害するチャンスや条件は揃っていて、その気になればいつでも直接的に殺害はできるはずだ。
自殺でもなく他殺でもなく、一体何なんだ?
何をしたくてゲームと称して、俺の知人を殺戮をしている。
殺害は手段に過ぎず、殺害以外に目的があるのか?
いくら考えても分からない。
考えれば考えるほど疑問は尽きず、分からないが増えていく。
自分の身の安全を考えなくなって、仮面の人の思惑だけに思考を集中させても理解できない。
仮面の人は何者で、何がしたいんだ。




