第9話 予選。先生は、ここから入れません
王都へ向かう馬車には、三人分の弁当と、八つの記録球が載った。
球は一個、銀貨一枚。
水路の仕事の収入と学園の教材費で買い、番号を刻んだものだ。
以前の学園に置いてきた六つとは、別の球だった。
レナの父親は、宿代を寄付してくれた。
ルチアは、使途を書いた領収書を送ると言った。
父親の援助で娘を特別扱いしないことも、先に話し合った。
レナはそれを聞いて、いつもの顔で頷いた。
大会には、三十二の学園が集まった。
予選の障害コースを通過した上位十六校が、旗の争奪戦へ進む。
個人試験の合計点では、決まらない大会だった。
受付で三人の名前を登録すると、審判のタリンが規則を渡した。
ルチアは、その場で読む。
「予備の選手がいない場合も、参加は可能ですね」
「はい。ただし登録した三人以外への交代はできません」
練習場で、全員へ青い防護結界が配られた。
衝撃が一定量を超えると、その選手は退場になる。
境界から出ても退場。全員退場すれば敗北。
敵陣の旗を、自分の陣の印へ運んでも勝利する。
危険な術は、結界が保っていても審判が止める。
フィールドは、四十メートルと三十メートル。
教員は境界の外へ立ち、声援はできるが、試合中の戦術指示は禁止。
新しく解析した結果を送るのも、当然、場外援助になる。
「試合が終わったあと、控室で振り返りをしても?」
俺の質問に、タリンは該当する条項へ線を引いた。
「認められています。予選は各校の終了鐘、本戦は勝敗の宣告が区切りです。次の開始まで、指導の時間を取れます」
俺は球の番号を申告し、使用を許可された。
記録自体を証拠として提出する時は、係員が封印して受領番号を付ける。
俺の帳面も見せると、タリンは「丁寧ですね」と笑った。
前の職場では、記録を渡す時に一番困った。だから、誰の術をいつ撮ったか、立会いの署名も残していた。
予選の始まる直前、カイが俺へ言った。
「先生、困ったら、どうする?」
「三人で声をかけ合う」
「先生が答えを知ってても?」
「試合中は、渡せない」
彼は少し考えて、二人を見た。
レナが拳を出した。
ミナも、その上へ手を置いた。
開始の鐘が鳴った。
最初は動く足場だった。
ミナが薄い壁を足場の端へ立て、揺れの小さい場所を作る。
カイが先に渡って、二人へ着地点を示した。
次の通路には、冷気で固まった蔓が絡んでいた。
レナは大きな火球を撃たず、輪を縦へ傾けた。
通る場所だけを温め、三人が肩を寄せて抜ける。
最後の区画で、術式の石が落ちてきた。
一発ごとに道が塞がる。
レナが前へ出ようとし、ミナが呼び止めた。
「次が落ちるまで、待って!」
彼女は落ちた石の横へ、二枚の壁を斜めに出した。
三つ目の石が、壁を滑って通路の外へ転がる。
カイが笑い、レナの腕を引いた。
三人の終了鐘が鳴った。
時間は、九十二秒。
制限の百二十秒より、二十八秒早かった。
順位が出るまで、三人は俺のそばで座っていた。
誰も、零点の話をしなかった。
掲示板へ紙が張られた。
丘陵学園。十二位。予選通過。
カイが先に跳ねた。
レナが彼の背中を叩き、ミナが袖で目元を押さえる。
俺も肩から力が抜けた。
別の場所では、王立学園の三人が一位の欄を見ていた。
セドリックがこちらへ気づき、まっすぐ手を上げた。
俺たちの目標は、まだ、その先にあった。




