第7話 勝ったあと、何になりたい?
レナの父親が訪ねてきたのは、模擬戦から三日後だった。
仕立てのいい服を着た、痩せた男だ。
「大会へ出すと聞きました。娘に、また恥をかかせるつもりですか」
俺は応接室へ通した。
レナも呼ぶかと聞くと、父親は少し迷い、頷いた。
本人がいない部屋で、本人の出来なさを話し続けるのは、避けたかった。
「父上の期待は、わかっています」
レナは座る前に言った。
「だから、今回は自分で出ると決めました」
父親が手袋を握った。
グレイス家は、代々、王都の警護に火の魔術師を出してきたという。
一秒以内で火球を撃てない娘を見て、自分の教え方が甘かったのだと思った。
それで、毎晩、同じ試験を繰り返させた。
「これまでは、私が出ないと決めたことになっていました」
レナが言った。
「父上が、出すなと言っても」
男は、しばらく喋らなかった。
俺は校庭へ案内した。
火の輪で囲んだ三つの範囲を、ルチアが水で確かめる。
中へ置いた紙は焦げず、外側の枯れ草だけが焼けた。
三拍で終わる術だが、その間、誰も紙へ近づけなかった。
父親は、火が消えたあとも立っていた。
「こんな火を、見たことがない」
「私もです」
レナは、胸を張ったまま答えた。
「次は、もっと長く保てるようにします」
彼は、大会の日程を聞いて帰った。
謝罪の言葉はまだなかったが、娘を馬車へ乗せようとはしなかった。
その日の進路の授業で、俺は黒板へ書いた。
勝ったあと、何になりたい?
カイが、手を上げた。
「そもそも、勝たなくても決めていい?」
「もちろん」
「なら、配達。風便の人、あの坂を荷物持って走ってるだろ。かっこいい」
レナが驚いた顔をした。
ミナも、少し笑った。
カイが肩をすくめる。
「俺も強い人は好きだよ。でも、届いてありがとうって言われるのも、好きだ」
ミナは、ノートを見てから言った。
「家の手伝いを続けたいです。父は石工で、土台を直す仕事もしています。ただ、私は材料を渡すだけで、いいと思っていました」
「今は?」
「自分で作るところまで、やってみたいです」
俺は二人の言葉を、黒板へ書いた。
レナは腕を組んだまま、何も言わなかった。
午後、三人と町の消防詰所へ行った。
そこで見せてもらったのは、延焼を防ぐために草を焼く、細い火だった。
熱を扱う仕事は、敵を焼くことばかりではない。
レナは質問を重ね、帰る直前、袖口を握った。
「大会が終わったら、ここへ見学に来てもいいですか」
隊員が、勤務表へ日付を書いて渡した。
彼女は、それを試験結果の隣へ挟んだ。
晩、ルチアと募集案を直していると、彼女が笑った。
「先生は、この町の就職案内に詳しくなりましたね」
「俺が転職したばかりだからな」
「この先も、こちらにいるつもりですか」
俺は筆を止めた。
前からずっと、王立を見返したかった。
復職を申し出られたら、どんな返事をするか、考えた夜もあった。
だが今日、黒板へ書いた三人の職業には、王立へ戻る道が要らなかった。
「まず、ここを来年も開けたい」
ルチアが、書き損じた紙を裏返した。
「では、そのための募集案を作りましょう。大きい言葉より、三人が何をできるようになったか、書きたいです」
俺は、空いた場所へペンを下ろした。
麦畑の水路を守った話から、書き始めた。




