第3話 火球を小さくするのは、いったんやめよう
レナは、三日続けて失敗した。
大きい火球を平らにしようとすると、端が吹き上がる。
投げないまま置いておくと、中心が熱くなりすぎる。
俺が思いついた方法も、うまくいかなかった。
彼女の指の位置を変えてみたら、火がさらに大きくなった。
水の結界にぶつかり、ルチアの袖が濡れた。
「先生、わかってるんですか」
レナが言った。
俺は記録球を机へ置いた。
「今の指の指示は、違った。すまない」
彼女が、黙った。
謝られると思っていなかったのだろう。
「魔力の流れは見える。でも、君の身体で何ができるかは、俺の身体では試せない。少しずつ、確かめたい」
前世では、生徒の実験が失敗すると、手順の読み違いを先に疑った。
自分の説明がわかりにくかった可能性を、後へ回した。
二度目の教師でも、その癖は残っていた。
再映を繰り返し、目が痛くなった。
俺は休憩を頼み、三人と校庭の日陰へ座った。
カイが、レナの失敗を真似して両手を広げる。
「中へ戻すと、だめなんだよな。じゃあ、外へ逃がせば?」
「外へ逃がしたら、火事になるでしょ」
「全部じゃなくて、ぐるっと」
彼は指で、丸を描いた。
俺も、その丸を見た。
火球を小さくする。
教師の俺まで、その考えから離れられていなかった。
必要なのは、小さい同じ物ではないかもしれない。
休憩の後、輪を作った。
中心を薄くし、外側へ魔力を回す。
一度ではできなかった。
二度目も、片側が崩れた。
三度目に、掌の前へ赤い輪が浮かんだ。
レナが息を止めた。
俺は、その肩へ触れそうになり、手を下げた。
「息は、続けて」
輪が、三拍分だけ残った。
それから、静かに消えた。
誰も、すぐ喋らなかった。
レナは自分の掌を見ている。
カイが、そっと拳を上げた。
彼女は少し迷い、その拳へ自分の拳を当てた。
「……丸くなっただけじゃない」
口ではそう言った。
それでも、帰る前にもう一度、輪を作った。
夕方、ルチアが帳面を持ってきた。
学園対抗大会の募集要項だった。
三人ひと組。予選では、障害物のある場を通過し、役割を分けて魔術を使う。
本戦は、旗を取って自陣へ持ち帰る試合。
「入賞できれば、来年の応募も増えると思います。町へ、学校を続ける話をしやすくなる」
俺は、王立学園の名を見つけた。
毎年、決勝へ来る。
去年の優勝も、その前も。
見返したいと思った。
俺を切った主任に。箱へ戻した、六つの記録に。
生徒のためだけ、というきれいな理由ではなかった。
「出たいです。ただ、三人にも聞きたい」
翌朝、その話をすると、レナが一番先に返事をした。
「王立も来るんでしょう。出る」
ミナは募集要項を読んだ。
「防ぐ魔法も、使えるんですか」
「もちろん。旗を守れる」
カイは、机へ肘をついた。
「まず、俺の風を止めるところからだな」
自分の問題を、自分で言った。
俺は頷き、授業の予定を書き直した。
その頁には、初めて三人の行き先が載った。




