解読
「んー、煌太。まだパズルに何が描かれているか分からない?」
内側のパズルにも手を付け出した頃、優羽は我慢できずに訊いてくる。
俺だって分かっていればすぐにパズルをやめてしまいたい。
まだ一つだけ何となくしか分からない。
「黒文字で一と読めそうなのがある。斜めに描かれて他の線もあるから確信はないけどな」
「おぉ、それならパズルをやっていけばパスワードが分かりそうだね。もしかしたら全くの無駄になるんじゃないかと疑ってたから…」
「それは冗談にならない程に嫌な話だな。もしそうだったら完全に手詰まりだ。とにかく、このままやっていけば希望はありそうだ。パズルを続けよう」
どうやら優羽はパズルがフェイクじゃないかと疑っていたみたいだ。
俺は完全にゲームに関係している物だと用心していなかった。
集中が切れて用心深さが抜けてしまったのかもしれない
「うん。モチベーションも上がってきたし、サクサクっと埋めていこう!」
優羽は元気良さそうに言ってきた。
無理して明るく振り回ろうとしているのが分かった。
だけど俺は優羽の調子に合わせて他愛な質問をなげかける。
「ちなみにさっきまでのモチベーションは?」
「えっと、………秘密」
優羽はにこやかにしてそう答えた。
秘密とは言っているが、真剣になっていたにしてもだいぶモチベーションは落ちていたみたいだ。
目が見えない状態でパズルをやるから、少なからず気分も滅入ってしまったのだろう。
気持ちを切り替えて俺と優羽はパズルを埋め始める。
中央部分を埋めていけば、あの理解し難い模様もどことなく分かってくる。
ここまで出来ればだいぶパズルの終わりが見えてきたような気がした。
直線と曲線は文字の形となり、何を表しているか把握できる。
「結構埋めたな。あと二ピースだけだ。妙な勘違いはしたくないし、全部埋めてしまおう」
「そうだね。それに二ピースだけなら指示が無くてもできそう」
優羽は残った二つのピースを手にとって、乱雑気味にもあっという間に埋めてしまった。
意外に大胆な事をする。
面倒になっていたのじゃないかと思ってしまいそうだ。
「どう?パズルに何が描かれているか分かる?」
「ちょっと待ってくれ。文字なのは分かるが、配置や向きが滅茶苦茶でさ。えっと、1、ZERO、IVに………」
黒文字で1、緑文字でZERO、青文字でIVと書かれている。
あと最後の赤文字が一番読みづらい。
「しまった、ド忘れした。この文字、何だっけな。漆黒って熟語の頭文字だけど」
「それって漆じゃない?七の漢数字」
「そうそれだ。つまり0、1、4、7の数字を打ち込めばいいのか」
「うーん、でもそれだと順番が分からないよ。失敗は一回だけだから闇雲に試せないし」
そうか、パスワードだから順番通りに打ち込まないといけないのか。
ならもうヒントとなるのは詩だけだ。
あの詩からこのパスワードの順番を導き出す。
「きっと最初にロッカーで見つけた詩だな。あれで順番が分かるんじゃないか?」
「あぁ、詩ね。偉大なる神と堕ちた神の話だっけ?それがどう数字に関係するのかなっと………」
優羽は言葉を止めて思考を推理に頭を働かせた。
ここで待ってみてもいいが、俺も多少は考えてみる事にする。
まず、情報を整理してみようと思う。
【人の信仰を捧げ、神の姿を見る
偉大なる神には名誉が刻まれる
愚かな堕ちる神には汚名が飾られた
偉大なる神は始まりとなるだろう
その背にある名誉が証拠となる
一方堕ちる神には語られる名誉は無い
潰された名誉は証拠に在らず
名すら語るは禁忌に当り、書に現れし時こそが名とされた】
詩はこうだった。
そしてパズルに出された数字は0、1、4、7。
詩の最初の部分はパズルについてだから省いても良いはずだ。
問題は偉大な神と堕ちた神が何を表しているかだ。
まず分かりやすいのは【偉大な神は始まりとなる、その背にある名誉が証拠となる】
これは始まりだから、始まりを表す1という数字が使われるはずだ。
その1が偉大な神を表すか、それとも名誉のことか分からない。
そもそも順番は偉大な神、偉大な神の名誉、堕ちた神の名、堕ちた神の潰された名誉で良いはずだ。
だから1という数字は最初か二番目に入ることになる。
しかし他の数字は分からない。
………俺の解読ではこれが限界だ。
四つの数字を並び替えるだけだから簡単だとは思うが、そうもいかない。
それっぽい答えが分かるだけで、明確な正解には至れない。
優羽はどうだろう。
「優羽。暗号は解けたか?」
「え?あぁ………、うん。自信はないけど予想はつくよ。7104か、4107かな」
どうやら1は二番目に入るみたいだ。
それでもどうしてその数字順になったのか分からない。
おそらく二通りの答えが出てしまったのは、優羽でも詩の暗号は二ヶ所しか解けなかったのだろう。
「なんでそうなったんだ?」
「簡単だよ。1と0についてはそのままの意味。1は始まりの名誉。0は無しって意味で潰された語られない名誉ってこと。そして1は背にある名誉だから二番目で、0は背にある事は書いてないから詩の流れで三番目」
0に関してはちょっとした引っ掛けだったみたいだ。
俺は無意識に潰された名誉も背にある事だと思い、後ろの四番目に入ると勝手に思っていた。
しかし、あとの数字は優羽ですら分からないか。
なら一回は間違えるのを覚悟しなくてはいけない。
「あとね、偉大な神と堕ちた神についてだけど、これって聖書に関係することだと思うんだ」
優羽は俺にあとの4と7について説明を続けた。
それに対しては黙って話を聞くしかなかった。
「聖書って言っても色々あるけど、堕ちた神の名は書に現れた時こそ名にされた、ってのは聖書の事を指しているのは間違いないの。つまりその現れたのがどの聖書かに、ページ数か、章か、節に当てはまる数字があるはずなんだよ」
まいったな。
優羽の推測通りに聖書に関係しているとしたら、俺は読んだことが無い。
読んでいたとしても章やら節を記憶しているわけも無いだろう。
「優羽は聖書を読んだことはあるのか?」
「まさか。全く無いとは言わないけど、流し読みしたことある程度だよ。何がどうまでは私には分からないよ」
優羽は肩を竦めて答えて、静かに立ち上がった。
そしてロッカーに手の平を慎重に当てる。
「でも煌太。これ以上は考えても時間が経過していくだけだから、パスワード打ち込んじゃおうよ。幸いにも一回は失敗しても大丈夫だから」
「そうだな。時間も残り少ないずだ。早く打ち込んでこのゲームを終わらせよう」
「うん、私は外の光景が恋しくなったよ。あと煌太の姿も早く見たい。じゃあキーボードまで私を誘導して。お願いね」
「おう、あと少しだ。最後までエスコートしてやるさ」
俺は優羽の室内を再度確認して、丁寧に優羽に指示を出した。




