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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第三ゲーム
21/36

懺悔のゲーム

『それではすぐに第三ゲームを始めよう。準備はすでに整っている。だが、その前に親切として一つ忠告だ』


「………何だ?」


俺は立ち上がって冷静に聞き返す。

全てが吹っ切れているため、さっきまでの感情は投げ捨てている。

そもそも大切な人を失った絶望により、俺は恐怖心を無くしていた。


『よく言われるが、真実とは残酷だ。まさに知らない方が良いとさえ言われる事もある。煌太君が知りたい真実はまさにその部類だ』


「俺の決意を揺るがすつもりか?無駄だ。俺は真実の価値やどういう物かなんて別にいい。裕太や優羽のためにも知りたいだけだ」


もしその真実で俺が原因なら、あの世で裕太や優羽に心置きなく謝れる。

真実に価値があったとしても、今の俺にはその程度でしかない。

俺はそんな安っぽい理由で今も生きている自分に嘲笑した。


「それよりも早く第三ゲームを始めよう。急ぐ必要は無いが、のんびりとしているのは苦痛だ」


『そうだな。私も無作為に時間を費やすのは嫌いだ。さて、第三ゲームはシンプルだ。煌太君、君の罪についてだ』


また罪か。

裕太には欲望の罪、優羽には秘密の罪。

次に、俺にはどんな無茶苦茶な罪を押しつけるつもりだ。


『煌太君には罪がある。しかしその罪は煌太君には自覚がない。だから第三ゲームは、君自身が自分の罪を理解する事だ。制限時間は特に設けてはいない』


「……ならどうやって勝敗を決める気だよ」


『煌太君が自分の罪を認めたら君の勝ちだ。だが、もし自分の罪に気づけそうに無いと私が判断したら君の負けだ。即刻、君を仕掛けにより殺害させてもらう』


なんだ、このゲームは。

今までのゲームは、仮面の人が言う罪とやらに沿ったものだった。

裕太は欲を表したゲーム、優羽は隠し事を探すような秘密を見つけ出すゲーム。

俺はそれ以前の問題だ。

いくら自分の事でも、そんなの分かる訳がない。


「その罪は、俺が罪だと自覚できるものなのか?人を叩いたとか、つまらない嘘や隠し事をしたとかじゃない。明確に罪と呼べるのか?」


『法律上では罰せられるような罪ではない。しかしこの罪は君なら気づけると私は信じている。気づかなくてはならない』


信じているとは薄気味悪い。

何の証拠や確信があって仮面の人は俺にそんな事を言えるのか。

俺は不愉快になる。

些細な事でも罪とか言われたら認めざるえないし、そういう事にされたらきりが無い。


「………分からないな。俺の罪とやらは、お前に接点はあるのか?」


俺の問いかけに仮面の人はすぐには反応を示さなかった。

テレビは映っていないし、ちゃんと聞こえているか分からない。

あまりにも反応が遅いから、通信は切れているのかと錯覚しそうだ。


『………無い。今までの裕太や優羽の罪も私には接点が無かった。それらと同じだ。自身の問題だ』


「なら何故、お前は本人には罪と気づけない事を知っている?身辺調査をしたにしても、なかなか本人に気づけないことを言い出せるものじゃない」


『どうだろうな。君はそう言うが、本当は自分の罪に気づいているのかもしれない。煌太君が認めていないだけで』


俺が罪と認めていないだけで、罪であること。

子供の頃は裕太と悪ふざけをしていた。

それらの事を含めれば罪と呼べるような事はいくつかあるかもしれない。

でも悪ふざけはすぐに責任を問われて、清算していた。

清算してしまっていたら罪とは到底呼べないはずだ。

なら、逆に清算していない事は何だ。

清算していない罪………。

俺には思い当たるものがない。


「俺の罪は、酷いものなのか?」


いくらか考えてはみても、やはり俺には思い当たりはない。

だから罪があるといくら言われても、大した事ではないのだと思わざるを得ない。

そんな結論を出してしまうから考えが定まらず、思考がふわふわとしてしまう。


『酷いかは一概には言えない。だが、自覚が無いのは罪を重くしてしまっていると思わないか?自覚が無いために相手は君を責めれない、(なじ)れもできない』


「相手?誰のことだよ?」


罪と言われるから被害者がいるのか?

裕太や優羽の罪には、被害者がいたようには感じなかった。

なのに俺の場合は被害を受けた人がいると、遠回しながらも明確に伝えてきた。

まだ知人ならいいが、聞いたことも無い名前を言われたらどうしようもない。


『………その相手は優羽だ』


「………は?優羽だって?そんな………、何で…?」


優羽の名前が出るとは思っていなかった。

俺が犯した優羽への罪。

それは何だ?

優羽を救えなかったことか?

いや、それについては罪だと自覚できる。

その罪に耐えきれなくて、自殺しようとしたぐらいだ。

ならこのゲームで求められている罪は違う。

もっと、別のこと………。


別の罪………、優羽への罪。

俺が犯してしまった自覚無い罪。

罪と認めていない本当の罪。

俺が優羽へ謝るべきこと。

…………まさか、そんな………。

………嘘だろ。

だって優羽は知らないはずだ。

いや、知らないからと言って俺が許されるわけじゃない。

完全犯罪と同じだ。

バレないからと言って罪は無くならない。


「香奈恵、なのか…?香奈恵の事を……、言っているのか?」


『………………』


仮面の人は答えない。

しかしため息のようなものが聞こえた。

それは感情の動きを表しているのは間違いなかった。

つまりは肯定と受け取れる。


「もしそうだとしても言っておくが、俺と香奈恵とは何も無かった。浮気をしていたわけじゃない」


『それはどうかな。二人だけで遊ぶ事はあったのではないかね?』


確かに仮面の人の言う通り、二人で遊びや食事はした。

だけどそれだけで友達以上の関係も無く、特別な感情は決して抱いていない。

お互い恋心も抱いていなかった………、はずだ。


「まぁ、香奈恵に誘われて二人で遊んだりはしたことはある。けど、だから何だよ。それぐらいは友達と交流するのと何ら変わりは無いだろ。もしかして異性と遊ぶだけで浮気扱いか?それなら世の中、浮気だらけだ」


『よくある言い訳にしか聞こえないな。それに価値観の相違だと言い切れるが、本当に君はそう思っているのかすら怪しい』


俺の物の見方を指摘されたが、俺は本気でそうだと思っているつもりだ。

異性と遊ぶだけで浮気扱いされるなんて馬鹿馬鹿しいじゃないか。


「実際そうだろ。遊ぶだけなら相手の嫉妬に過ぎない。嫉妬と浮気は違う。遊ぶだけで浮気だと思うのは、ただ単に自分の嫉妬を浮気という言葉に履き違えているだけだ」


『………ふむ』


俺の意見に、今までなかった態度で仮面の人は短く言った。

さっきまでは演技かかった返事か、煽ってくることしかしていなかった。

だから仮面の人は真剣に応答しているのだと分かる。

もしかしたら、仮面の下ではニヤニヤと馬鹿にしているのかもしれないが。


『なら、煌太君にとっての浮気の定義は何か聞かせて頂こうか。もし優羽が何を想い、どう行動したら煌太君は浮気だと思うかね?』


改めて考えてみると難しい質問だ。

しかし俺としては、一応こうだと思っているものはある。

もちろん自分で正しいという確信は無い。


「俺は精神的な繋がりを重視している。相手に対して並ならぬ情を持っていたら、その時点で浮気だ」


俺は変な誤解をされたり屁理屈を言われないよう、続けて自分の言葉を補足する。


「並ならぬ情とは言っても恩義は外すぜ。恋と恩義が違うのは本人にも第三者にも分かることだからな」


『そうか。では体だけの関係だと浮気にならない、そう捉えていいのかな?』


「………特殊な情が無いと体だけの関係は持たないだろ。それでも体だけの関係を持つと仮定したら、浮気以前にモラルの問題だな。そんな奴と付き合いを続けれるわけがない」


論点がずれてしまうが体の関係は持ってしまえば、どんな理由でも浮気されている相手からしたら正当な行為に思うはずがない。

まさに浮気がどうとかの問題じゃなくなる。

そして浮気か否かと聞かれたら、浮気と断定してもいい。


『なるほど。言うに及ばず、肉体関係も過ぎれば浮気になるとは思ってはいるのだな』


当たり前だ。

そもそも肉体関係は交流とは完全に別物だ。

そこを混同するほど、俺の脳内はスカスカじゃない。


『では、煌太君はどうだったかね?』


「何の話だ」


『香奈恵に対して、特別な感情は抱かなかったのかい?私が知る限りでは、優羽から情を移り変わろうとしていた可能性が高い』


俺はおでこに皺を寄せて不快感を示す。

仮面の人は俺がどれだけ優羽に愛情を持っていたか知らない。

それなのに仮面の人は知った口を叩くのだから、気に入らなかった。


「お前が何を知っているのかはわからないが、俺は香奈恵に対しては一切恋愛感情は無い。綺麗だと思う程度はあったさ。でもそれだけだ」


『本当にか?君こそ、そう言いながら自分を誤魔化していたんじゃないのか?心のどこかでは香奈恵を好いていたはずだ』


「くどいな。まるでお前は、俺が香奈恵の事を好きになっている事にしたいようだぞ。何でそんなに疑う?俺の答えは変わらない。俺は香奈恵に恋愛感情は無かった」


俺は言い切った。

遊ぶにしても俺は何かを香奈恵に求めたことは無く、体の関係の類も一切無い。

周りから見たらデートっぽいかもしれないが、俺はそんな認識はしていない。

絶対とは断定できないが、香奈恵も同じ認識のはずだ。


『そうか。そこまで言うなら、そういう事にしよう。しかし、優羽はどう思うかな。煌太君は浮気じゃないと言い張る。優羽はその言葉を信じるだろう。だが、優羽は一辺の疑いもなく君を信じるだろうか』


そんな可能性の話をされたら俺は断言できない。

俺が優羽の立場だったら………、多少は疑うに違いない。

恋人だから一番大切に想ってくれているからと言っても、人間である以上は嘘ぐらいは吐くし間違いはある。

だからこそ一から十まで、全てを信じるのは危険だ。

漠然とでもいい。

適切な表現じゃないが、相手を疑うのを忘れてはいけない。

この考え方は優羽からの受け売りだ。


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