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第6話 首席は、やっぱり強かった

町の祭りの準備が始まった頃、校門に見慣れた制服が現れた。

青い上着。襟の銀糸。王立学園の、上級生の印。


「クランツ先生」


セドリック・アインは、俺を見て頭を下げた。

十九歳。王立学園の首席で、雷の魔術師だ。

以前、俺が担当した一般講義にも来ていた。


「祖母の家へ戻ったら、先生が町で働いていると聞きました」

「元気そうだな」

「先生は、少し痩せましたね」


それを聞いたルチアが、後ろで腕を組んだ。

俺は話題を変え、三人を紹介した。

王立の名を聞いてレナが顎を上げ、カイの耳が寝る。

ミナは、隠しかけたノートをもう一度机へ置いた。


セドリックは大会に出るという。

挨拶のあと、彼が稽古場を見ると、レナが先に言った。


「模擬戦をしてもらえますか。大会と同じ、旗を取る勝負で」


首席は、俺を見た。

俺は三人の同意を確かめ、ルチアへ頼んだ。

彼女の監督で、威力を抑えた術だけを使う。三人対一人。

十分な広さの校庭に、左右の旗と境界を置いた。


試合は、十九秒で終わった。


ミナの壁が立つ前に、セドリックが横へ移動した。

レナは火を出しかけ、射線にカイがいるのを見て止める。

カイが慌てて風を束ねた時には、首席はもう背後にいた。


雷が轟いたわけではない。

彼は靴底へ小さく術を流し、足が地面を離れる瞬間だけ速度を変えた。

三人の旗を抜き取り、自陣へ戻る。


旗の布が、朝風に揺れた。


「もう一回」


レナが言った。

次は二十六秒だった。

その次は、二十二秒。


俺は、そこで終わりにした。

レナが唇を噛んだまま、旗を地面へ突き立てる。


「本番も、こんなふうに終わるの?」


返事を急ぎそうになって、俺は口を閉じた。

勝てると言えば、それで今日は帰れる。

だが、十九秒の差は残る。


「今日のままなら、終わる」


カイがうつむいた。

ミナが両手を膝へ揃える。

レナだけが俺を睨んだ。


「だったら、何を変えればいいんですか」


俺は、旗と旗の間に線を一本引いた。


「三人とも、セドリックへ術を当てようとした。誰も、向こうの旗を見ていなかった」


首席が頷いた。


「僕も一対三の撃ち合いなら、同じ勝ち方はできません。皆さんが僕を追ってくれたので、空いた場所を走りました」


レナが、彼の顔を見直した。

嫌味は、そこになかった。


俺はセドリックに許可をもらい、短い動きだけを記録した。

五メートル以内で、一度止まってもらわなければ、俺の球には入らない。

彼が見せたのは、踏み込み一回分だった。


再映した雷は、細く、靴底へ吸いついていた。

大量の魔力があっても、使う場所を絞っている。

レナはそれを見て、自分の手を開いた。


「私、形が一回できたくらいで、強くなった気でいた」

「一回できたのは、前より強くなったということだよ」


セドリックが答えた。


「僕は、この一歩に二年かかりました」


帰り際、彼は三人へ言った。


「本番では、仲間もいます。今日より、ずっと強いです」


レナが頷いた。

カイも、耳を上げた。

ミナは壁の横へ、空いた通路を指で描いた。


首席が帰ったあと、三人はもう一度旗を立てた。

レナが俺を振り返る。


「先生。今度は旗を守る役、やってください」


俺は盾を取った。

腕力も魔力も首席には届かない。

それでも、三人が最初の相談をする時間には、付き合えた。

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