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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第零ゲーム
2/36

俺と優羽と裕太

「残念ながらな優羽。俺は浮気性ではなく、沢山の人に平等に愛を与えたいだけさ」


「もう、それを浮気性と言わないなら何なのよ。裕太は少しは煌太の一途さを見習うべきだよ?」


その言葉に裕太は一瞬だけ目を細めて、俺を見ながら声を潜める。

意味ありげな裕太の動作に、俺は内心少し冷える思いをした。


「煌太が一途ねぇ…?」


思わず冷や汗が出そうになる。

まさかあの時の事を裕太は覚えているのだろうか。

もししっかりと憶えていても、裕太は詳しくは知らないはずだ。

それに今は何の関係も無いし、当時も相手とは関係が薄かった話だ。

だから裕太が感づいていても、大した問題ではない。

俺は勝手にそう思っている。

そもそもあれの事の発端は、裕太から誘ってきた話のせいなのだから。


「まぁ、煌太は真面目だからな。それにそれだけ煌太を一途にさせる優羽が良い女性って事なんだろ」


「……そう言って、他の女を口説いてるのね」


優羽の何とも言い難い冷めた目線が裕太の顔に向けられる。

どうも裕太の言葉は何だろうと、優羽にとっては軽く見られて逆効果らしい。

俺としてはもう少し冗談が通じ合っても良いと思うのだがな。

でも優羽らしい、あしらい方ではある。


「素直な気持ちで褒めたのにそう返すか。ったく、優羽には敵わないな。じゃあ俺はもう行くぜ。いつまでもl、お二人さんの幸せな一時を邪魔する訳にもいかないからな」


裕太はそう言いながら俺に軽く手をあげて、別れの挨拶の動作をした。

俺も同じように手をあげて適当に挨拶を返す。


「おう、裕太またな。女に刺されるなよ」


「お前こそ、優羽に刺されるような真似はするなよ」


「私は刺しません!」


裕太の冗談に俺ではなく、優羽が語尾を強めて反応した。

これだと裕太が言ってきた真面目という言葉は俺より優羽に似合うな。

裕太は優羽の態度を面白そうにしながら、俺たちから離れていく。

しかし優羽は変わらず不満そうだった。


「もう!裕太は私はまるで犯罪者予備軍みたいな言い方をして……。私は虫も殺せない性格なのに!」


「優羽が虫を殺せないのは、虫が苦手で触れないからだろ」


「むむ?煌太は裕太の肩を持つつもり?それはいくら親友と言っても妬ましいよ。あと、虫が苦手なのは事実だけど、私が煌太を刺すような人だと思っている?」


案外、面と向かって物騒な事を訊いてくるな。

意地悪としてここで首を縦に振ってもいいが、そうしたら本気で優羽の機嫌が損ねてしまうだろう。

俺はあまりにも大真面目に言ってくる優羽に対して、小さく笑みを浮かべて短く答えてあげた。


「まさか。思っているわけがない」


そんな模範的で簡単な答えに満足したのか、優羽はにんまりと嬉しそうな笑顔を見せた。

まさに当たり前のような答え方しか、俺はしてないんだけどな。

優羽は楽しそうに俺の手を握る。

女性らしい綺麗な手で指が細く、肌のつやで日頃丁寧に手入れがされているのが分かった。

男性である自分からしたら不思議に思うほど、軽く柔らかい感触だ。


「だよねぇ。そもそも煌太は私を裏切るような事はしないからね。長い間付き合ってますから、私がそれをよ~く知っているのですよ!」


なぜか俺はすぐにそうだな、と肯定することができなかった。

おそらく後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。

そんな後ろめたい事、今まで何も無かったはずだ。

だけど自分の事なのによく分からない。

まるで自分に言い訳しているみたいだ。


「……優羽が俺を愛し続けてくれているからな。それに優羽は賢いし、家庭的なことも上手だ。更に優しい性格もしているし、とても可愛らしい。そんな良い女性を裏切るわけがない」


「何々?突然のベタ褒め?ちょっと恥ずかしいなぁ…えへへ」


素直に優羽は照れて、口元を緩めてにやける。

そうして俺は何気なく優羽の首元に視線を移すと、大切な事を思い出した。

本当はもっと狙ったようなシチュエーションが望ましかったが、もはや今日はそんなシチュエーションは望めそうにない。


「そうだ、渡すものがあったんだ。道端で渡すのは良くないだろうけど、受け取ってくれないかな」


「煌太からの贈り物ならどこでも喜んで受け取るよ。一体何かな?」


優羽の顔は期待に満ち溢れる。

一方俺は真剣な眼差しで優羽を見つめながら、肩に下げていたバッグから長方形の小さな青い箱を取り出した。

それはいかにも中身が安物ではないと分かるほど、シンプルながらも綺麗に包装されている。

俺がその箱を差し出すと、優羽は静かに受け取った。


「……ねぇ、今開けてもいい?」


「あぁ、構わないぜ」


優羽は包装紙とリボンを丁寧に解いて外し、慎重に箱を開ける。

すると箱の中にはネックレスが収まっていた。

チェーンはイエローゴールドで、そのチェーンには指輪のような物が二つかけられている。

その指輪は驚くほど綺麗な銀色をしていて、小さなダイヤが輪を作るように指輪に付けられている。

鮮やかな細かい模様も指輪に描かれていて、選んだ俺ですら思わず見とれそうなネックレスだった。


「わわっ、凄い!こんなに綺麗なネックレス、私に似合うかな?」


「優羽の好みに合うか心配だったけど、良かったみたいだな。それより、チェーンに掛けられている輪の裏側を見てみろよ」


優羽はネックレスを手に取って、指輪のような物の裏側を見た。

そこにはローマ字が刻まれている。


「えっと、YUU……優羽?あともう一つには煌太の名前が刻んでるのね。素敵」


優羽が声に出したように、輪の裏側にはヘボン式ローマ字でお互いの名前を刻まれていた。

輪はチェーンから外せないようになっているのだが、お店に無理して文字の刻みをお願いしたのだ。


「ありがとう、煌太。私、とっても嬉しいよ」


「そう言って貰えたら俺も嬉しいさ。悩んだかいがあった」


優羽は最高に幸せそうな笑みでまじまじとネックレスを見つめながら、俺に訊いてきた。

ここまで嬉しそうな気持ちが顔に表れていたら、俺もつられて笑顔になる。


「ねぇ、今ネックレスを付けてみてもいい?」


「あぁ、いいよ。ぜひ見せてくれ」


優羽はネックレスを首に通して飾り、俺を見つめてきた。

口には出してないが、似合うかどうかを訊きたいのだろうな。


「似合っているよ。意外にネックレス一つで女性は映えるものなんだな。より綺麗だ」


「えへへへ、ありがとう」


優羽が本心から喜んでいるようで、とても良かったな。

いつも以上の笑顔が優羽は浮かべているから、こちらが照れてしまいそうだ。

その仕草や表情が俺からしたらあまりにも可愛らしいから、また体が熱くなるかもしれない。


「あーそれにしても今日はやっぱり暑いな。喉が渇いた」


俺がこれ以上照れないよう話を露骨に変えると、優羽が俺の言葉に素早く反応した。


「あ!私ペットボトルのお茶を持っているよ!少し残っているんだ!飲みかけでいいなら飲む?」


「なら一口だけ」


優羽がゴソゴソと自分のバッグを漁りだした。

そしてやっと取り出したペットボトルを俺は受け取り、キャップを外して口に運ぶ。

気温のせいもあり少し生ぬるかったが、渇いていた喉がお茶で潤い、暑さが少しだけ引いていった。


「はい、返すよ。じゃあ、そろそろ帰るか」


「うん!」


俺はペットボトルが優羽に手渡して、優羽と帰るために俺が前へと歩き出した。


その時、後ろから殴られたような気がした。

やがて俺の視界は揺らいで………意識は暗闇へ落ちて、あっさりと気を失った。


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