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トリックルーム  作者: 鳳仙花
第二ゲーム
15/36

密室探索

「そうなの?でも、いくつか捲ってみようよ」


「………そうだな」


心の底から写真を見ていたく無かったが、目が離せない。

突きつけられる過去。

やましい気持ちは無かった。

俺は香奈恵に対して下心は一切無かったはずだ。

それでも言い表せない罪悪感が湧き上がる。

香奈恵とは何も無かったのに、この罪悪感は一体何だ。

アルバムに挟まれている写真は全て香奈恵と俺が映っている。

多分、写真は全て香奈恵が故意に撮ったものだ。

さすがにそこは記憶が曖昧だから分からない。


そして最後のページには一枚だけ無造作に張られていた。

その写真だけは他の写真と違う。

離れた距離から撮られていて、香奈恵も俺も視線はカメラに向いていなかった。

それどころか背を向けている。

まるで、ただ香奈恵と俺が一緒にいたという出来事を証明する写真だ。

どんな意味があるのか理解できないが、その最後の一枚だけは異様に感じ取れた。


「全部ただの風景を撮った写真だったよ。ゲームに関係は無さそうだ」


「…………そう」


俺の嘘を聞いた優羽は落ち込んだ声で、呟きながら小さく頷いた。

そして優羽にアルバムをタンスの中へ戻させて、タンスの他の段も調べさせた。

しかし他の引き出しには一切物が入っておらず、手掛かりも何も無かった。


「タンスにはアルバムしか無かったね。せめて何か使えそうな物があれば良かったんだけどな」


「さすがにそう都合良くいかないさ。調べられる場所は他にも沢山ある。それに仮面の人が手身近な所ばかりに手掛かりを置くとは思えない」


「それは私もそう思うけど、それでも何かあればな、って思うのが人間の心理だよ」


確かに危機的状況になれば、無い物ねだりしてしまうかもしれない。

しかし今はその望みや考えは無意味だ。

だからって否定的な事を口にするつもりは無い。


「そうだな。俺も第一ゲームは何か手掛かりが無いか考えていた。あるにはあったが、結局は夢を見させる罠みたいな物だった」


第一ゲームの銀食器は、毒を見分ける道具として使えた。

しかし結果的に銀食器は役には立たず、裕太の精神を余計にすり減らす物となってしまっていた。

俺達が上手く扱えなかったのが悪かっただけかもしれないが、もし実は料理には解毒が無かったと考えると銀食器は悪意にしか思えない。


「…………第一ゲームは、どうだったの?」


優羽が静かに訊いてきた。

訊くから結果は知らないのだろうが、何かを察していてためらっているように思えた。

俺はどう答えるか少しだけ悩んだが、誤魔化さずに簡潔に言うしか無かった。


「…………負けたよ」


「…………」


わずかな沈黙が入ってしまったので、俺はためらわないために続けて答えた。

裕太の吐血する姿を思い浮かべながら。


「第一ゲームは裕太の命が賭けられた。そして俺はゲームに負けたんだ。裕太を…………救えなかった」


こんな事を言えば、優羽の不安を煽るだけかもしれない。

それでも俺は裕太の死を認めるために、優羽に結果を告げた。

一切ぼやかすつもりは無い。

裕太の死は、仮面の人の所業だからだ。

あいつは死んでも罪は消えないと自ら言った。

なら仮面の人の裕太を殺した罪は、永遠に消えないだろう。


「裕太が…、死んだの?そんな………。私、裕太は苦手だったけど、いくら何でも死ぬなんてあんまりに酷いよ。裕太が煌太の親友だったのは知っているから、煌太の事も思うともっと辛い」


優羽は裕太に対して苦手意識があるのは知っている。

それでも俺の気持ちを考えると辛い、か……。


「ありがとうな、優羽。俺の事を考えてくれて。それだけで自分は一人じゃないと思えて気が楽だ」


「でも、きっと私は煌太の辛さを全て理解はできていないよ。私は裕太の知人ではあっても親友じゃない。私は煌太の恋人であっても煌太本人とは程遠くて、ただの他人。けれど私は理解するのを忘れない、怠らない」


優羽は真剣にそこまで言うと、にこやかになる。

それでも優羽の顔の上半分は見えないから、口元が緩んでいるにしか見えない。

けれど爽やかで慈しみに満ちた笑顔だったと俺には分かる。


「だって私は、煌太の未来のお嫁さんだから。常に煌太を支えながら一緒の心でいたいの」


「………優羽」


本当、聞いていて恥ずかしくなる事を言ってくれる。

でもその言葉は有りがたくて、女々しくも俺にとっては純粋に嬉しかった。

ただの他人とは言ってはいたが、間違いなく優羽は俺の気持ちを一番理解している人だ。

例え上辺だけでも、気持ちを理解してくれる人がいれば心強い。

恐れは緩和される。

本来なら俺が優羽を励まし続けなければいけないのに、なぜ俺が奮起させられているのだろう。

……いや、いいんだ。

支え合い、助け合うのが一番の理想的な良い関係だ。


「充分に俺と優羽の心は一緒だ。それはこれからも。だから生き残ろう。生き残って二人で一緒に未来を生きよう」


「うん……!」


優羽は力強く頷いて同意してくれた。

俺達の今の全ての言葉は、甘い妄想の妄言に過ぎないかもしれない。

それでも心の強みだ。

人間にとっては心は尊く、概念的な存在でありながら大切なものだ。

その心の強みとなる優羽は、俺には欠かせない存在だというのは必然的と言える。


「…少し時間をかけちまったな。探索を続けよう。生き残るためにも行動しないとな。未来を語るのはそれからだ」


「そうだね。私が喋り過ぎちゃった。次はどこを探そうか?」


「さっき調べたタンスのように、箱とかの形状をした物が良いかもな。その方が物が隠されている可能性が高そうだ」


またアルバムみたいに嫌な物があるかもしれない。

しかし何らかのヒントを探し出さなければ話にならない。

今の調子では不利になっていくだけだ。


「確かに物を隠すなら箱とかかもね。もしかしたら相手は重要な物を煌太の視覚には入らないようにしているのかも。視覚に入らないと人は意識できない。それに煌太は盲目の私に気を使わないといけないから、余計にね」


俺と優羽の意見はまとまり、引き出しやら箱の中身を探す事にした。

しかし意外にも俺達の当ては外れたのか、いくら箱の類を調べても中身は空ばかりだ。

仮面の人に読まれているのか分からないが、どうも上手く踊らされている。

だからといってすぐに指針を変えるわけにもいかない。

そんな事をすれば俺達は同じ道を行き来する愚かしい人みたいだ。

もし間違っていても、決めた事は確信に至るまでやり続けていかなければいけないものだ。


「よいしょ、っと」


優羽は山積みにされていたスクールバックから、重みを感じたものだけを取り出した。

それからチャックを探すのに手間をかけながらも、何とかバックを開ける。

それで優羽はバックの中を漁りながら俺に訊いてくる。


「んー?どうかな、何か使えそうなの入っている?」


「よく見えないな。まずは取り出してみてくれ」


優羽が何か丸いような物を掴んでいるのは見えた。

その丸い物体は手のひらの大きさで、特別変わった物ではないように思える。

優羽は慎重に丸い物体を手にして、バックから取り出した。

一見、それは陶器のよく分からない物としか認識できないが、床に置いた音で察しがついた。


「あ、これ………」


優羽はもう一度丸い物体を掴み、軽く振ってみせた。

すると陶器の中身からはジャラジャラと鈍くぶつかる金属音がした。

この金属音は誰にだって聞き覚えがある。

硬貨同士が衝突した音だ。


「貯金箱、みたいだね。けっこうお金も入っているみたい。ずっしりと重いし」


「でも見た所では蓋は付いてないな。多分、割って開ける古い型の貯金箱だ」


「なら割るしかないね。どうしようかな」


貯金箱の中にある硬貨を取り出すために割るにしても、不用意に割っては危険だろう。

優羽は盲目だから、陶器の破片に注意できない。

しかし陶器とは思ったより頑丈で割れづらい物だ。

部屋はコンクリートだから幾分かは割りやすいにしても、相当の勢いをつけないと割れないはずだ。


「トンカチとかあれば良いんだけど、今はある物で割るしかないよね。探す時間も悩む時間も惜しいから」


「何をする気だ?」


優羽は答えずに貯金箱をスクールバックに戻してしまい、チャックを閉じた。

それからスクールバックの手提げを握りしめて高く持ち上げる。

そしてそのまま力強く床に向かって叩きつけた。

油断していなくても、つい体が一瞬だけすくんでしまう大きな音が鳴った。

陶器のぶつかる音は優羽の居る部屋に響き、貯金箱は確実に大きく割れただろう。

優羽はスクールバックを再び開けて、床に向けて逆さにして振る。

意外にも綺麗に割れたみたいで、陶器は大きな破片を三つと欠片をいくつかを落とすだけだ。

もちろんスクールバックから出てきたのは陶器の破片だけでは無く、何十枚もの百円玉硬貨が出てきた。

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