第8話 三枚の壁と、走るための道
ミナの壁は、強い。
そして、重い。
旗を守らせると、相手の攻撃をよく止める。
ただし、レナの射線と、カイの進路まで止まった。
カイが壁の脇を回るたび、俺は反対へ逃げて旗を取る。
「守るなら、全部塞いだ方がいいと思ったんです」
ミナが言った。
「壁をなくすのは、怖いです」
俺は頷いた。
水路の実習では、割れた壁から水が流れた。
その後、彼女は厚みを増す練習ばかりしていた。
俺は、紙で小さな壁を三枚作った。
記録球には、昨日のミナの術が入っている。
一個の球には一個の記録しか入らない。上書きする前に、必要な形をノートへ写す。
生徒たちも、その作業を一緒にするようになった。
「前の壁と同じくらいの土を、三つに分けてみよう。弱くはなる。だから、それぞれ違う仕事をさせる」
一枚は旗の盾。
一枚はレナが顔を隠す場所。
もう一枚は、カイが方向を変える足場。
最初の三枚は、全部倒れた。
二度目は、旗の前の一枚だけが残った。
三度目、カイが足を乗せた瞬間、足場が沈む。
「俺、軽く踏んだんだけど」
「斜めにしてしまいました」
ミナは悔しそうに、土から手を離した。
俺が直し方を言おうとすると、カイが先にしゃがんだ。
「真っ直ぐでいい。向きを変えるのは、俺が風でやる。ここ、靴一個分あればいいから」
彼は地面へ、靴の輪郭を描いた。
ミナがその下へ、厚い三角を描き足す。
二人の相談を見ていたレナが、紙の壁を動かした。
「私のは、ここが空いていると助かる。輪を向こうへ出してから、私はこっちへ走れる」
午後には、三人の形ができた。
ミナが両手を置いているあいだ、必要な場所へ小さい壁を立て直す。
ただし、離れた地面を無限に動かせるわけではない。
届く範囲を石で示し、俺たちはその中で何度も走った。
最後の一回、俺が壁を避けて旗へ向かうと、カイが俺の前を横切った。
一歩だけ、足元の風が靴を持ち上げる。
彼は低い壁を越えて着地し、そのまま反対側の旗へ走った。
俺が振り返ると、レナの輪が道を塞いだ。
回り込む二秒のあいだに、カイが旗を持ち帰る。
「取った!」
猫耳が、立った。
ミナが息を切らして笑った。
レナは、俺の旗をカイから受け取って、軽く振った。
「先生相手に勝っても、本番に勝ったことにはならないけど」
「だが、十九秒で終わる時とは違う」
俺の返事に、三人が同時に頷いた。
大会まで、あと五週間。
俺が「苦手なことをもう一つずつ」と言うと、ミナが手を上げた。
「得意なことも、もう一つずつ決めませんか」
俺は彼女を見た。
「苦手ばかり考えると、試合で何をすればいいか、忘れそうです」
もっともだった。
俺は黒板を二つに分けた。
カイが風で粉を飛ばしかけ、全員に止められた。
レナは、三拍の輪。
カイは、止められる一歩。
ミナは、通り道のある壁。
それぞれが、自分の手で書いた。
一番下へ、大きく三人の名前を並べた。
今度の紙には、零点が一つもなかった。




