盲目少女のパズル
「やったな。早速何枚か取ってコインロッカーに入れようか。破片に気を付けろよ」
「うん。………あれ、何か変」
優羽が百円玉を集めようと何枚か手に取るが、違和感があったみたいだ。
見ている限りは何とも無いため、俺には優羽が何に気付いたのか分からない。
「今度は何だ?」
「バックから落ちる音でちょっとおかしいなって思ったけど、この百円玉に玩具の硬貨が混じっているよ」
「え?そうなのか?………あぁ、本当だ。俺からだと非常に分かりづらいが、微妙に大きさや明かりの当たり具合が違うな」
優羽が目を使えるなら、すぐに見分けがつくはずだ。
それぐらいの違いだとは思うが、カメラではその違いが分かりづらい。
これだと俺が口で指示するより、優羽が手探りで本物の百円玉硬貨を探した方早い。
優羽はその事を分かっているのか、俺がどうこう言う前に手を動かしていた。
重さや感触がまるで違うらしく、玩具の硬貨は次々とスクールバックの中へ戻されていく。
それにしても、また些細な事で時間を無駄に浪費させられる。
これでは戦略とか知的なものじゃなく、ただの作業だ。
ゲームはこうあるべきだと語るつもりは無いが、俺達が嫌がらせを受けているにしか考えられない。
「………痛ッ!」
俺が別の事を考えていたら優羽は破片に妙な触れ方をしてしまったらしく、指先を押さえていた。
「悪い、ちょっと考え事してた。大丈夫か、優羽?」
「えへへ、私との新婚生活でも考えていたのかな?大丈夫だよ。ちょっと指先を切っただけだから」
優羽は冗談を言いながら、カメラに右手の指先を映して見せた。
どうやら傷はかなり浅く、わずかに血を滲ませる程度だった。
優羽は肌が白いから傷が少しだけ目立つ気もするが、絆創膏を付けるほどでも無い傷だ。
「それより何枚か本物の百円玉を見つけたよ。コインロッカーまで誘導して」
「………分かった」
俺は優羽を最初のコインロッカーまで誘導して、硬貨の投入口まで指示を出す。
投入口に硬貨を入れるのはかなり手間取らされて少しだけ苛つきそうになったが、入れれさえ出来れば使えた事に安堵できた。
折り畳んでおいた紙を取り出してから二枚の百円玉硬貨を入れて、優羽はコインロッカーの鍵を抜き取った。
その鍵は他のコインロッカーの鍵とは全く作りに違いがあり、安っぽい玩具のような鍵とは見るからに違っていた。
それによりこれは特別な鍵だと充分に思えた。
「何だかさっきまでの鍵とは違うな。他のコインロッカーの鍵みたいな適当な作りには見えない」
俺がそう伝えると優羽は鍵を握りしめながら考え込み、数秒後には思いついて呟いた。
「あ、もしかしてコインロッカーのマスターキーじゃないかな」
なるほど、そうだとしたらこの今手に入れた鍵は苦労したかいがあった。
ようやくゲームへの進展を期待できそうだ。
確認しないとぬか喜びになりそうなので、すぐに隣のコインロッカーの鍵穴にマスターキーを入れさせた。
そして鍵を回す。
「回った……。やっぱりこの鍵はマスターキーだよ」
優羽はどことなく嬉しそうに呟いて鍵を抜き取る。
俺も思わず嬉しくて笑みがこぼれた。
気が抜けそうなほどに、今までの不安が和らいだのだ。
その間の抜けた俺が言葉を出す前に、優羽は解錠したコインロッカーを開けた。
「煌太。よく分からないのが入っているけど、何か分かる?」
「あぁ、それか。これは………ピース?パズルのピース、か?」
優羽がコインロッカーから出したのはパズルのピースらしき物だった。
パズルのピースは紙製で表は白く、何らかの線が引かれていた。
それだけでは何かは分かりづらいが、あの見慣れた独特な形状から考えてジグソーパズルのピースに間違いはない。
「他のコインロッカーも開けてみよう。同じようにパズルのピースが入っているかもしれない」
優羽は次々とコインロッカーをマスターキーで開けていった。
するとどのコインロッカーにもパズルのピースが入っていて、鍵と同様に優羽はピースを回収していく。
そして最後のコインロッカーにはジグソーパネルが納められていた。
「これはパズルをしろって事だよな。また厄介な………」
「………最初にあった詩の神の姿を見るって、パズルのこと?少し予想外かな。どういう事なんだろう」
パズルのピースは全て表が白くて曲線やら直線が描かれている。
線の色は赤、青、緑、黒の四色だ。
その四色は時折重ねっていて、何を意味しているのか示しているのか分からない。
きっとパズルをはめていけば、何が描かれているのか理解できるはずだ。
だがピースの数が少ないにしても、指示していたら時間はかなりかかるだろう。
優羽も訓練されているわけじゃないから、より一層盲目というハンデが効いてくるに違いない。
「煌太。何が描いてあるのか分からない?できればパズルしないで済ませたいけど………」
優羽はそう言うが、それは俺も同じ気持ちだ。
でも描かれた線は大きかったり重ねっていたりと難解だ。
とても一目で分かるものじゃない。
「……悪い。これは、少し………無理だ。少なくともある程度はパズルをはめていかないと予想もできない。それぐらい滅茶苦茶だ」
「バラバラに文字でも書いてあるのかもね。それならちょっとだけ作ってみようよ。パスワードに関係するのは間違いなさそうだから」
「…あぁ」
正直、時間が足りるか不安だ。
リスクはまるで無くとも難易度は非常に高い。
ピースは三センチほどで、およそ縦六枚、横六枚の合計三十六枚だろう。
一枚のピースにつき一分かかると仮定して、約三十六分で完成。
後半になるほど手早くなって一分以内に埋めれそうだが、ピースの模様は絵や写真ではないために前半は合うのを探すのに苦労する。
それだと平均時間一分と考えていいはずだ。
今の残り時間が分からないが、ぎりぎり時間内にパスワードを打ち込む事はできそうだ。
しかしパズルを埋めただけでは、すぐにパスワードが分かるわけではないかもしれない。
まだあの謎の詩が残っている。
どちらにしろパズルを早く終わらせないとどうしようもない。
俺があれこれと考えている間に、優羽はパズルピースを床に並べていた。
多分、俺にピースを見やすく指示しやすいようにしたのだと思う。
どうも優羽は行動が早く、次にどうするか俺より考えている。
俺は現状を整理することで頭がいっぱいなのに、よく落ち着いて細かい行動ができるものだと感心する。
「煌太、指示を出して。並べたピースはだいたい感覚で分かるから、右から何枚目の上から何枚目って言えば良いから。ただあまり急かさずに落ち着いてね?」
「よし、任せろ。まずは普通のパズル同様外側を埋めよう」
俺は優羽に言われた通りの指示を出していった。
おかげで割りとすぐにどこに置けば良いかは分かるが、ゲームみたいにパズルをパネルに正確に置くことはできない。
僅かに外れたりすれば他のピースを動かしてしまって、滅茶苦茶になってしまう。
そのやり直しをさせられる苛立ちは大きくて、俺も優羽も態度や言葉には出さないが焦りは拭えない。
「次だ、優羽。左から一番目の上から二番目のピース」
「これだよね?」
優羽は俺の指示したピースを指に触れて確認する。
すぐに分かるのは感覚を掴んでいたにしても、俺には到底真似できない。
「そう。それがパネルの真下にはまるはずだ」
ある程度パズルを置ければ作業は単調になって最低限のことしか口に出さなかった。
優羽は掴み上げたピースを回して試行錯誤しながらパネルを埋める。
これで外堀となる二十ピースは埋まり、残りは十六ピースだ。
数だけ見れば楽そうだが、パズルはここからが本番だ。
何を意図しているか分からない模様を手がかりにして、埋めていかなければいけない。
それにしても、やっぱり時間が分からないのは辛い。
第一ゲームは前半は時間に余裕があったし、仮面の人のアナウンスを頼りに制限時間を把握できた。
せめて二十分毎に煽りでもいいから時間をを知らせてくれればいいのだが、今回はそれが無い。
ただ、アナウンスが入ったら入ったで思考が乱されてしまうだろう。




