儚い望み
『気分はどうかな、煌太君?それとも、こー君と呼んだ方が良いかな?』
舌を噛みきろうと決意した瞬間に、仮面の人の声が部屋に響いてきた。
まるで狙ってきたようなタイミングだ。
いや、仮面の人は俺の状況が見えているから狙ってきたのだろう。
でも、どうでもいい。
もう俺には怒りすら湧いていない。
俺は舌を噛むのをやめて力無く言い返す。
「…何だよ。静かに死なせてくれ………」
『おやおや?心中する所だったのかい?なら邪魔をした。非常に残念だが、それもこのゲームの一つの帰結だ。君の最期を私が見届けよう』
「お前に見られるのは不愉快だ。俺の死体で遊ぶのは勝手にしていいが、死ぬ時ぐらいは放っといてくれ…」
『それは断る。君が死ぬなら、私はそれを見届ける義務がある』
見届ける義務って何だよ…。
そんな義務があるのは身内ぐらいだ。
本当に仮面の人は何をしたいのか、何が目的なのかさっぱりだ。
「………お前は、誰…何だ?一体何がしたいんだ?俺を苦しめて何になる?人を殺して何のためになるんだ…?」
『それらについては答える気は無い。だが、一つだけ教えてあげよう。私は快楽目的でゲームはしていない。これは遊びではあるゲームだが、勝負なんだ。私の全てを清算するためであり、煌太君を試すゲーム』
「………はぁ、どこまでも意味が分からない。やっぱりお前は、俺をよく知っている。そう捉えれる発言が多い。だけどお前は肝心の事だけはぐらかしている。お前は何を言いたい?本音や本心まで仮面を被りやがって」
『あはは、まるで詩人だな』
渇いた笑いをしてくる。
だけど俺には分かる。
仮面の人は本当の事を言いたいのだと。
それでも言わないのはゲーム中だからか、それともどうしても秘密にしておきたいのか。
「笑って誤魔化すな。言葉で誤魔化すな。お前が隠せているのは表面だけだ。実際の中身は迷いだらけだ。そう感じる」
『………………ふむ、そうか。煌太君にはそう思えるか』
仮面の人は数秒だけ沈黙した。
戸惑いがあるのかもしれないし、これ以上は俺に探られないよう言葉を選んでいるのかもしれない。
どちらにしろ、仮面の人は今までのような道化っぽさは慎むつもりのはずだ。
『あははは、あははははは。面白い。煌太君、君は面白いよ。まるで私を知ったかぶったような口ぶり。君は何も私を知らない。そして理解できない。だから私は君に対して怒りすら覚える。逆恨みだとしても、この渦巻く感情はぶつけたくて仕方ない。なんてね、あははは』
と思った矢先に感情をさらけ出しながらも、よりふざけた態度を示してきた。
喋り方は劇団みたく大げさになっているが、言葉の真意は隠されていない。
「理解されて無いから怒っていると言っているように聞こえるぜ。何が不満だ?」
『何も不満は無い。このゲームは、どうなろうと私は受け入れるだけだ。ただ、君には皆が生きて帰るという望む終わり方があったように、私にも望むゲームの終わり方があっただけの話だ』
「………………」
『それより、さっきまで自殺しようとしていた割には気力が回復しているみたいじゃないか。自殺は、しないのかね?』
「………最後に」
俺の目は希望の明かりが無いものから、力強く生きる人の目つきになる。
俺はもう死ぬつもりだ。
すでに自分の死は恐くない。
だから死を恐れないなら、安く命を賭けて俺は知っておきたい。
なぜ裕太は死んだのか。
どうして優羽は死んだのか。
何のために俺はゲームに選ばれたのか。
このゲームの全てを知りたい。
「最後に俺は知りたい。お前の真意を、真実の全てを。もし俺があと二つのゲームに勝てたらだ。その時、俺は間違いなく生きているはずだ。だからその後は俺を殺してもいいし、拷問でも何でもすればいい。その代わりに勝てたら教えろ。ゲームに仕組まれた全てを」
『………良いだろう。正直、この後のゲームはどうなるか私ですら予測はつかない。君が死ぬか生きるかの二択の結末だとしても、何が起こるかは最後まで分かることは無い』
仮面の人は展開が読めないというが、俺には抗う力や意思は希薄だ。
今まで以上に俺は負けてしまう可能性は高い。
それでもいい。
何か仕返しとなる事をしたい気持ちがあっただけだし、死んだらそれまでだと諦めは付いている。
俺はどうなろうと、全てを受け入れよう。




